リョコウバトが多く生息していた北アメリカ東岸地域は、大きな森林に囲まれリョコウバトの食料となるドングリの実をつけるカシやブナ、コナラなどの森も広がっていました。その一方で土地の開拓を目的とした森林伐採は着実に進み、リョコウバトの貴重なエサ場は規模を小さくしていったのです。
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リョコウバトの絶滅理由⑦羽毛の採取
食肉や家畜のエサとして使われるほかに、リョコウバトの羽毛もまた珍重され高値で売買されていました。人間の欲望を満たすための道具として美しい羽根さえも羽毛布団の材料にされていたという事実は、リョコウバトの絶滅を示す上で欠かすことのできない悲しいエピソードのひとつです。
リョコウバト以外にもいた!人間によって絶滅した鳥類たち
鳥類やほ乳類の祖先は言わずと知れた恐竜です。恐竜はおよそ6500万年前に絶滅したと考えられていますが、その原因は気候変動や隕石の衝突など人間に関わるものでなかったことは確かです。一方、地球の歴史ではリョコウバトと同じく人間の手によって絶滅に追いやられた鳥類の記録も多数残っています。
ドードー
リョコウバトと同じくハト科ハト目に属したドードーはマダガスカル島沖のモーリシャス一帯に生息し、体長が1メートルにもなる飛べない鳥だったとして有名です。動きが遅いことから捕獲が簡単で、人間に飼われていた家畜さえもドードーのヒナや卵を襲っていたと言います。
ロードハウセイケイ
真っ赤なくちばしが特徴であったこの鳥は、オーストラリアの離れ島だったロード・ハウ島に生息していたセイケイということからこの名がつきました。本来は天敵の少ないはずの孤島で絶滅に至った原因は、他の何物でもない人間でした。たまたまこの島に渡った船乗りたちによって食用とされ、その貴重な命を全て失ったのです。
ジャイアントモア
ジャイアントモアはニュージーランドに生息した飛べない鳥です。ポリネシア系の人々がこの地に移り住む前は、ジャイアントの名のとおり体長が4メートル近くあるメスをはじめ10種以上のモアが生息したと考えられますが、やがて食用として乱獲され西暦1500年代頃には絶滅しています。
オオウミガラス
オオウミガラスはペンギンとよく似た姿で、かつては北大西洋や北極圏などの海岸付近に広く生息していました。リョコウバトと同じく繁殖力が弱い鳥で、17世紀ごろからは羽や油を採る目的や、はく製などのコレクション目当ての乱獲が続き1844年に最後のつがいが捕らえられたことで絶滅に至りました。
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聞き覚えのあるあの動物も絶滅の危機に瀕している!
日本の環境省が発表しているレッドリスト(絶滅が危惧される野生種のリストアップ)を見ると、図鑑や教科書で一度は目にした動物や各居住エリアでは昔から名前が知られている動物たちもリストアップされていることに驚きます。
レッドリストはカテゴライズされている
環境省のレッドリストに記載されている種はホ乳類をはじめなんと4,000種近くあり、国内で完全に絶滅したことが確認されている「EX」、野生種のみが絶滅した「EW」に続いて近い将来も含めた短いスパンで絶滅の危機に瀕している動植物がカテゴリーごとにリストアップされています。
絶滅危惧Ⅰ類
すでに絶滅の危機に瀕しているとされるものが絶滅危惧Ⅰ類です。このリストの中には、ラッコやジュゴン、コウノトリのほかベニザケや二ホンウナギなどが含まれ、これまで長い年月の間日本人の食卓を賑わせてきた種も絶滅の危機にあることが確認できます。
絶滅危惧Ⅱ類
Ⅰ類と比較すれば危険性は若干低いものの、明らかに絶滅へのステップを進んでいるとされる種が絶滅危惧Ⅱ類にカテゴライズされています。ウズラやハヤブサ、かつてはどの田んぼにも見られた昆虫のタガメも絶滅の危機が身近に迫っています。
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最後のリョコウバト「マーサ」
リョコウバトの歴史における「マーサ」は、最も有名な1羽として名を残しています。最後のリョコウバトとなったマーサはいかにして現代に語り継がれるようになったのか?その理由についても触れておきましょう。
「マーサ」は最後のリョコウバト
マーサはアメリカの初代大統領であるジョージ・ワシントン夫人に由来する名前を持ち、オハイオ州のシンシナティ動物園の中でその一生を過ごしたリョコウバトです。マーサを一目見ようと詰め掛けるたくさんの人に愛されながら1914年9月1日午後1時、その生涯の幕を閉じます。享年29歳でした。
「マーサ」の死後
一般的なハトの寿命より長く生きながら鳥としての自由を許されることのなかったマーサは、その死後に剥製標本となりワシントンD.C.にあるスミソニアン博物館の一角を終の棲家としながら再び人間の注目を集める存在となっています。
「マーサ」の死は人間にとって意味がある
地球上では気候変動や乱獲などさまざまな理由によって絶滅する種が珍しくない中、マーサだけは特別だと考えられているのはなぜでしょうか?その答えはズバリ死の瞬間です。一つの種が絶滅に及んだ正確な年月日、時刻や場所などここまで詳細な記録が残されているものは世界中を探してもマーサの例の外に該当がありません。
リョコウバトの復活は可能か?
当時センセーショナルな話題として扱われたマーサの死は、さまざまな専門分野で活躍する研究者たちに多くのヒントを与えるきっかけとなりました。遺伝子工学とクローン技術の融合やマーサから採取したDNAによるリョコウバトの生態に関する解析など、すでに絶滅してしまった種の再生が叶う日が来ることも決して夢ではないでしょう。
もしもリョコウバトが健在なら?
あくまで仮説の域を出ない話しながら、現代にリョコウバトが生き残っているとしたらどうかという疑問を持つ人も少なくありません。人間は種の絶滅に配慮しながらもっと友好的に接することができたのではないか?そういった後悔の念がリョコウバトへの想いを強くしているに違いありません。
リョコウバトが私たちに教えてくれること
現代は優れた技術でヒトや動物たちの命を救えるようなった一方で、動物たちを私利私欲の材料に変えてしまう人の存在もまた無くなることを知りません。いつかは人間そのものが絶滅してしまわぬよう与えられた知恵を働かせ、共存という道を模索していくことも必要でしょう。