ウバザメは世界中の亜熱帯から温帯にかけて回遊していますが、水温摂氏8度から14度を好むといわれています。夏の間は北の海でよく見られますが、冬になると深海に潜ってしまいます。そのまま数か月海底にいたという記録があり、実際冬になるとウバザメの姿を見ることはありません。深海で何をしているのか、その行動についてはまだ研究が進んでいません。
ウバザメが見られる場所
5月半ばから6月までは英国のコーンウォール、夏はマン島や北アイルランド、スコットランドなどで見られ、ウバザメを見に行くツアーが人気です。日本近海でもかつては多く見られましたが、現在では年に一度見つかるかどうかです。
水族館で見られる?
そもそもウバザメは数が少ないうえに飼育が難しいため、水族館での生体展示はしていません。剥製であれば茨城県の「アクアワールド・大洗」で平成19年4月に網にかかった個体のものを見ることができます。
ダイバーに人気
おとなしい性質のウバザメはダイバーにも人気です。海面近くに現れる時期には、ウバザメと泳げるダイビングツアーなどが組まれています。おとなしいうえに船やダイバーに自ら近寄ってくるため、ジンベエザメと並ぶ人気者です。
ウバザメの群れの大きさ
ウバザメの大群
普段は単独行動をするウバザメですが、ときに大小の群れを作ることがあります。これまでは同じ性別の個体からなる3~4匹の群れから、100匹以上の群れが観察されていました。しかし、2013年11月5日、米ニューイングランド南部で1400匹近い群れが、また2018年にはアメリカ北東部沖で1000匹以上の群れが見つかっています。
大群の謎
ウバザメの目撃記録では、その99%が7匹以下の群れだったそうです。それではなぜ1000匹を超える大群になったのでしょうか。一般的なサメは捕食や繁殖のために群れを作ります。ウバザメの大群には子供も混ざっていたため、繁殖というよりも、単にプランクトンを食べるために集まっていたとの仮説が立てられています。
ウバザメの謎に満ちた生態
一生の90%を深海で過ごす
ウバザメは一生の約90%を深海で暮らし、残りの10%を水面で過ごしています。そのため調査が難しく、いまだに謎が多いままです。航空調査だけでは限界があり、深海での追跡も難しいため、アメリカの研究者らは市民からも目撃情報を集め、研究を進めています。
ウバザメの寿命
詳しいことはまだわかりませんが、寿命は最長100年ほどで、平均寿命は40年から50年ほどだといわれています。繁殖可能年齢は6歳から13歳くらいで、体長5m前後になってからだといわれています。
首長竜と間違えられた?
ウバザメの死体は腐敗すると下あごなどが外れて、生前とはまったく違う生物のように見えることがあります。そのため、1977年にニュージーランドで引き揚げられた謎の生物の死体は、まるで恐竜時代のプレシオサウルスのようだったことから「ニューネッシー」と呼ばれました。
ニューネッシー
その後、引き揚げられた死体の一部を持ち帰り調べたところ、サメのものであるとの結果が出ました。死んだウバザメは下あごやエラ、尾びれなどが先に無くなるため、まるで首長竜のような姿になったということです。しかし、ニューネッシーの死体にはウバザメにはない特徴があるという研究者もいて、確かな結論は出ていないようです。
ウバザメの乱獲
保護種指定
ウバザメの大きな肝臓からは肝油がとれるほか、皮や肉、フカヒレなどが狙われました。動きが遅いことが災いして20世紀に入ってから各国で乱獲され、現在では国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでVU(Vulnerable、危急種、絶滅危惧II類)に指定されています。
ウバザメの保護活動
保護種指定を受けて、イギリス、アメリカ、大西洋での捕獲は禁止され、ウバザメを使った生産品の取引も多くの国で規制されています。夏にダイビングツアーなどが行われるイギリスのマン島では、ボランティアで構成されるウバザメ協会のメンバーが、個体数や回遊ルートの調査を進めています。
乱獲から保護へ
20世紀に乱獲され大きく生息数を減らしたウバザメですが、保護種に指定されたことで研究と保護活動が活発になってきています。近年問題になっているマイクロプラスチックがプランクトンにも取り込まれていることがわかっていますが、ウバザメへの影響が心配されます。
ウバザメのまとめ
研究はこれから
ときには10mにもなる巨体と迫力満点の見た目とは裏腹に、のんびり屋でその生態はまだまだ謎が多いサメ、それがウバザメです。なぜ1000匹を超える大群になるのか、生涯の90%を過ごすという深海で何をしているのか。研究はまだこれからです。
おばあちゃんザメ
大きな口を開けてのんびり食事をし、海面で日向ぼっこをする巨体のウバザメ。鰓裂がしわのようだからというよりも、穏やかなおばあちゃんのようだからウバザメと名づけられた、そんな印象のサメです。いつか個体数が増え、かつてのように10mを超えるウバザメが日本近海でも見られる日がくるのでしょうか。