アオギスは希少な魚とされていることから、その生息域は非常に狭く、かつては東京湾より以北の全国にも見られましたが、水質汚染や浅瀬の埋め立ての影響により生息域が徐々に縮小されてしまい、現在では北大西洋、主に東アジアの南日本から台湾と分布は限られています。これまでに韓国・インドで確認された例はありますが、それぞれ1匹の捕獲例があるだけであり、生息しているかは定かではなく報告が途絶えています。
アオギス:日本での分布
なお日本における生息地は計8カ所でその多くは本州・四国及び九州に囲まれた瀬戸内海、その西部の福岡県東部沿岸から大分県北部沿岸に広がる豊前海と西日本の一部でのみ確認されており日本固有種と言っても過言ではありません。
アオギスSillago parvisquamisは,かつて は東京湾だけでなく,伊勢湾,和歌浦,吉野 川河口,別府湾・豊前海,宇部市厚東川河口, 北九州市沿岸,鹿児島県吹上浜などに生息し ていたといわれていますが,今ではまとまっ て捕獲できるのは豊前海だけとなってしまい ました。
(引用:海洋生物環境研究所)
なぜ絶滅に瀕しているのか?
アオギスはなぜ絶滅の危機にあるのか。現在は残念なことに生態の調査や研究の情報が少ないことから明確な理由は明らかになっておりません。アオギスはかつて東京湾など日本各地の淡水の影響のある砂泥干潟に多く見られましたが、繁殖や産卵の為、水の澄んだ砂泥干潟に生息するアオギスにとって、高度経済成長による干潟の開発により干潟が埋め立てられてしまった為に浅瀬が減少し、水質の悪化によって徐々にアオギスの住みかが奪われていったことが最大の要因でしょう。
干潟再生のシンボル
餌環境の悪化としてアサリの激減も原因の一つと言われています。大分県北部や山口県南部の市場では近年出荷された記録があり、絶滅危惧種と言われながらも漁業資源として利用されていました。環境省の定めるレッドリストとレッドデータブックで絶滅危惧種IA類に指定され、干潟に強く依存する生態から「干潟再生のシンボル」とされています。現在では漁業的な養殖は行われていませんが、下記の通り研究は進められているようです。
海洋生物環境研究所はアオギスの研究を行い、繁殖や累代飼育に成功している。近年、繁殖させたアオギスを東京湾に再放流する計画もあったが、かつて東京湾に生息していたアオギスとの遺伝的同一性が確認できず、中止となっている。
(引用:Wikipedia)
アオギスの歴史
江戸時代から昭和40年前後まで、浅瀬に脚立を立ててアオギスを釣る「脚立釣り」が東京湾の夏の風物詩でした。江戸の大名の余暇な時間の使い道として当時の江戸湾(東京湾)での釣りが始まり、やがて庶民の間でも流行したことから江戸の粋な趣味文化として確立したと言われています。
脚立釣りとは
音に敏感なアオギスを驚かさないように高い脚立を立てて登り、その上に腰を据えて日がな長い竿から釣り糸を垂らして釣るという特殊な釣り方は人々から親しまれていました。船頭が時折、様子を見に現れ、場所の移動をさせてくれたり、飲み水や弁当を届けてくれたりもしたそうです。この光景は、初夏の江戸の風物詩として浮世絵に描かれており、日本最古の釣りの案内書といわれる「何羨録」に書かれている釣りの手法でもあります。かつては広大な干潟が広がっていた東京湾でしたが、昭和30年代から開発によって干潟が埋め立てられアオギスの生息域も徐々に減少して行き、昭和40年代にはアオギスとともに脚立釣りの文化も完全に姿を消しました。
アオギスは釣れるのか?
アオギスは水深の浅い干潟に生息し、聴音に敏感なことからアオギスを釣るのは容易ではなく、神経質な魚なので警戒心が強く水面の近くに寄ると音に驚き逃げてしまうのです。その為、脚立釣りという釣り方が発達し、シロギスよりも大きく引きも強い為、かつては江戸の釣り人を魅了した人気の魚でした。しかし現在では、絶滅危惧種であるアオギスは生息域の少なさから希少性の高い魚であり、釣りの対象になることは少ないです。
アオギスの釣り方
特徴の似たシロギスと間違うことも殆どかもしれません。前述した通り、西日本の一部では釣れることもあります。投げ釣りで狙うこともできる為、投げ釣り専用のタックルも多く、シーズンに入ればライトタックルでも狙うことができます。 砂地に生息するため砂浜海岸であれば特に藻場周辺やかけあがり、ゴロタ石付近など起伏のある個所を狙うと良いでしょう。釣れる時期は7~10月が釣りやすいです。
アオギスの食べ方
一般的に食べられているキスというのはシロギスのことですが、アオギスもキスの仲間であるのでその味は美味とされており、シロギスの調理方法と同様です。肉は白身で甘みがあり、味も淡白なのでさまざまな調理方法と相性が良いです。
アオギスを使った料理
オーソドックスなのはプリッとした食感を感じられる刺身ですが、その他の食べ方としては天ぷらや塩焼き、お吸い物等があります。特に天ぷらはカリカリの衣が甘みと旨味を閉じ込め逃がしません。一般的にアオギスの味はシロギスより劣るとされていますが、まったく食べられない訳でもありません。一般的な新鮮魚の選び方のように、目が澄んでいて鱗に艶があり体色の綺麗なものを選ぶと良いですね。しかし希少な魚の為、一部の地域では売られていることもあるようですが、手に入ることは稀なので本物のアオギスを食べる機会はまず少ないでしょう。
アオギスが見れる場所
最後に幻の魚アオギスを見ることができる場所を紹介します。現在では釣ることはおろか、見かけることが難しいアオギスですが、浦安市の郷土博物館で展示されており、こちらで見ることができます。
公益財団法人海洋生物環境研究所から、アオギスを寄贈していただき、郷土博物館に展示しています。かつて東京湾に生息していたアオギスですが、埋め立てや環境の変化により、現在では姿を見られなくなってしまいました。閉鎖的な水槽で飼育の難しいアオギスの展示は、9年ぶりとなります。この貴重なアオギスを多くの皆さんにご覧いただき、身近な海に関心をもってもらいたいと思います。
(引用:浦安市ホームページ)
まとめ
アオギスの生態と特徴をご紹介しました。前述の通り、比較的澄み渡った豊かな干潟がないと生息できないアオギスは現在、絶滅に瀕しており西日本瀬戸内海西部、豊前海の干潟にのみ生息していますが、いつ姿を消してもおかしくない状態であることを考えると、希少な幻の魚であることはお分かりいただけましたでしょうか。だからこそ、その美しい姿を一目見たいと思う方も多いはずです。体形もよく似ているシロギスが釣れたと思ったらアオギスだったなんてこともあるかもしれませんね。とは言え個人的な意見ですが、アオギスは絶滅危惧IA類に指定されている魚種のため、運良く釣れてもリリースすることをおすすめします。アオギスが戻るには澄み渡った干潟の再生や水質の環境が改善され、餌となる貝類や砂イソメなどがもっと増えることが条件となるでしょう。そしてまた江戸前の豊潤な海の幸として食べる機会が実現できることを望むばかりです。