今も親しまれ続ける童謡「虫の声」ですが、この歌に「すいっちょん」が登場するのをご存じでしょうか。この歌は1912(明治45)年に発行された唱歌集「尋常小学唱歌」第三学年用に掲載された文部省唱歌で、日本の秋の風情を感じられる歌でも有りますが虫の声と名前をセットで自然と覚えられるので教材としても秀逸な作品です。
童謡「虫の声」とはどんな歌?
松虫、鈴虫、コウロギ、クツワムシ、そして「すいっちょん」と秋の夜を賑やかす虫が揃って登場する素朴で素直な曲で子供も大人も親しめる「虫の声」は日本の秋の原風景が浮かんで来そうです。蛇足ですが、二番のトップバッター「コウロギ」は発表当時キリギリスだったのですが差し替えられてしまいました。
何故かそうなったかと言いますと、その昔の日本、つまり「枕草子」などの古典では「キリギリス」と「コウロギ」を取り違えていたと言う説を採用した為です。「きりきりきりきり、キリギリス」と踏んでいた韻が失われてしまったのは少し惜しい気がします。
歌のトリに出てくる「すいっちょん」
一番までしか覚えていないと言う方もひょっとしたら居るかも知れませんが「あとから馬おい、おいついて、ちょんちょんちょんちょん、すいっちょん」と言う歌詞で二番のトリを務める虫が「すいっちょん」です。
ちゃんと「馬おい、おいついて」と、韻を踏むと同時に本来の名前「ウマオイ」と絡めた歌詞になっているのが、子供が自然を学ぶ教材としても作られた歌なのだと感じさせます。この童謡「虫の声」にトリとして登場した事も、方言だった「すいっちょん」の名前を全国区に広げるのに一役買った可能性は有りそうです。
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「すいっちょん」の飼育方法
「すいっちょん」は棲息している林の草むらなら比較的簡単に見付けられる虫で、夜間で有れば草の上で鳴いているのを、昼間なら若干難易度が上がりますが葉に隠れた裏側を探せば採集は然程難しく有りません。他の秋の虫と同じく飼育は可能ですが、肉食性の昆虫ならではの注意点などが有りますので幾つか大事な点を挙げておきましょう。
前述した通り用意した餌の食い付き具合次第で簡単に共食いを始めてしまいますので、基本的に一匹ごとにケースを用意してあげた方が無難です。「すいっちょん」は小さい虫ですから飼育も産卵まで含めて小ケースで可能ですので経済的にも然程負担は無いでしょう。
ケースには土を敷き詰める
クツワムシやキリギリスと同様にケースに赤玉土を敷き詰めて置けば、繁殖を考えている場合もそのまま産卵床としても使ってくれるでしょう。ただ「すいっちょん」のつがいを一つのケースで飼育してしまうと2~3日でオスがメスに食べられてしまいますので、餌をタップリ与えて共食いを抑えなくてはなりません。
ですが9月以降に捕まえたメスは大抵交尾済みで、つがいで捕まえて来なくても産卵する可能性が高かったりしますので、こちらを狙うのも手です。産卵後の土は年内の内は多少乾燥気味でも問題なく、年が明けた後くらいから卵に水分を与えると孵化が始まります。
他の虫を餌に与える
ここまで記事でご紹介した通り「すいっちょん」は完全な肉食性の昆虫ですので、当然餌はナスやキュウリなどの野菜ではなく昆虫となります。死骸でも生体でもお構いなしに飛び付いてくれますので、近所に採集場所が有る様なちょっとした田舎なら餌には先ず困らないでしょう。
孵化した幼虫の場合は金魚の餌を細かく砕いた物や市販の鈴虫用の餌をケースの底に置いたり、串に刺した輪切りのナスなどの野菜に振り掛けたりして与えますが、幼虫も共食いしますので出来るだけケースは個別にして飼育しましょう。
「すいっちょん」は案外手間がかかる?
ウッカリすると共食いを始めてしまうし、餌は昆虫で一見手間がかかる印象の「すいっちょん」ですが決してそんな事は有りません。昆虫飼育で一番の難敵は適切な餌を用意出来るか、そして用意した餌をちゃんと食べてくれるかですので、悪食とも言える強い肉食性は比較的丈夫な証拠です。
虫の少ない都会での餌
虫に事欠かない地域と違って餌になる虫が中々手に入らない都会の場合はミルワームを購入して与えるのが一番手っ取り早いでしょう。また急場しのぎでは有りますがカマキリの様にかつおぶしも食べてくれます。
「すいっちょん」が鳴かなくなったら
湿度が足りないのか栄養が足りないのか定かでは有りませんが、昆虫ゼリーや砂糖水など甘い物を舐めさせてあげると鳴き声が復活する事が有ります。また霧吹きなどで土を湿らせる事で水分を摂らせてあげると解決する事が有りますので試してみましょう。
「すいっちょん」と鳴く鳥もいる?
お、「すいっちょん」の声がするけど何故か声が上の方から聞こえて来る。なんて事が有ったらそれは虫の「すいっちょん」ではないでしょう。ちょっと蛇足ですが「スイッチョスイッチョ」と鳴く鳥は意外といる様ですのでちょっとご紹介しましょう。
スズメの鳴き声が「すいっちょん」と聞こえる事がある
この動画の様に意外にも何処にでも居るあの身近な小鳥、スズメが「スイッチョンスイッチョン」と鳴く事がごく稀に有ります。紛らわしいですがスズメが草むらで鳴いていたら虫なら先ず出ない葉擦れの音もセットで聞こえて来るでしょうから先ず間違えないでしょう。
シジュウカラやガビチョウの可能性もある
そしてこちらの動画ではシジュウカラの「スイッチョスイッチョ」が聞けます。また大きな声の場合はガビチョウと言う鳥が鳴いてる事も有ります。鳥全般に言える事ですがカラスの様に年々鳴き方のバリエーションを増やす強者も居ますし何かを真似る事も有りますから「すいっちょん」を真似したとしても可笑しくないかも知れません。
「すいっちょん」のあれこれ
ここまで秋の虫「すいっちょん」にまつわる事を様々な観点からつらつらと話題として取り上げてまいりましたが、何処にも収められなかった小さな話をここでまとめてちょっとご紹介する事にしましょう。
「すいっちょん」の目の色が変わる?
どうしてそうなるのか仕組みなどが解明されていないので詳しく説明は出来ませんが、「すいっちょん」は日中と夜中では目の色が変化するのです。保護色的な変化なのかも知れませんが「すいっちょん」の目の色は昼間は薄い緑なのですが、夜は黒みがかった色に変わります。
驚くほど長く鳴く「すいっちょん」が居る
「すいっちょん」のスイーの部分を30秒から1分ほどの長さに伸ばす鳴き方をする「すいっちょん」がごく稀に聞けることが有りますが、これは寿命が近くなり既に鳴かなくなった個体が何らかの弾みで鳴くとそんな鳴き方になるのです。
童謡のトリを飾る「すいっちょん」は共食いもするほどの獰猛な性格の持ち主!
あの張りの有る涼し気な鳴き声からはちょっと想像し難い「すいっちょん」の意外な真の姿をご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。居そうなスポットが近くに有りましたら是非散策のイベントに加えてみて下さい。秋なら鳴いてくれるので見付けやすく捕まえやすい虫ですし、自分の目で観察してみると他にも新たな発見が有るかも知れませんね。