「菜食(ベジタリアン)のススメ」で参考文献として挙げられている書籍も、論点や引用の仕方に偏りが見受けられます。
人は食肉に向かないは言い過ぎ?
私たちは肉食の習慣を当然のことのように思い、日常的に肉を食べているが、人間は本来、肉食には適していない。
(引用:「健康面からの菜食のススメ」菜食のススメ)
これは米ジョージタウン大学医学部教授であり、医学博士のウィリアム・ロバーツ博士の言葉として、サイト上に引用されているものです。博士といえど、すべてを鵜呑みにはできません。
そもそもヒトは雑食性なので、肉食にも菜食にも、100%適応しているわけではありません。どちらか一方だけから身体の成長と維持に必要な栄養をすべて摂取することは、まず無理でしょう。
とくに、成長期の子どもに動物性たんぱく質は必須です。食生活が偏ると、栄養失調になってしまいます。
レンダリングプラントの肉はハンバーガーになっていない?
Q:牛一頭、生きたまま、丸ごと、シュレッダーにかけて、作る肉は、ハンバーガーに、使われるんですか?
A:基本的にミンチは値段の付かない部位や売れ残った部位の肉を混ぜて作るものです。(中略)生きたまま全部ぐちゃぐちゃにするような解体を行うことはありえません。
なお、ミンチを作る機械はシュレッダーではなくミキサーです。
(引用:YAHOO!JAPAN 知恵袋より一部抜粋)
上記の回答にもある通り、レンダリングプラントの肉がハンバーガーとして使用されることはありません。なお、「菜食(ベジタリアン)のススメ」にも、このようなことは一切書かれていません。
もとは、同サイトの「ハンバーガーが怖い!」という記事です。「ハンバーガーの肉は世界で一番安いところから仕入れる」という内容の中に、レンダリングプラントが絡んできます。
そこで、「レンダリングプラントの肉=安い肉=ハンバーガー」という勘違いが生まれたのだと考えられます。本来は「安い肉=安い飼料が餌」という意図であったのでしょう。
「食卓のお肉ができるまで」の参考文献は正しい?
「食卓のお肉ができるまで」や「菜食(ベジタリアン)のススメ」は全体を通して、人間は食肉に向いていない、食肉は病気を引き起こす原因である、と断言しています。
菜食主義者の偏見だ、と思う人もいるでしょう。しかし、そこに参考文献として挙げられている著書があり、その著者が権威ある研究者であったら、信じたくなりませんか。
「食卓のお肉ができるまで」もとい「菜食(ベジタリアン)のススメ」の参考文献をいくつか取り上げました。「食卓のお肉ができるまで」の信憑性を検討してみましょう。
著者や研究に信頼性はある
菜食に関して、中心となっているのはハーヴィー・ダイアモンドの著作、『ナチュラルダイエットー必要なのは3つの食習慣だけ』(2004、ディスカヴァー・トゥエンティワン)です。
彼はアメリカで栄養科学博士の学位を持っており、健康コンサルタントとして活躍している人物です。
他にもピーター・コックス『新版 ぼくが肉を食べないわけ』(1998、築地書館)も挙げられています。ピーター・コックスはイギリス・ベジタリアン協会初代会長です。
「食卓のお肉ができるまで」は食肉反対派を引用
「食卓のお肉ができるまで」は、研究者の意見に影響を受けて執筆されたことが分かります。しかし、いくら研究者と言えど、彼らの言っていることをすべて鵜呑みにするのは得策ではありません。
食肉は体に悪い、と言う研究者がいる一方で、菜食のみでは体に悪い、と言う研究者もいます。研究者によって、言っていることは様々です。
「食卓のお肉ができるまで」は、「食肉は体に悪い」という反対派の主張のみを参考にしたのです。
食肉肯定派、中立の立場
反対に、食肉を肯定する立場の書籍もあります。
『50歳からは肉を食べ始めなさい-元気で老いない長寿のための食事法』(2014、フォレスト出版)は、東京医科歯科大学名誉教授、藤田紘一郎の著書です。
また、食肉に関して全体を俯瞰した、野林厚志の『肉食行為の研究』(2018、平凡社)は人類学の立場から論理を展開しています。
「食卓のお肉ができるまで」もひとつの側面
「食卓のお肉ができるまで」や「菜食(ベジタリアン)のススメ」を見ると、「こんなにたくさんの著名人が、菜食を勧めているんだ」と思うでしょう。
ただ、それはものごとのほんの一側面にすぎません。
彼らの主張は、絶対に正しいとも、絶対に正しくないとも言えないのです。