アブラボウズってどんな魚?
「アブラボウズ」って名前からして、「油」?「坊主」?つっこみどころ満載な名前をしていますが、実際は上記の画像のように少しぬぼーっとした愛嬌のある顔をしています。画面では比較対照するものがありませんが、大きいものになると人が抱えるのがやっと。こんな風貌をしていますが、「全身が大トロ」と言われるほどにとにかく美味しいとか。そんな「アブラボウズ」について、分類、生態・特徴、食べ方などを通して「アブラボウズ」の謎に迫ります。
名前の由来
「アブラボウズ」は和名を「油坊主」と書きます。この呼び名はアブラボウズが昔から水揚げされていた相模灘近くの、神奈川県三崎地方で呼ばれていた名です。名前のとおり、身に脂(油)をとても多く含んでいたためにそう呼ばれました。
別名「オシツケ」
「アブラボウズ」は別名「オシツケ」と呼ばれています。オシツケとは武士階級に仕える女中がつかっていた言葉で「毒見をする」という意味。「アブラボウズ」があまりにも脂が多く、ややもすると下痢をしてしまうことから、「毒見をする必要がある魚」ということからそう呼ばれていました。古来から、「アブラボウズ」が美味しさと危険さをあわせ持った存在でした。
アブラボウズの分類
「アブラボウズ」はカサゴ目のギンダラ亜目ギンダラ科アブラボウズ属に属する魚です。日本では同じギンダラ科に属する種が他にはギンダラのみしかいません。ギンダラと比べても、「アブラボウズ」はその胴体は丸くて太く、身体の色も全く違うために区別するのはとても容易です。
アブラボウズの生態・特徴
アブラボウズの生態
「アブラボウズ」は最も大きいもので全長183cm、重さ91kgにまで達します。身体は背ビレを二つもち、一つ目の背ビレと二つ目の背ビレの間の間隔は狭いです。幼い頃は下地となる色は暗色ですが、白色の斑があったり横縞があったりしますが、成熟するにつれ、全体的に暗色となっていきます。
アブラボウズの生息環境
「アブラボウズ」は水深400m~1,000mの海の深いところに住む深海魚です。ただ、幼魚の間は、沖合いに流されてくる木片や藻にひそんで暮らしています。成熟するにつれてその活動域をどんどんと広げていき、上述のような深海へと生息環境を広げていきます。
アブラボウズの食性
「アブラボウズ」はその名が表しているように、好んで食べるものも肉食性のものが多く、小型の魚類や軟体の動物、また海底に住むヒトデなどを補食します。深海魚のためその活動性は低く、肉食のものを好むことがその身体の大きな特徴を生み出していると考えられます。
アブラボウズの特徴
「アブラボウズ」の特徴はなんといってもその脂肪分の多さです。水中深くに住むため、身体の約4割が脂肪分でできているといわれています。脂肪分が多くなる理由については、その食性、または水圧が高いために浮き袋が使いにくく、脂肪をもちいて浮力を安定させるため、あるいは深海という厳しい環境の中でいきていくためには養分を蓄えておく必要があるため、など様々な説があります。
アブラボウズの生息地・分布
「アブラボウズ」は、日本では昔から水揚げされていた知見が多く残る駿河湾、相模灘、伊豆大島などの熊野灘以北の太平洋側に分布しています。ただ、日本海側では稀にしか見られません。世界規模で見ると、オホーツク海たカムチャッカ半島、アリューシャン列島からアラスカ湾といった北太平洋の多くでその棲息が確認できます。
アブラボウズの釣り方
「アブラボウズ」は底引き網漁などで獲れるほか、釣り師の間でもその巨体と収穫したあとの美味しい身肉で人気となっています。釣り方としては、従来イカを餌とした餌釣りがメインでしたが、近年はメタルジグなどを使用し、スローピッチでのジギングでの「アブラボウズ」釣り藻多くなっています。
底引き網漁
「アブラボウズ」は魚獲量こそ多くはあまり多くありませんが、沖合いで底引き網漁を営む漁師の間では知られている存在です。食卓に上ってくる多くの「アブラボウズ」がこのルートです。特に、水深が2,500mにまでのぼり湾としての水深では日本一を誇る駿河湾では、この「アブラボウズ」が水揚げされます。駿河湾を拠点とする沼津港では、深海魚の禁漁期間が明ける初秋頃から冬にかけてが魚獲量の多い時期です。
餌釣り
餌釣りはこれまで最もポピュラーだった釣り方で、現在でも多く行われています。餌には「アブラボウズ」の好むイカをまるごと使用したりします。「アブラボウズ」は深海魚ですので、餌が目立つように夜光疑似餌を仕掛けに伴わすことも多いようです。また、海中深く潜らせるために、オモリは2~3kgなどの非常に重いオモリを使用するため、合わせるタックルもそのオモリや「アブラボウズ」のアタックに耐えられる仕様を選びます。
スローピッチ・ジギング
近年は「アブラボウズ」をメタルジグで狙うジギングも増えてきました。用いるメタルジグは900gをメインにその日のアタリダナに合わせ、700~1,000gほどのメタルジグになります。「アブラボウズ」は年間を通して狙うことができるのですが、産卵期となる1~3月は750mくらから少しずつ生活水域をあげて550mにあがってきます。ですので、その期間が「アブラボウズ」のシーズンとなります。
アブラボウズの食べ方
「アブラボウズ」は脂の多い身が美味で古来から食べられてきており、特に水揚げ量の多かった小田原ではソウルフードと呼ばれるほどです。ここでは、そんな「アブラボウズ」のさまざまな食べ方についてご紹介いたします。
刺身
「アブラボウズ」の食べ方の定番はなんといっても刺し身!白く脂ののった「アブラボウズ」は絶品です。獲れたてで新鮮な「アブラボウズ」を薄くきって盛り付けるだけなので手軽なことも利点です。白身の魚ですが、その身は脂分が多いためとても柔らかく、また臭みもないため非常に美味しくいただけます。
煮付け
「アブラボウズ」の食べ方で次にスタンダードなのが煮付けです。煮ることで余分な脂分を取り除くことができるため、少し脂分が苦手な方にも美味しく食べることができます。さらに、「アブラボウズ」は熱を通すことで身がふわふわとして舌に香ばしい食感となるため、煮付け料理にはとても向いている魚です。
バターソテー
「アブラボウズ」は脂分は多くコクのある味ですが、身自体にはクセがないため味付けの濃い料理でもその味に負けることがありません。身も柔らかくふわふわとしているので、ソース次第でさまざまな味を見せてくれます。皮はあまり食用には向かないとされているので、下処理の際には、鱗や皮はきれいにとることをおすすめします。
寿司
「アブラボウズ」の持つ脂分の旨味は、ご飯とも相性抜群です。その味はコクがあるため酢飯とも絶妙に絡み合いますので、寿司として食べるのもまた美味です。
アブラボウズを食べるときの注意点
「アブラボウズ」はその脂分が美味な食味を醸し出しているのですが、一方でその脂分が多いゆえ、脂分を体質的に分解するのが苦手な方や、一度に多量に食べてしまうと下痢をしてしまうことがあるので注意が必要です。昔から食べる際には「毒見」が必要、とまで言われていることを考えると、美味しいからといって食べ過ぎにはご注意を。
アブラボウズに似た魚① クエ
「アブラボウズ」自体、水揚げ量はそんなに多くはなく、市場では稀少な部類に入る高級魚なのですが、さらに高級な「クエ」と似ているために、「クエ」を貴重な魚として取り扱う西日本においては、「クエ」の代替品として、さらに「クエ」と偽って販売されてしまうことがあります。特に食品偽装がメディアで大々的に取り上げられる前の2000年代当初は、残念ながら多く見受けられました。
アブラボウズに似た魚② バラムツ・アブラソコムツ
「アブラボウズ」と同じ深海魚で、「アブラボウズ」となのですが、間違えられやすい魚として、バラムツとアブラソコムツがあります。どちらも脂分が多いために混同されやすいのですが、バラムツ及びアブラソコムツと「アブラボウズ」には決定的に違う部分があります。「アブラボウズ」の脂分は植物性のものに近く食用可ですが、バラムツとアブラソコムツの脂分はワックスエステル、つまり蝋で構成されているため危険です。法律的にも販売が禁じられているので注意が必要です。
バラムツの画像
バラムツもまた深海魚であるので、深海魚らしい暗色の体色が「アブラボウズ」と似ています。全長も大きいところもまた同じです。ですが、全体的なフォルムが「アブラボウズ」と比べ鋭利であり、特に丸い形状が「アブラボウズ」の特徴であるので、知識さえあれば見分けることができます。
アブラソコムツの画像
アブラソコムツもまた深海魚であるため、暗色の体色だけでは「アブラボウズ」と身間違えることがあるかもしれかせん。ですが、アブラソコムツもバラムツ同様、カツオなどの近い鋭利な身体をしているので、その特徴を情報として持っていれば、危険を避けられます。
アブラボウズについてのまとめ
脂分が多く、ふわふわで柔らかい身を持った「アブラボウズ」は、古来から知る人ぞ知る珍味として珍重がられてきました。また、バラムツなどと違い食用可であるため、量にさえ気を付ければ安全な魚です。そして、その巨体から、スローピッチ・ジギングの対象となり、アングラーの方たちからも注目を集めています。最近では居酒屋でも見かけられますので、みなさんどうぞ「アブラボウズ」をみかけたら、その味を堪能してみてください!