タンブルウィード!西部劇の謎のコロコロの正体!
そもそも「西部劇」とは、19世紀後半のアメリカ西部フロンティア開拓時代を舞台とした映画・小説のことです。保安官やガンマンが勧善懲悪のために先住民や無法者たちと対峙するという物語の流れが、開拓者精神を持つ白人層に絶大な人気を得て、ひとつの映画ジャンルとして確立したのです。
誰もが憧れる古き良きアメリカン・ヒーロー
テンガロンハットにカウボーイシャツとジーンズ、首にはネッカチーフ、腰にはガンベルトを巻き、携帯ボトルからウィスキーを飲む…そんなハードボイルドの世界に憧れは尽きません。中でも「ウィスキーボトル」は、お酒好きの方にも嬉しいアイテムですよね。この機会に、特集記事からお気に入りを探してみてはいかがでしょう?
決闘シーンに現れるコロコロ
さて、西部劇の見せ場と言えば、それほど詳しくない人でもまず思い浮かぶのが「決闘シーン」ではないでしょうか。生死をかけた男たちが発する一触即発の空気の中、荒廃した大地には乾いた風が吹き荒び、その風に乗ってコロコロと転がってくる「何か草の塊みたいなもの」。
睨み合う時間の流れを象徴するかのように現れるコロコロの存在は、もはや西部劇の醍醐味というべきものです。コロコロが登場しない西部劇を思い浮かべてみて下さい。何だか「これじゃない」感じがしますよね。しかし、この枯葉の吹き溜まりのような物体の正体は何なのでしょうか?
家畜の餌ではなかった !
時代から察するに、近くの牧場から家畜の餌である牧草が転がって来たのでしょうか?そう考えるのが自然な流れですが、実は違います。ならば映画監督が場の空気を盛り上げる演出の為に作り出した架空のゴミ?いいえ、それも違います。牧草でもゴミでもないなら、一体何だというのでしょう。
コロコロの正体はタンブルウィード【回転草】
あのコロコロは、「タンブルウィード」と呼ばれる植物です。「転がる」という意味の「tumble」と「草」を指す「weed」が組み合わせられた単語であり、日本では「回転草」とも呼ばれています。アメリカ乾燥地帯でよく見かけられ、まさしく西部劇の舞台となった荒野に分布しています。
タンブルウィードとは?
西部劇に登場する謎のコロコロが「タンブルウィード」という名前だと知って、長年のモヤモヤが晴れた!という方もいらっしゃるでしょう。日本では馴染みのない植物なので、名前すら知らなかったのも無理はありません。しかし、なぜこの草は「回転」するのでしょうか?
風で転がる球状の枯れた草
タンブルウィードは特定の一種類の植物を指すものではなく、漠然と「風に吹かれて転がるボール状の枯草」を指す呼称や概念に過ぎません。ヒユ科・ヒガンバナ科・ツルボラン亜科・キク科・アブラナ科・ムラサキ科・ナデシコ科・マメ科・シソ科、このすべてが「タンブルウィード」になり得ます。
その中でも代表的なのは、ヒユ科オカヒジキ属のロシアアザミ。普段は他の植物同様地面から生えているものの、枯れて茎が脆くなると根元からポキリと折れます。そしてお馴染みのコロコロで、広範囲に渡り20万個をゆうに超える種子を撒き散らす驚異的な繁殖力の持ち主でもあります。
実は固くてトゲが多い
風に吹かれるまま軽快に転がる様子から、きっと手触りはワラのような干し草めいたものだと思われがちなタンブルウィード。しかし、乾いたマリモのような見た目からは想像もつかない硬さなのです!おまけにトゲも多く、うかつに触るとケガをしかねません。
タンブルウィードはアメリカの植物!?実は違った!
すっかり西部劇でお馴染みとなった「コロコロ」もといタンブルウィード。アメリカ乾燥地帯の荒野に分布していることなどからも、アメリカ原産の植物だと思われる事でしょう。しかし、またしても我々の予想を裏切ってくるタンブルウィードなのです。
ロシアが故郷の植物
先程、代表的なタンブルウィードは「ヒユ科オカヒジキ属のロシアアザミ」だとご紹介しました。とうにお気付きかと思われますが、名前にしっかりと「ロシア」が入っています。そう、ハリウッドが築き上げた一大ジャンル西部劇に欠かせないタンブルウィード、実はロシア原産だったのです!
試練の地で生まれたロシアアザミ
更に細かく説明すると、ユーラシア大陸・ウラル山脈東に広がる草原地帯に生えています。ボール状に生長する株は、秋に実を結ぶと茎が折れ、コロコロと転がりながら種子をばら撒きます。目を見張る繁殖力も、有刺鉄線のように強靭な感触も、厳しい大地で培われたものなのでしょう。
1877年に初めてアメリカで発見
アメリカで初めてタンブルウィードが発見されたのは、1877年のサウスダコタ州バナム郡でのことです。外来種の雑草として米国農務省に報告されましたが、乾燥地帯における家畜の飼料になることを期待され栽培も試みられました。現在もカンザス州などの地域で栽培されているとのこと。
それにしても、遠くロシアの地からどうやってアメリカへやって来たのでしょう?最も有力な説としては、ロシアの農業者が種子を輸入した際に、偶然紛れ込んでいたロシアアザミの種がアメリカに持ち込まれ繁殖したのではないか、ということです。
タンブルウィードはなんでコロコロ回転するの?
知れば知るほどかえって謎が深まっていく不可思議な「タンブルウィード」。そもそもなぜ、「回転する草」の名前がつけられるほどコロコロと転がりまくるのでしょうか?それによって彼らにメリットはあるのでしょうか?これまでにご紹介した特徴のおさらいも兼ねて、もう一度研究してみましょう。
乾燥する時期にもろくなるから
タンブルウィードが西部劇でお馴染みのあの姿となるのは、乾燥の季節・冬です。秋に果実を成熟させたタンブルウィードは、乾燥すると茎がとても脆くなります。そこに風が吹けば、いとも簡単に根本からポロリと地面から切り離され、長い旅が始まるのです。
数キロ以上転がることも
タンブルウィードの行方はもっぱら風任せです。運が無ければフェンスや柵に引っ掛かり道を閉ざされてしまいますが、強運が重なれば何にも邪魔をされずどこまでも行けます。その距離は数百キロに及ぶことさえあるのだとか!荒野をさすらう孤独の旅人・タンブルウィード…いかにも西部劇ですね。
タンブルウィードだけじゃない!旅する植物
風に吹かれて移動するタンブルウィードですが、同じように風の力を借りて自分の子孫を遠くへ飛ばす植物もいます。「風」「種」というキーワードで思い浮かぶ身近な野花といえば…そう、タンポポ。子供の頃、綿毛を息で吹いて飛ばし遊んだ記憶は誰もが持っているでしょう。
在来タンポポと外来タンポポ
タンポポは漢字で「蒲公英」と書き、田舎から都会までどこでも目にすることが出来ます。タンブルウィードがロシアから持ち込まれた帰化種であるように、タンポポにも帰化種がある事をご存知でしょうか?セイヨウタンポポと呼ばれるのがそれに当たります。
見分け方としては、花のすぐ真下にあたる総苞という部分がめくれあがっているのが西洋タンポポ、めくれていないのが在来種である関東タンポポです。夏場でも咲いているタンポポは西洋タンポポにあたり、関東タンポポは春のごくわずかな短い期間に咲きます。
西洋タンポポが関東タンポポを駆逐した?
西洋タンポポは在来種の関東タンポポよりも多くの場所で生育でき、その上繁殖力も高いために「西洋タンポポが関東タンポポを駆逐してしまった!」と誤解をうけることがあります。確かに、普段目にするタンポポはその殆どが西洋タンポポと言って間違いないでしょう。
しかし、在来種の関東タンポポよりも低温に弱く、初春~初夏にかけての寒暖差が激しい環境下では生育できない事も多いのです。関東タンポポも絶滅してしまったという訳ではなく、茎の長さが西洋タンポポに比べ短い為生育場所が限定され、かつ短期間に花が終わっているだけなのです。
他力本願?いいえ、生き残る知恵です
風に乗せて種子を運んでもらう以外にも、他者の力を拝借し分布域を広げる植物はまだまだいます。犬や猫、時には人間など動物の体に種子を付着させるオナモミ、鳥に食べられた果実が種ごとフンとして排出され、そこから芽を出す草花や木…今日もどこかで、何かの種が運ばれているのでしょうね。
タンブルウィードが最強と言われている理由!
まんまるな姿、風に吹かれてコロコロ転がる様子と、可愛らしささえ感じるタンブルウィードですが、「最強」と言われる植物でもある事をご存知ですか?既にトゲを持った硬い植物であることは紹介済みですが、勿論それだけで最強と呼ばれている訳ではありません!
生命力が驚異的
冬には枯れて命を終える見えるタンブルウィードですが、風任せの旅を続ける道すがら自分のDNAを宿した種子を撒き散らします。時に数百キロに及ぶ大移動をするタンブルウィードが、およそ20万個の種をあちこちに落とし、そこからまた新たなタンブルウィードが生まれ、また冬になり…
それを先祖代々くり返すことで、自分達の分布域をぐんぐん広げ、仲間を増やしていくのです。ロシアから持ち込まれたわずかな種子が、西部劇になくてはならない存在とまで言えるレベルに繁殖したのも頷けますね。しかし!タンブルウィードの凄い所はまだあります。
昼間の気温0℃で一斉に発芽
寒い冬、地表に落とされたタンブルウィードの種子はじっと春を待ち、昼の気温が0℃を超えると一斉に芽吹きます。まだ多くの植物や動物にとって凍えるような寒さの中で、タンブルウィードたちはニョキニョキと元気に生長していくのです。実にタフですね!
わずかな水分でも成長
砂漠のオアシスに泉が湧いているように、植物が命を育むためには水という存在が必要不可欠ですね。しかし、このタンブルウィードは落下した周囲の土から得られるごくわずかな水分だけを頼りに生長できてしまうのです。枯れるのはあくまで冬。水枯れとは無縁の植物なのです。
地下2mにも根を張れる
根は、地中もしくは水中に伸びる大事な器官。ここから植物は養分や水分を摂取し、呼吸をし、体を支えます。その根が、タンブルウィードにいたっては最大で地下2メートルまで伸びるというのだから驚きです。これも、不毛の地で生き抜く為に進化した結果なのでしょう。