魚が口を開けているか確認しよう
ハサミやナイフなどを使い、うまく締めることができた場合、魚は動かなくなり口が開いたままになります。エラのつけ根には太い血管があるため、大量の血が出てくるのですが魚が動いている、口が閉まっている状態は絶命していない、締められていない状態です。その際はもう一度同じことをして確実に締めましょう。
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活け締めの手順② 水に漬ける
魚を締めることができた、確認できたら尾を上にして頭を下げるように持ち、水の入ったバケツに漬けます。血液は空気に触れることでかたまり、それ以上出血しないようにする働きがありますが、水に漬けることで固まらなくなります。ですがここで気を付けなければいけない点が2つあります。それは「時間」と「水」です。
水は水でも海水を使う
水に漬ける、とありますが水道水のような真水ではいけません。それには細胞内の塩分濃度が大きく関わっています。細胞と真水では細胞内の塩分濃度に差があるため、浸透圧という力が働き細胞内に水が沢山入っていきます。浸透圧については後ほど詳しく説明しますが、細胞内に水が入ると魚の身が水っぽくなってしまうので海水を使います。
長く漬けても10分まで
水に漬けるのは5分から10分の間にしておきましょう。長く漬けて完全に血を抜いた方がいいのでは、と思われるかもしれません。実は血抜きができるのは心臓が動いている間だけで、心臓が止まると血を送り出すことがないので血抜きもできなくなります。長く漬けても意味はなく、身がゆるんで味が落ちてしまうので漬け過ぎは厳禁です。
活け締めの手順③ 神経締め
神経締めとは、活け締めの中では最もテクニックがいる、最上級の締め方です。難しい分、味もよくなります。手順①で行った締め方は、延髄を切ることで即死状態にし、ストレスを与えず絶命させました。神経締めは脳を壊すことで脳死状態にし、神経を傷つけ死後硬直をより遅らせることが目的です。これは長距離輸送に適した締め方です。
脳に杭を打つ
魚を平な所に置き、安定させたら脳に杭を打ちます。杭はアイスピックのような鋭利な棒が適しています。眉間の間あたりに脳はあるのですが、頭蓋骨や鱗がありなかなか杭は刺さりません。目の少し横あたりを狙い、脳に向かって斜めに差し込みましょう。口が開いたら脳に達した証拠です。
ワイヤーを通す
先ほど開けた穴からワイヤーを通し、動かすことで神経を傷つけます。魚の横には側線と呼ばれる線があるのですが、側線に沿って走っている骨の少し上に神経があります。ワイヤーを上手に通すことができたら骨に沿って見える太い血管を切りましょう。その後は水の中に入れて血抜きをしたら神経締め完了です。
活け締めの手順④ 保冷
手順①→②、または手順③→②の工程が終わりましたら、水から出して冷やします。この際、急いで冷やさなければいけませんが、冷やしすぎてはいけません。これにはきちんとした理由があり、魚の味を落とす原因にもなります。保冷する上で気を付けなければいけない「急いで冷やす」「冷やし過ぎない」という2点を確認していきます。
急いで冷やす
魚に限らずですが、運動する、筋肉を収縮させる際には筋肉内にあるグリコーゲンをエネルギーとして使います。ですが、魚が絶命すると筋肉内にあるグリコーゲンは疲労物質である乳酸に変化します。その際、熱を発してしまうため身が緩んでしまいます。血抜きをした後はできるだけ急いで冷やしましょう。
冷やし過ぎはNG
急いで冷やさなければいけないのですが、だからと言って冷やしすぎてはいけません。できるだけ冷やした方がいいのでは、と氷を魚の上に載せたりするのは間違いです。逆に冷たくなりすぎるため、身が氷焼けしてしまうのです。新聞紙やタオル、ビニール袋などに包み、氷が直接魚に当たらないようにして保冷しましょう。
活け締めの手順⑤ 保存
締めた後、すぐ食べても美味しくはありません。死後硬直のため身が固くなってしまい、旨味成分の熟成も終わっていないからです。活け締めが終わっているため鮮度もある程度保たれているので少し間をあけてから食べましょう。
どうやって保存すればいいの?
魚の身を水に触れさせては絶対にいけません。水っぽくなり味が落ちる上に身が腐りやすくなります。また、魚の切り口から出てくる血(ドリップ)をついたままにしていても味は落ちてしまいますし色も悪くなってしまいます。持ち帰った魚は早く捌き、身をキッチンペーパーや吸水シートで包みラップをして冷蔵庫で保存しましょう。
どのくらい保存できるの?
締めた直後は身も固く、旨味成分も少ないためあまり美味しくはありません。魚の大きさにも寄りますが、歯ごたえがあり、刺身でも美味しく食べることができるのは36時間後と言われています。魚の中には熟成が向かない物もあるので注意しましょう。
活け締めする際知っておきたい重要用語
活け締めについて説明してきましたが、難しい用語がいくつかでてきました。軽く補足した部分もありますが、わかりにくかったと思いますので改めて詳しく解説していきます。理論がわかれば魚以外の料理にも生かすことができると思います。少し生物の用語になっている部分もありますがわかりやすく説明していきます。
知っておきたい用語① ATP
魚の旨味に一番関わっているのがこのATPです。アデノシン三リン酸の略称で、全ての生物の生命維持を司る重要な成分です。ATPは3つのリン酸が高エネルギーリン酸結合で結びついています。激しい動きをするとATPを消費してしまいますが、活け締めにするとATPは減らずに二リン酸、一リン酸と変わり、旨味成分イノシン酸になります。
知っておきたい用語② 浸透圧
これは活け締めの手順②に関わっている、私たちの身近でも利用されている現象です。水は回りの環境に合わせ均衡を保とうとする働きがあります。細胞の内と外で塩分に差がある場合、水を出す、または吸収して濃度を同じにしようとします。魚の細胞内における塩分濃度は0.9%なので真水に漬けると細胞内に水が入り水っぽい味になるのです。
知っておきたい用語③ 熟成
肉においても魚においても、血抜きをした後少し時間を置き、熟成させることで美味しくなります。ですが、旨味成分は菌のように増殖する物ではありません。ある一定の時間を過ぎるとイノシン酸は酸化し、臭み成分に変わっていきます。つまり、旨味成分は元あったATPの数以上にはならないのです。活け締めを行う大きな理由はここにあるのです。
活け締めも練習すれば怖くない
いかがでしたでしょうか。慣れない内は活け締めするのも怖く、躊躇してしまうことがあると思います。しかし、美味しく食べるためには活け締めが必要であることをわかっていただけたのではないでしょうか。せっかく釣れた魚です。美味しく食べられるよう、活け締めを練習し正しく持ち帰りましょう。