ブランド米・ひとめぼれを景品とする応募で問題となった『セシウムさん』の影響は、“ひとめぼれ”へも及びます。支援の為に用意した景品が、セシウムさんの報道で“品質”について懸念する意識へと繋がったのです。
岩手県産の米「ひとめぼれ」の評判が下がった?
番組で用意した米は震災以前(前年)に収穫が行われ、セシウムさんとは全く関係ないもの。しかし、『怪しい』『汚染』などと書かれた映像に、視聴者は品質に不安を抱きます。
“ひとめぼれ”は岩手県から沖縄県まで広域で生産されてる品種です。“ひとめぼれ”というだけでセシウムさんと繋げられてしまっては、農家からすれば迷惑極まりありません。
被害者やネット民の間では「迫害や被害を狙ったやらせなのでは」と感想を抱いた方も。震災から半年で、こんな人間性を疑う文字を並べられる人がいるのだろうか?という疑問からきた感想なのかもしれません。
「セシウムさんのイメージが浸透して売れなくなったら…」と、農家からは廃業を懸念する声が挙げられました。
東北の食品にも影響があった
原発事故が発生した福島県を中心に、東北産の食品は品質が懸念されるようになりましたが、必ず放射能物質の測定が行われ、出回る作物は安全だったはず。それでも、東北産の食品を手に取る人は減少しました。
震災からしばらくの間は、現地の悲惨な様子や放射能の測定値が報道されたり、反対に復興に尽力する人々をテレビで見かけたり。しかし2019年現在では、そういった報道は殆ど無くなりました。
実際、2015年以降の福島県産の米から放射能物質が検知された事実はありません。しかし『セシウムさん』を知っている人物から「セシウムは大丈夫なのか?」と聞かれた事があり、心を痛めたそうです。
東海テレビのマスコット『わんだほ』がセシウムさんと呼ばれる
東海テレビのチャンネル数“1”の形をした白い雲がイメージで作られたマスコット『わんだほ』。雲の胴体が米に見える事で、『わんだほ=セシウムさん』と印象が付いた模様。
セシウムさんと認知された事が関連してか、2017年12月に『わんだほ』の引退が決定します。ですが未だにこのキャラクターを『セシウムさん』と、誤解している人は少なくないようです。
東海テレビの新マスコットは『イッチ―』
2018年1月から新たにマスコットに選ばれたのは、黄色いクマのような『イッチー』。“東海地区の花畑から来た妖精”がテーマで、太い眉毛が愛らしい見た目です。
黄色い胴体は“草原に咲く菜の花”と“ひまわり”を、青い眉毛・目・鼻は“澄み渡る空”と“清らかな川”をイメージしたとの事。新たに、視聴者から愛されるマスコットとなるでしょう。
Contents
東北の食品も安心して食べられる!
『セシウムさん』を知り、新たに食品の放射線量に不安を持った方もいらっしゃるでしょう。しかし心配は無用、東北産の食品も安心して食べられる事をご紹介します。
厳しく設定された日本の食品の放射線物質の基準値
食品の放射線物質の基準値は日本では特に厳しく決められ、これを上回る場合には出荷制限がかかります。震災直後、日本の基準値はヨーロッパの50%と定められていましたが、依然として放射能を懸念する声が強く2012年に改定されました。
日本とヨーロッパの放射線物質基準値の比較
- 一般食品 日本:100Bq/kg EU:1,250Bq/kg
- 乳幼児食 日本: 50Bq/kg EU: 400Bq/kg
- 牛乳 日本: 50Bq/kg EU:1,000Bq/kg
- 飲料水 日本: 10Bq/kg EU:1,000Bq/kg
見比べると、日本人が放射能をいかにシビアに考えているか分かりますね。それ程に日本では安心した基準を持って、食品が流通しています。
放射線物質は体に蓄積されるのか?
水銀やカドミウムなど、身体に蓄積される有害金属のイメージと混同し、放射線物質が体に蓄積しないか心配する方もおられます。しかし放射線物質はこれと異なり、新陳代謝によって体外へ放出されます。
また大人の場合は、仮に毎日1Bqを摂取しても平衡値143Bqを越える事はないとされます。
食品から影響を受ける放射線量の計算
- 食品の放射線物質量(Bq/kg)×食品摂取量(kg)×係数(0.000013mSv/Bq)
100Bq/kgの放射線物質を含む食品を摂取したからと言って、そのまま人体に影響すると考えるのは間違いです。人体に影響する数値は、上記の式で計算する事が出来ます。
放射能が健康に影響を与える数値は?
基準値や式を並べてみても、どれほどの放射能を摂取したら健康に影響が出るのかはピンと来ないでしょう。健康に影響を及ぼすとされる数値は「100mSv」だと言われます。
100mSv以上になってくると、癌(がん)のリスクが高まる等の影響が出ますが、これは生活習慣により癌になるリスクとさほど変わりません。
例えば100~200mSvの放射能を摂取した場合、野菜不足や受動喫煙により癌になるリスクと同等の数値であるとされます。最大だと、1000~2000mSvの放射線を摂取した場合、喫煙者・大量飲酒で癌になる数値と大差ありません。
米の放射線物質は口に入るまでに減少する
玄米が私たちの口に入るまでの間に、精米・炊飯が行われます。この間に約90%の放射線量が減少すると言われており、玄米の時点で限界値の100Bq/kgと仮定しても、口に入るまでには約10Bq/kgとなります。
この数値を式に当てはめ150gのお茶碗に換算すると、身体に影響すると言われる100mSvの摂取量に到達するのは、512万8200杯を食べた時…つまり365日3食、150gのお米だけを食べ続けた場合、4,683年は身体に影響が出ることはないという事。
私たちが自然放射能から受ける線量は、年間平均2.1mSvとされます。福島でメルトダウンがなくとも、自然放射能が存在しますから、東北の食品を遠ざけたところで放射能は我々の身近な存在であると認知する事が求められます。
現在も東北の農産物は嫌厭される?
津波被災があった農地の89%は営農再開が可能となる程、被災地の復興は進みました。農産物を含む製造品の出荷金額は、震災以前の水準値まで回復し、順調と言えましょう。
また2018年7月には、EU側から福島県の食品の安全性を認めて輸入規制が解除されました。農産物の輸出量は震災前の出荷量を越え、好評な様子。他国も認めた食品の安全性を、同じ国民が認めぬわけにはいきませんよね。
セシウムさんが助長した危険意識のように「危険だ」という先入観で終わらせず、放射線物質に関する正確な知識を得る事が求められていると言えましょう。
悪質なテロップ遊びは他のテレビ局でもある?
このセシウムさん騒動の後、不謹慎なテロップを作っているのはこの事件で解雇されたスタッフに限った話では無い、と情報が出回ることになります。『セシウムさん』の他にはどのような悪質テロップが存在したのでしょうか?
悪質ないたずらテロップ「核燃料棒チーズ味」
セシウムさん同様に、視聴者プレゼントの商品名の欄に「“核燃料棒チーズ味”と書かれたテロップを見た事がある」という情報が浮上。ダミーの為、出回るという事はありませんでしたが、全く悪質な内容と言えましょう。
放送されないだけ?悪質なテロップはたくさんある?
テロップを作成する仕事に飽き飽きした人物らが、スタッフの笑いのネタにしようとダミーのテロップにこのような内容を記載するのは、稀ではないと言うのです。出回らないだけ、なのだと…。
しかしやはり、出回らないとはいえ人格を疑われる行為と言えましょう。実際、この様な行為をする人物は、周囲から「モラルが低い」と思われている傾向があるようです。
悪質なテロップは今後なくなっていくか?
セシウムさん騒動からしばらくは控えられるだろうが、根本が改善していないのでまた再発するだろうと、あるテレビ局員は言います。セシウムさんと類似する悪質なテロップが作られる事の、日常性が伺えます。
基本的な人格形成は成人までに出来上がりますが、企業が社員の倫理観や人格形成に目を向けていかねばならない社会が出来つつあるのかもしれません。
放送事故は悪質なものに限らないので、放送事故自体が無くなるという事はおそらくないでしょう。下記の「苗山事件」は、インタビューの最中に突然人が変わったと思われる放送事故を、ご紹介しています。
国際女性デーの集会でもセシウム関連の騒動があった?
2012年3月、東北大震災から約1年後に行われようとした講演会で、タイトルに『セシウム』が使用され別の騒動が発生し、講演会は中止となりました。講演会を行う予定であった人物は、アーサー・ビナードというアメリカ出身の詩人でした。
講演タイトルが「さいたさいたセシウムがさいた」
このタイトルを見て、多くの日本人は「花が咲いた」というイメージを持ったことでしょう。そうであれば、確かに不謹慎と思われるタイトルでしょう。
しかし彼がここで用いたのは、戦前の国語の教科書に載っていた軍国教育に使用された『サクラ読本』の中の『サイタ サイタ サクラ ガ サイタ』という一節。戦争という悪いイメージを、原発と繋げたかったとのことです。
講演は脱原発を訴えるものだった
また「咲く」ではなく「裂く」というイメージで付けたタイトルで、「平和を裂いた」と伝えたかったのだとか。Twitterで拡散された事もあり、「セシウムがさいた」という言葉は瞬く間に知れ渡りました。
しかし彼が伝えたかったのは「放射能に汚染されてしまった地で、今後どのように安心安全な生活を築いていくか」という事。もし彼が公演していたならば…この公演によって気持ちが救われる人がいたかもしれません。
ネタに使われる『セシウムさん』
程なくして日本全国に知れ渡ったセシウムさんは、主にネットで面白おかしく使われるようにもなります。ネタとして使われた『セシウムさん』のご紹介をします。
わんだほのようなキャラクター『セシウムさん』
『セシウムさん』というキャラクターをイメージすると、この画像の見た目のキャラクターを思い浮かべる方も多いかもしません。
東海三県にしか報道していないのに、わんだほ(セシウムさん)が全国的に知られるようになったのもこのキャラクターの存在が大きかったことでしょう。そして後に、セシウムさんとわんだほが同一であると、認識されるようになっていったという訳ですね。
初音ミクが歌う『怪しいお米セシウムさん』
ボーカロイド・初音ミクが歌う『怪しいお米セシウムさん』という曲が、ニコニコ動画にアップされました。1分36秒という短い曲ではありますが、リズミカルで何故か耳に残るという感想が書き込まれました。
無気力Pによる作詞・作曲で生まれたこの曲の紹介欄には、「原発事故以前に収穫された物なので、安心です」と書かれ、歌詞にも「お米を食べよう」と含まれています。
セシウムさんグッズが作られる
セシウムさんと文字の書かれる上に、まるで東海テレビのマスコット「わんだほ」と思われるようなキャラクターがデザインされた、Tシャツとマグカップが作られました。このネットショップでは、他にも時事ネタを元に作られたグッズが販売されています。
セシウムさんのAAが作られる
AA(アスキーアート)という記号を並べて作られた絵が、AA職人によって作られました。AAを登録するサイトがあり、いくつかの種類のセシウムさんがここに登録されました。
登録されたAAはコピペして簡単に他の場所で使用できるので、ネット民たちに様々な場所で使用された事でしょう。
商品名が『セシウムさん』のお米のコラ画像が作られる
問題の報道が米を景品とした応募だった事から、コメの商品名を『セシウムさん』と上書きしたコラ画像も出回るようになりました。こちらも様々なタイプの画像が作られ、広くネタに使われました。
分かっている人の間でやり取りされるのならば問題はないのかもしれませんが、悪い印象に繋がるのであれば、これは報道の二次被害を生み出していると考えられるのではないでしょうか。
セシウムさん騒動は二度と起こしてはいけない放送事故
人を傷つける言葉を安易に用い報道されてしまったセシウムさん騒動を見て、言葉の選び方の大切さや倫理観を見直す事を意識した方も多かったのではないでしょうか?傷をえぐる『セシウムさん』のような放送事故が繰り返されてはなりません。
毎年8月4日を『放送倫理を考える日』とした東海テレビの、今後の躍進に期待しましょう。
柳田哲志アナウンサーに関する記事はこちら
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