(恋しさのあまり胸の内を口に出せば、縁起の悪いことが起こりそうなので、朝顔(桔梗)の花のように人目に立たぬようにしよう)
桔梗をひっそりと咲くイメージとし、目立たぬように想いを内に秘めている心情を詠んだ歌です。若干ネガティブなイメージとして桔梗を捉えているようですが、人目を偲んでという在り方を美徳としていた時代の潮流からは、桔梗を美しく表した一首といえます。
作者不明 巻14-3502
我が目妻(めづま)人は放(さ)くれど朝顔のとしさへこごと我は離(さ)るがへ
(私の愛しい妻を皆は引き離そうとするけれど、朝顔(桔梗)のように大切にして何年でも決して離れることはありませんよ)
可憐に咲く桔梗の姿が思い出される歌です。花言葉のなかった時代に詠まれていながら、桔梗の花言葉「永遠の愛」にぴったりの一首です。愛しい妻への心情が桔梗を通して伝わります。
桔梗の花が楽しめる名所
秋の七草として親しまれる桔梗。開花時期は6月から9月頃、新暦では夏の候となります。この頃に桔梗が美しく咲く姿を見ることができる名所を紹介します。花言葉「誠実」や「勝利」などを思い起こしながら眺めると、いっそう花を楽しめそうです。
桔梗を愛でられる名所は各地に多く、その繊細な美しさを求めて桔梗ファンが集います。桔梗の群生する光景をたのしめるスポットから、期間限定の特別拝観としているお寺まで、さまざまあります。その一部を紹介します。
桔梗の寺 天得院
京都屈指の紅葉の名所・東福寺。その塔頭のひとつ天得院は、桔梗の寺として知られています。杉苔に覆われ庭に咲く桔梗が楽しめる6~7月と、紅葉が美しい11月の年2回のみ、特別拝観を行っています。
桃山時代に作られた当初から桔梗が植えられていたという天得院。こぢんまりとした枯山水庭園には300本以上の桔梗が植えられていて、一面に咲く桔梗は見応えが満点です。
自然界そのままの桔梗が群生している姿を再現
桔梗の花のシーズン6月~9月のうち特別拝観を6月~7月のみとしている理由は、残りのシーズンは桔梗のために使う期間としているからです。ここでは桔梗の自然な生態を維持しています。植樹されたような洗練さではなく、まばらに点在する桔梗は桔梗自体が間合いを取って生えてくる姿です。
拝観期間は枯れた花を摘んだりといった手入れをし桔梗を楽しんでもらい、拝観が終わったら、人の手を入れず花をそのままにしておいて、種が自然に地面に落ちて目が出るのを待ちます。そのため桔梗が自生する姿を楽しめるのです。
晴明桔梗も印象的 晴明神社
安倍晴明を祀る晴明神社は、京都一条戻橋にあった晴明の屋敷跡に建立されています。桔梗を楽しめる桔梗苑があり、境内には桔梗苑も含めておよそ2000株の桔梗が植えられています。6月中旬から9月頃に渡り、コバルトブルーと白の可憐な花が咲き誇る景色は見応えがあります。
鳥居、晴明井などいたるところに晴明桔梗が掲げられ、御守りや御札、絵馬などにも晴明桔梗が印されています。桔梗の開花している期間限定で授与される「桔梗守」は桔梗の花があしらわれている可愛い御守りです。
明智光秀ゆかりの「桔梗寺」 谷性寺
京都府亀岡の古刹谷性寺(こくしょうじ)。創建は平安時代と古く、明智光秀ゆかりの寺で「光秀寺」とも呼ばれます。6月~9月のシーズンには光秀が家紋として使用した桔梗が咲くことから「桔梗寺」ともいわれています。
夏には境内に光秀を偲んで植えられた桔梗が咲き誇り、桔梗寺と呼ばれるようになりました。さらに、近隣の土地に植えた桔梗が現在では5万株にまで拡がり、全国最大規模の桔梗の名所となりました。青紫色に加え、白やピンク、八重の桔梗も見ることができます。
桔梗の花言葉は気品に満ちていながら悲しい一面もあった
誠実さをイメージさせる花言葉をいくつも持ちながら、桔梗の花言葉が怖いといわれる背景には悲しい言い伝えがありました。しかし、桔梗の花の美しさには何の因果もないことで、古来より人々に愛されてきた人気の花ゆえの噂なのかもしれません。