人類未踏の地ボストーク湖
人類未踏の地とはどんな所でしょうか。日本に住んで卓上のPCでGoogle Earthを操作している私達は、ともすれば今や人類が知らない場所は無いと勘違いしてしまうかも知れませんが、それは違います。
ヒマラヤ山脈やアマゾンのジャングル地帯には、衛星から見ることは出来ても行けない場所がたくさん存在します。南極大陸にあるボストーク湖も同じ事で、私達はそこに行くことは出来ません。この湖は分厚い氷の下に存在するからです。
南極で発見された最大の湖
ボストーク湖は、横幅40キロメートル、縦長250キロメートル、水深は最大800メートルで、総貯水量5,400立方キロメートルの淡水を湛える湖です。総面積は1万4,000平方キロメートルもあり、氷底湖の中では世界最大のものです。
その大きさを私達が良く知っているものと比較すると、総面積1万8,800平方キロメートルの四国よりはやや小さく、総面積670.4平方キロメートルの琵琶湖との比較では、約20倍程大きいことになります。
湖を覆う分厚い氷
そしてボストーク湖の最大の特徴は、どこにあるのかということです。もちろん南極大陸にあることは既に述べましたし、また緯度・経度のことを云っているのでもありません。云っているのは標高です。
ボストーク湖の水面の標高は、氷床下約4キロメートルも下にあります。つまり約4キロメートルの分厚い氷に覆われているのです。富士山の標高が3,776メートルですので、ちょうど逆さまにした時の山頂ぐらいのところです。
なぜボストーク湖は発見できた?
ボストーク湖の名前の由来は、1957年に旧ソ連が建設したボストーク基地です。ここで南極大陸の探査が行われましたが、ひとつの穴の掘削を進めるうちに、氷の下に大量の水が存在する可能性が浮上しました。
レーダー調査による発見
1万4,000平方キロメートルもの総面積を持ち、しかも氷の下にあるボストークの全容がどうして分かったのでしょう。それは70年代まで行われた氷透過レーダーによる空からの調査によって確認されました。
氷透過レーダーは氷を透過する電波を使用しており、かつ底部の地形にぶつかれば反射して帰って来る性質を持つため、飛行機で空から南極大陸の調査をすることが可能だったのです。このレーダーで得られる断面図を元に掘削計画が練られます。
年月をかけて地底に到達!
2012年モスクワ時間の2月5日、ロシアの北極南極科学調査研究所は、掘削ドリルの先端が氷上から下3769.3メートルにあるボストーク湖の表面に到達したことを発表しました。実に20年以上の年月をかけた末の成果でした。
なんで氷の下に存在できるの?
ところでボストーク湖は、どうして氷の下で凍らずに存在できるか不思議ではありませんか?ボストーク基地は1983年にマイナス89.2度という世界最寒記録(現在では2番目)をつけた場所です。何もかもが凍って当たり前です。
氷床の下の方があたたかい!?
ボストーク湖の平均水温はマイナス3度なので、通常であれば氷結します。ところが上に分厚い氷が圧し掛かっているため、その圧力で水の凝固点が下げられます。不凍湖が形成される条件には様々ありますが、この凝固点の移動によりマイナス10度位までは凍らない場合があります。
他には地底からの地熱の影響や、水の流動による熱の発生があります。2005年にロシア、日本、ドイツによる調査では、GPS観測により重力潮汐による氷床の上下変動が確認されており、これが水を流動させていると考えられています。
ボストーク湖以外にも南極に湖があった!
南極といえば一面銀世界の土地のようにイメージしてしまいますが、実際には「露岩域」という氷が無い地域が2~3%あり、そこには湖がたくさんあります。昭和基地の周辺にも100以上あります。
氷底湖については、2003年に打ち上げられたNASAの人工衛星ICEatによって、2009年で124個、2010年で150以上確認されているようです。そしてボストーク湖はその中で最大級のものになります。
ボストーク湖の大発見!?
2012年にロシアの調査チームがボストーク湖の最上面に到達して以来、各国は遅れを取り戻そうとするかのようにこぞって調査団を送り込みました。全世界が期待したことは、1,500万年前に外界から隔離された湖には、太古の世界の様子がそのまま残っているのではないかという事でした。
新種のDNAを発見!?
2013年7月3日、ボストーク湖上層部に接する氷床コアから、バクテリアや菌類、そして新種のDNA配列を持つ多細胞生物の遺伝子断片を含む、3,507種もの有機体DNAを採取したとする論文が発表され、生物学界を騒然とさせました。
米国のボーリング・グリーン州立大学のスコット・ロジャース教授が科学誌「PLOS ONE」に発表したたもので、これにより極限環境にあっても有機体は幅広く適応生存する可能性を示しました。
深まる謎…生物への神秘に近づけるか?
生命の始まりにおける地球環境は、私達が知る生命の常識からすれば、極めて過酷な環境にあったことが想像できますが、近年では極限環境生物の発見が相次ぎ、その常識は覆されそうになっています。ボストーク湖の研究はその端緒となりましたが、当然反論も多くなされました。
ボストーク湖の平均水温はマイナス3度
ボストーク湖の平均水温はマイナス3度であり、前述のように、上層にある分厚い氷の圧力のお陰で液体のままでいられます。氷河に生息する昆虫などには-10度前後までは活動可能な種もいることから、高圧環境であることを除けば、生命が活動出来得る可能性は十分に見い出せます。
このような環境は、木星の衛星であるエウロパの海と良く似ており、この論文は宇宙を舞台とした生命探査の分野でも注目を集めました。ボストーク湖で生命が維持されるなら、エウロパでも同じかも知れないからです。
学者の予想を超える真実
論文を発表したスコット・ロジャース教授は、英国のオンライン報道メディア「Telegraph」紙で次のように語り、極限環境生物について触れています。極限環境生物の可能性は、即ち地球外生命体存在の可能性を示します。(ここでは日本の産経新聞社の日本語訳を引用します。)
予想をはるかに超える複雑さだった。何も生き抜くことはできないと考えられてきた場所でも、生物は頑強であることを示し、有機体がいかに生き延びることができるのかを示すものだ。生物が存在できる場所とそうでない場所の境界についての考え方が変わるだろう。(引用:産経新聞社2013.7.9記事)
謎につつまれるボストーク湖の噂①
2000年代に入ってからは、各国の南極大陸の調査が進み、南極に関するニュースが世間に向けて報道されるようになりました。しかしボストーク湖に関わるものは、何故か奇妙な印象を受ける報道が多いのです。
新種のDNAは嘘だった?
米国のスコット・ロジャース教授の論文発表は、2013年の事なのですが、この前後には同種のニュースがよく精査されずに垂れ流された為か、はたまた学者同志の反目が影響したことか、情報が錯綜してしまい、一般の私達には真実がどうであったか分かりにくくなってしまっています。
科学論争
新種のDNAという発表には、当然反論も多くなされました。水圧が余りに高圧であることや、複雑な生物が生命を維持できる程の食糧源が無いことなどがあり、これらは科学論争においては正当な反論と云えます。
一方世論においては、2012年2月におけるロシアのサンクトペテルブルグの核物理学研究所の、過去の誤った発表(ボーリング調査におけるバクテリア混入ミス)と混同して伝わってしまいます。
陰謀論
嘘だったという人や、政府の隠蔽工作などの陰謀論も出て来て世論は混乱しますが、この研究調査は州立大学で行なわれたもので、資料公開や論争も科学的態度で行われており、実際には陰謀論の入り込む余地は無さそうです。
謎につつまれるボストーク湖の噂②
ボストーク湖には以前から、巨大な人工構造物が眠っているという噂があったのですが、2005年に動画サイトのYouTubeが設立されてからというもの、これに関連する動画が爆発的にネット上に流されるようになりました。そして2011年頃、グーグルアースで南極に巨大な人工構造物が発見されたという動画が世界的に話題になります。