「すいっちょん」という鳴き声をもつ虫ウマオイ!その正体は獰猛な肉食系

「すいっちょん」という鳴き声は童謡「虫の声」にも登場します。「すいっちょん」はその鳴き方から付いた方言での名称で、この虫の本当の名前は「ウマオイ」と言いますが、鳴き声とは裏腹に凶暴な肉食系の虫です。今回はその生態や獰猛な性格、飼育方法などを詳しく紹介します。

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動物図鑑を絵本代わりに育ちました。友達には直隠したニッチな趣味ですが、その分根深くなった気がします。生き物であれば種類問わず何でもウェルカムです。あ、でもゴキブリだけは何故か飛び上がるほど苦手。他の昆虫は平気なのに・・・何だか悔しいです。
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「すいっちょん」とはどんな虫?

一般的に秋に鳴く虫と言えば真っ先に思い浮かぶのは恐らく鈴虫、コオロギ、キリギリス、そしてクツワムシと言った所でしょうか。今回ご紹介するこの「すいっちょん」はその次くらいに上がって来る、言わば「知る人ぞ知る」秋の夜長の彩りとなってくれる虫です。

緑の少ない都会に居るとそれほど聞く機会が有りませんが、下草が生い茂るちょっとした雑木林など湿気が高目の場所を好んで棲息しています。北海道を除く本州、四国、九州に渡って広く分布してますので、日本では古くから全国的に親しまれる秋の風物詩の一つと言えるでしょう。

「すいっちょん」はキリギリス科の虫

「すいっちょん」の愛称で知られる虫ですが本来の和名では「ウマオイ」と言って、バッタ目(直翅目)キリギリス科ウマオイ属の昆虫二種「ハヤシノウマオイ」と「ハタケノウマオイ」を指します。どちらも体長は35mm前後で、成虫は夏から秋の始め頃に鳴き始めますが鳴き声を発するのはオスだけです。

基本的に夜行性では有りますが葉の上で鳴いてくれる事が多いので昆虫としては比較的発見しやすい方でしょう。両種の外見的な差異は殆どなく、専門家であっても見分けるのは難しいのですが鳴き方にはかなりの違いが有ります。

「すいっちょん」は「ハヤシノウマオイ」が正式名称

この「ハヤシノウマオイ」は前述の通り下草の深い林に棲息しており、「ハタケノウマオイ」の方は名前の通り畑の片隅や河川敷の草むらなど比較的開けた場所に棲息しています。「すいっちょん」の通称で親しまれる「すぃーっちょん、すぃーっちょん」と鳴くのがどちらなのかと言うと、正解は林で見られる「ハヤシノウマオイ」の方です。

「ハタケノウマオイ」の鳴き方は前者に比べて「スイッチョ、スイッチョ」或いは「ズイッチョ、ズイッチョ」とかなり速いピッチで鳴くので判別するのは難しく有りません。この違いから判る通り私達が普段「すいっちょん」と呼んでいるのは林に居る「ハヤシノウマオイ」の方の事を指している事が判ります。

「すいっちょん」と言う名前の由来は?

全国区で通じる愛嬌たっぷりの「すいっちょん」と言う呼び名は一体何処から来たのでしょうか。こちらは元々仙台弁や新潟県田神町、三重県四日市市四郷地区での方言での呼び方だったのが広まって今日に至ります。分布が東北と近畿に分かれているのが中々興味深いですが、「すいっちょん」がそれだけ各地で身近な虫だったと言う証かも知れません。

では和名の「ウマオイ」と言う不思議な名前は何処から来たのかと言いますと「スイーッチョン」と言う独特な鳴き声が馬子が馬を追い立てる声に似ている事が由来となって「馬追い」と付きました。

実は恐ろしい「すいっちょん」の生態

秋の風物詩である「すいっちょん」ですがその実態は決して風流な物では有りませんし優雅な訳でも有りません。キリギリス科には元々肉食の昆虫が多く存在しますが「すいっちょん」も例外に漏れず寧ろ気性の荒さではカマキリに引けを取らない獰猛な捕食者なのです。上の動画では澄んだ声からは想像し難いカメムシを捕食している様子が見られます。

トゲで相手を捕獲する強い肉食性

「すいっちょん」の体を良く観察してみると、前肢と中肢の脛節にトゲ状の突起が並んでいるのが見えますが、これは捕らえた小昆虫を逃さず食すのに適した捕食者に相応しい装備と言えるでしょう。

次の動画ではクモを捕らえる瞬間が見られますがカマキリの様な獲物が間合いに入るまでジワリと待ち構える判り易い予備動作が殆ど無く、動きは猪突猛進で接近した獲物を感知した直後に一瞬で捕獲、そして即食事で何とも貪欲な様子が伺えます。

共食いもする獰猛な性格

この動画の通り相手がクモで有っても躊躇しない「すいっちょん」ですから共食いもしてしまいます。しかも幼虫も肉食性ですので、詳細は後述に譲りますが繁殖を含めた飼育を考えている場合は一工夫する必要が有ります。ですが自然とは良く出来た物でこんな「すいっちょん」でも決して無敵では有りません。

ジガバチ類やアナバチ類などの狩りバチやカマキリ類などには逆に捕食される立場ですので食物連鎖の頂点と言う訳では無いのです。また私達人間に対しては全くの無害で、下にある関連記事、最強のアリ「ディノポネラ」や「パラポネラ」の様に毒などの危険は有りませんので、飼ってみたいと考えてる方はご安心下さい。

「すいっちょん」の鳴き声を聞きに行くなら

「すいっちょん」は下草が多い林に好んで棲息するので先ず条件の合いそうな場所を見つけましょう。林と言ってもそれ程深い林の必要はなく下生が確り育つ程度に湿り気が土に有る場所、すなわち木が寄り集まって日陰を多めに作る場所が有れば居る可能性が高まります。本州でも南寄りなら街中の公園の樹木など身近な場所で見掛けられるでしょう。

「すいっちょん」が鳴くのは夏~秋の夜

出現する季節は6月から10月に掛けてと割と長い期間活動してますので、潜んで居そうな場所をジックリ探す余裕が有ります。そして夜行性の昆虫ですので当然ながら活動がより活発になる夜が狙い目です。鳴く時は音を遠くまで響かせようと葉の上に出て居る事が多い為、音を頼りにすれば見付けるのはそれほど難しくないでしょう。

「すいっちょん」が鳴くのは林の中の草むら

そして、発見率の高い環境はこれも当然ながら「すいっちょん」に取って居心地の良い棲息域である林の中の下草と言う事になります。「ハヤシノウマオイ」の鳴き声は上の動画の3:25辺りから確認出来ますが、この鳴き声は繁殖期にオスがメスを呼ぶ為の声なのですが、多少騒がせても意外としぶとく鳴いてくれたりします。

因みに「ハタケノウマオイ」のピッチの速い鳴き声については音量が少々小さいですがこちらの動画で聞く事が出来ますので、是非聞いてみて両種の鳴き方の違いを確認してみるのも良いかも知れません。

「すいっちょん」と間違いやすい虫

キリギリス科の昆虫と言えば代表格のキリギリスやクツワムシ、その他もササキリ、ツユムシなど基本的に草の色を保護色とする仲間なので、昆虫観察に慣れてない人が一見しただけだと「すいっちょん」との見分けは付かないかも知れませんが、それぞれ目印となる特徴がちゃんと有りますのでしっかり抑えて置きたい所です。

ガチャガチャと鳴くクツワムシ

「すいっちょん」と同様バッタ目キリギリス科の「クツワムシ」はメスだと10㎝近くなるかなりの大型の昆虫で褐色部分が大きく目立つのが特徴。個体によっては褐色部分が全身に渡る事も有りますし体高も高くズングリとしています。秋の風物詩としても知名度が有る虫ですが動画で判る通り鳴き声が全く違い「ガチャガチャ」とした声になります。

好む環境は「すいっちょん」と同じく林の下草ですが、その食性は非常に雑多で肉食だけではなくマメ科の植物なども好みます。その中でも特にくずの葉が大好物で飼育下では金魚や亀の餌などでも喜んで食べてくれたりします。

ジ、ジ、ジと鳴くツユムシ

同じくバッタ目キリギリス科ですがこのツユムシは雑食の「クツワムシ」とも肉食の「すいっちょん」とも違い完全な草食性の昆虫です。動画の通り鳴き方も非常に地味でこちらを見付ける方が却って難しいかも知れません。体長は「すいっちょん」に似ており29~38㎜前後ですが形は「すいっちょん」より更にバッタに近くなります。

また褐色部分が大きく違っており、「すいっちょん」は複眼まで褐色となっているのですが、「ツユムシ」の方は羽の付け根のみが褐色で頭まで色が届いていませんので覚えておくと見分けるのに役立ちます。

童謡「虫の声」にも登場する「すいっちょん」

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