メアリー・ベルとは
1957年の5月26日、イギリスでメアリー・ベル(メアリー・フローラ・ベル)は生まれました。聡明で、歌が大好きな可愛らしい女の子…しかし、どこか違和感を感じずにはいられない、人間として重要な部分が欠けた異様な子供でもありました。ゆえに「恐るべき少女」と呼ばれてしまう運命をたどる事になるのです。
10歳の連続殺人鬼
メアリー・ベルは、3歳と4歳の少年をその小さな手で殺めてしまいます。この事件は捜査にあたった警察を激しく混乱させ、真相が明らかになった際にはイギリス中を震えあがらせさせました。犯行時10歳・逮捕時11歳という年齢は、作り話かと思ってしまうほど信じがたいものです。
サイコパスの代名詞と呼ばれたメアリー・ベル
ぞっとするような思考と言動を多々見せ、「かわいそう」「悪い事をした」という気持ちがぽっかり抜けていたメアリー。身の回りにも、そういった片鱗を感じさせる人はいませんか?もしいるのであれば、こんな感想を抱くはずです。「この人、サイコパスだな」と。
メアリー・ベルがサイコパスと呼ばれる理由
とても頭の良い子供であったメアリー。その頭脳から紡ぎだされる雄弁と虚言は大人をも霍乱させてしまう程でした。また、自分より力の弱い者を虐げる事に快楽を見い出していたサディスティックな性癖の持ち主で、のちに逮捕された際も弱い者いじめの楽しさを無慈悲に語ってみせたといいます。
サイコパスと精神病者の違い
サイコパスとは、「サイコパシー(精神病質)」という反社会的人格を持つ人物を指す心理学用語です。〝精神病〟という言葉が使われてはいますが、精神疾患に苦しむ全ての人が「サイコパス」ではありません。くれぐれも偏見を持たないよう、正しい知識を持ちましょう。
では、サイコパスに分類される特徴とは具体的にどのようなものなのでしょうか。おおまかな定義としては、『極端な冷酷さ』や『人らしい感情の欠如』があげられます。根本的に普通の人間らしい思考や価値観を有していない、本能的に異常だと感じざるを得ない性質の人物なのです。
サイコパスと呼ばれる人物は、実在するシリアルキラーだけではありません。あの国民的アニメに登場するあるキャラクターが、これに当てはまるとしか思えないとネットを騒然とさせているのをご存知ですか?より詳しいサイコパスについての説明も一緒に記載されていますので、ご一読ください。
メアリー・ベルの悲しい生い立ち
この世に生を受けたメアリーを待っていたのは、優しく愛に満ちた家庭とはかけ離れたものでした。殺人、それもまだ片手で数える程度の年数しか生きていな幼児2人を手に掛けた、極悪人と言われても仕方のないメアリー。その生い立ちは、まさに地獄でした。
薬物依存症の母
母親はベティ、売春婦をしながら17歳の若さでメアリーを出産します。悲しい事に、ベティはメアリーに一切愛情を持ちませんでいた。それどころか危険ドラッグの常用者でもあったため、使用していた薬物をメアリーが誤飲して危うく死にかけるという事故すら起こしています。
逮捕後、メアリーは女性警官に「ママは私を嫌っているの」と言います。「そんなことはないわ。ママはあなたを愛しているわよ」と女性警官が答えるも、「なら、なんで私を置いて行っちゃうの?」と悲しげに続けたそうです。母の愛がない事は、幼いメアリーにもよく分かっていたのでした。
唯一人間として見てくれた継父
娼婦として複数の男性と関係を持っていたベティ。そんな彼女が産んだメアリーの父親は、当然ながら不明です。しかし一応、継父の立場にあるビリーという男性はいました。メアリーを畜生以下に扱うベティと違い、それなりに人間として扱ってくれたといいます。
自堕落なビリーもまた普通の愛情を注いだとは言えませんでしたが、それでもメアリーはどれだけ心救われた事でしょう。何十年も経て垣間見える、彼女の中に残ったほんのわずかの温かみは、間違いなくビリーという存在が作り出したのでしょう。
貧しく愛情の無い生活
メアリーたちの生活は、常に困窮していました。父親の存在があると支給される生活保護が減額されてしまうため、メアリーは継父ビリーを「叔父さん」と呼ぶよう躾けられていたといいます。ベティは娘を置いて頻繁にふらりと姿を消し、残されたメアリーは「叔父さん」と共にあちこちを転々とします。
メアリーは満足にお風呂にも入れず、頭にはシラミがわくほど不潔な子供であったといいます。ベティは、時と共に若さを失っていく自分に心を病み、繰り返し自殺を図っては失敗し、メアリーに当たり散らしました。やがて生活費を工面するためSMプレイ専門の娼婦となったベティは、なんとまだ幼いメアリーを使ったのです。
目を背けたくなる性的虐待
嫌がるメアリーを無理矢理ベッドに押さえつけ、娼婦まがいの事をさせた母親ベティ。当然ながら幼い少女の体で男性を受け入れることは出来ず、口淫を強要します。娘が歯を食い縛り抵抗すれば、首を絞め口を開けさせ、そこに射精させたといいます。この仕打ちは、メアリーが4歳から8歳の頃まで続きました。
ひとりぼっちのメアリー
友達は一人もなく、弟にすら「私がお金を払って、弟に遊んで貰っていた」というメアリー。そのお金は、行きずりの男に体を触らせて得たものであったといいます。9歳になって初めてできた「友達」が、のちにメアリーの共犯者として名前が上がるノーマ・ベルでした。
母親に殺されそうになる
生まれてきた我が子を見たベティの第一声は、「ソレを片付けて」という信じられないものでした。メアリーは1歳の時にベティによって精神安定剤を飲まされ病院送り、数年後には窓から転落しかけたりとたびたび命の危機に瀕して来ました。もしかすると、ドラッグの「誤飲」も「誤飲」ではなかったのかも知れません。
助けられなかった少女
地獄に生きるメアリーに、誰も救いの手を差し伸べることはなかったのです。助けられない、愛されない、むしろ殺されかける…こうした愛情とは程遠い劣悪な環境が、メアリーを殺人鬼にしてしまった遠因であることは間違いないでしょう。最初に無慈悲で冷酷だったのは、母親や周囲の人間なのかも知れません。
メアリー・ベル第一の事件【1968年5月25日】
誰からも愛されず、誰にも助けても貰えず、優しさを知らないまま育った少女。そしてとうとう、悪の芽は花開いてしまいます。1986年、イングランド北部のニューカッスルで最初の事件は起きました。スラム街の空き家で幼児の遺体が発見されたのです。
4歳の男児を殺害
一人目の犠牲者となったのはマーティン・ブラウン君。たった4歳の男の子でした。事件当日、マーティンは午後3時15分頃に駄菓子屋でキャンディを買い、その後は伯母・リタの家でパンを食べています。3時20分頃に外へ出かけ、わずか10分後の3時30分に遺体となって発見されました。
遺体を最初に発見したのは、鳩小屋を作るための木材を探していた少年3人でした。床に仰向けに転がり、口から血の混じった唾液を垂らしていたというマーティン。彼を見つけた少年たちは人工呼吸を試みるものの、幼い男児の命を取り戻すことはできませんでした。
遺体の周辺には薬剤が散らばっており、警察は当初「薬剤の誤飲が死因ではないのか?」と考えました。しかし捜査を進めるにあたってその線は否定されます。検死の結果、脳の出血が少し確認できる意外問題はなく、そうなると考えられる死因は窒息死でした。
そうとなれば首に絞められた痕である「圧痕」があるはずです。しかしそれが全く確認できなかった為に絞殺の線も否定されてしまい、捜査は困難を極めました。最終的に医師が「ひきつけによる突然死」と判断し、幼いマーティンの命は「自然死」という形でいったん終わりを迎えてしまうのです。
マーティン死亡直後、メアリーは部外者を装ってマーティンの伯母であるリタに事件を知らせに行きます。あたかも人づてに聞いたかのように「おばさんとこの子が事故にあったの!場所を教えてあげるわ!」とリタを犯行現場へ案内しようとします。
そして犯行翌日、メアリーは悲しみに暮れる被害者の家を訪れます。「マーティンが死んじゃって寂しいの?」「マーティンの事を思って泣く?」「マーティンを恋しく思う?」などと無邪気に質問をしてきながら、うっすらと微笑みを浮かべていたように見えたといいます。
マーティンの葬儀の際にもメアリーは彼の家を訪れています。「マーティンに会わせて」と言ったメアリーに、「ありがとう。でも、もうマーティンはいないのよ」と母親は言います。するとメアリーは、「知ってる。棺に入ったマーティンの顔が見たいのよ」と笑顔で言い放ちました。
また、マーティン殺害の半月前にも、メアリーとノーマは3歳児を突き飛ばして頭から血を出す大けがをさせているうえ、他には6歳の女児二人の首を絞めるなどしています。こうした暴力を重ねるうち、メアリーの中で人殺しへの欲求がじわじわと膨らんでいったのでしょう。
メアリー・ベルに撹乱させられた捜査
暗礁に乗り上げた捜査から、一体どのようにしてメアリーが特定されたのでしょうか?当時、周辺に暮らす子供たちの中にメアリー・ベルはいました。それともう一人、ノーマ・ベルという同姓ではるものの親族ではない少女。この二人が、更に警察を混乱させることになるのです。
虚言癖に翻弄された警察
非常に頭の回転が速く、息を吐くように嘘を言うことが出来たメアリー。その嘘つきは有名で、警察がマーティンを自然死と発表するや「私が殺したの!」と堂々と吹聴して回るも、誰一人として信じなかった程です。そしてその鬱憤が、メアリーを更なる異常行動に走らせることになります。
メアリー・ベルが保育所に置いた犯行文とは
嘘つきのせいで誰もマーティン殺しを信じてくれなかったメアリーは、事件2日後の夜、近所の保育園に侵入します。器物を破壊し、4枚のメモを残して立ち去るのですが、このメモからメアリー・ベルの痕跡が辿られ、ようやく事件の真相に警察は近づくのです。
犯行文の内容
「わたし コロす だから また くる」「クソったれ わたしたち コロす きをつけろ みっともない ウジムシ」「わたしたちが マーティン・ブラウンを コロしたんだよ ゲスめが」「きをつけな ひとゴロしがあるぞ おマンコと おいぼれたオカマより ポリこうへ」
とても10歳の子供が書いたものとは思えない苛烈な言葉で綴られたメモです。この後もメアリーは遺族を嘲るような態度を取ったり、犯行現場を絵に描いてみせるなど大胆な行動を取りますが、やはり虚言癖のため深刻に捉えられることはありませんでした。小さな殺人鬼は、長い間野放しにされていたのです。
爆発するメアリーの癇癪
メアリーは、自分の思い通りにならない事や意にそぐわない事があると凄まじい癇癪を起こしました。いつ起こるか分からないヒステリーと虚言癖で、周囲から孤立していたであろうことは容易に想像できます。普通であれば、嘘つき・怒りんぼうは嫌われると親に教えられるものです。メアリーには、それがありませんでした。
奇妙な行動と発作的な暴力
5月31日、保育園の警報機が作動します。警官が向かうと、そこには侵入者であるメアリーとノーマの姿がありました。事情聴取をするも前回の保育園侵入については口をそろえて否定。それから約一週間後、ある少年がメアリーとノーマの騒動を目撃しました。
「私は人殺しよ」と叫び、ノーマに飛び掛かり髪の毛を掴んだあげく顔を殴ったメアリー。遺体が発見された空き家を指差して「あの家で殺したの」と喚いていたというのです。ここまで大騒ぎをしておきながら誰も信じなかったという事は、相当な虚言癖の持ち主だったのでしょう。
マーティンが死亡した翌日は、偶然なのか計算なのかメアリー11歳のバースデーでした。その際、ノーマの妹であるスーザンがバースデーカードをくれなかったと怒り、彼女の首を絞めています。幸い悲鳴を聞いて駆け付けたスーザンの父親が二人を引き離したものの、怯えたスーザンはこの日以来メアリーと遊ばなくなってしまったという事です。
メアリー・ベル第二の事件【1968年7月31日】
マーティンの謎めいた死から2か月後、二度目の凄惨な事件が起こります。マーティンの殺害で成し得なかった「自分に注目を向けさせる」という目的のため、メアリーは再び凶行に及んだのです。その幼い胸の奥に、一体どれほどの歪な「愛されたい」という思いが渦巻いていたのでしょうか。
3歳の男児を殺害
2人目は、同地区に住むブライアン・ハウという3歳の男の子でした。彼の姉が弟を捜していると、メアリーが「ブライアン?そこのコンクリートブロックの間で遊んでいるかも知れないわよ」と言います。しかし一緒にいたノーマはなぜかそれを強く否定し、その場から立ち去ってしまいました。
やがてメアリーの言葉通り、コンクリートブロックの間でブライアンが発見されます。時間は夜中の11時10分、小さな体は硬く、冷たくなっていました。鼻には打撲の痕があり、口から血が流れ、遺体の上には草や紫色の花がばら撒かれていたといいます。
ブライアンの傍には、片方が折れ、もう片方がねじ曲がって壊れたハサミが残されていました。メアリーは今度こそ自分の仕業と分からせるため、殺害後にいったん現場へ戻ります。そして遺体の腹部に自らのイニシャルである「M」を刻み、ハサミを使い彼の髪を切り、男性器をも切断したのです。
またしてもメアリー・ベルの嘘によって撹乱された警察
首に圧痕が見当たらず、舌骨も折れた様子がなかったことから、ごく弱い力で少しずつ絞めあげられた窒息死だろうと断定されます。このことから「子供による絞殺」であることが決定づけられたのでした。子供の力による絞殺のため、本来首に残るべき痕が残らなかったのです。
疑われた子供達
ここにきて警察は、2か月前に死亡したマーティンも同じく子供の手によって絞め殺されたのではないかと疑い始めます。やがてスコッツウッドの家庭約1000件を訪問し、3歳~15歳までの子供約1200人にアンケートを配布します。その中にはまさに犯人であるメアリーと、そして彼女に追従していたノーマも含まれていました。
集まったアンケートのうち、一番矛盾点が多かった回答がメアリーとノーマでした。事件の重要参考人として追及を進めるべく二人を尋問してみれば、幼い少女たちは極めて異常な態度をとり、殺人についての質問には始終笑みを浮かべていたといいます。二人の供述はコロコロと二転三転し、だいぶ警察の頭を悩ませました。
そして事件から数日後の8月2日、ふいにメアリーの方から尋問官にこう話します。「思い出した事があるわ。体に草や紫の花をつけた男の子が、そばに落ちていた壊れたハサミで猫のシッポを切ろうとしたの。そして、いきなりブライアンに乱暴しはじめたのよ」