河内弁は怖い方言?
関西弁と聞くと真っ先にお笑い芸人のテンポが良く途切れることのない掛け合いを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。実はそのように威勢の良い関西の人達からも「怖い」と思われている様です。
河内弁は大阪府東部の河内地方で使われる方言
河内弁は大阪府の東側に位置する河内地方と呼ばれる領域の人々が使っている方言です。河内地方は南北に長いため北、中、南の三つの地区に分けられその土地によって方言も少し異なっている様です。
河内弁は怖いと言われることが多い
インパクトのある話し方や言葉使い、アクセントの強さなどによって普通に話しているつもりでも喧嘩腰のように受け止められてしまうため相手に怒っているのかと誤解され「怖い」と思われることが多い様です。
河内弁はヤクザ漫画などで使われる
任侠映画として有名な勝新太郎主演の「悪名」は八尾で生まれ育った若者の物語で主人公は河内弁を話します。また乱暴で荒々しく強い言葉遣いはヤクザや不良の使う言葉にはぴったりなのでそういった漫画で使われ、悪い印象を持たれてしまった様です。
怖いと言われる河内弁の特徴は?
裏社会の人達を描いた映画や漫画によって喧嘩っ早くてガラの悪い言葉として全国的に広まってしまった河内弁には他の大阪弁とは異なる特有の話し方がいくつかあります。その代表的なものについてご紹介しましょう。
河内弁の特徴①巻き舌
最も代表的な特徴として「ラ行」の発音をする時に巻き舌になることが挙げられます。例えば「コラァー」と普通に言うより「ラ」を巻き舌にして発音すると「ラ」が強調されてただ怒っているというより相手を恫喝している様な印象を受けます。
河内弁の特徴②サ行五段動詞がイ音に変換
サ行五段活用の動詞の語尾がイ音に変換される場合があります。例えば「貸す」に助動詞「た」を付けて「貸した」と一般的には言うところを「貸いた」、「指す」を「指した」ではなく「指いた」、「出した」を「出(だ)いた」等です。
河内弁の特徴③丁寧語の語尾が変わる
丁寧語の「~(し)ます」といった言葉も「~(し)まう」、連用形だと「~(し)まいた」や「~(し)まいさ」と語尾が変わってきます。例えば「昨日買い物に行きました」が「昨日買い物に行きまいた(行きまいさ)」、「明日買い物に行きます」が「明日買い物に行きまう」となります。
河内弁の特徴④否定の言葉で「ひん」や「いん」を使う
否定の言葉も「ひん」や「いん」などといった言葉に変わります。標準語で「出ない」を「出やひん」または「出やへん」というのは他の地域でも聞きますが、語尾に「いん」を付けるのは中河内の特有の言い方の様です。
河内弁の特徴⑤疑問の最後に「け」を使う
疑問文の最後には「け」を付けることが多い様です。例えば一般的に「そうじゃない?」と言う時には大阪弁だと「そうやんか?」と言いますが、河内弁の場合は「そうやんけ?」と少し荒っぽい印象になります。
河内弁の特徴⑥一人称と二人称の言い方
「私」という一人称は男性の場合は「わい」や「わて」、女性は「わたい」や「わたえ」となり比較的わかりやすいでしょう。しかし二人称の「あなた」「お前」を指す言葉に「ワレ」や「おのれ」が多く使われるので自分を指す「我」や「己」と混同しやすく河内弁だと知らないで聞くと混乱を招きます。
河内弁の特徴⑦男性言葉に特徴がある
男性が使ういわゆる男言葉に最も特徴が顕著に表れており、そのためにヤクザや不良少年が登場する漫画や映画などで多く使用され、怖いという印象が定着したとも言えるでしょう。では具体的にどのような男言葉があるのでしょうか。
語尾に「ど」を使う
文末に付ける強調の終助詞「ぞ」が転じて「ど」となったものです。例えば「何を言っているんだ、お前は?」→「何ぬかしとるんぞ、お前は?」、これが「何ぬかしとんど、ワレ?」となり「ワレ」の「レ」は巻き舌で発音すると迫力も増します。
投げかけるときに「のう」を使う
間投助詞の「なあ(ねえ)」が転じて「のう」となったものでこれは比較的何処でもよく聞く言葉です。例えば「今日は寒いねえ」→「今日は寒いのう」、「よく来たなあ、お前」→「よう来たのう、ワレ」と言った具合です。
「けつかる」などの罵倒語を使う
「けつかる」という言葉はもともと「ある」とか「いる」を卑しめて言う言葉で河内弁では相手を罵倒する時に用いられます。例えば「お前何してるんだ!」と標準語で言うところ、これが河内弁になると「われ何さらしてけつかるんじゃあ!」とかなり喧嘩っ早い印象となります。
河内弁の使用例一覧
方言は実際に耳で聞かないとアクセントや独特な言い回しなどがなかなか伝わりづらいところがありますが、使用例をいくつか紹介しましょう。この中には河内に限定されず他の地域で使われている言葉も含まれます。
使用例①
・いちびる(ふざける)→いちびってんとちゃんとしぃや!(ふざけていないでちゃんとしなさい!)・いっこる(行きよる(軽卑語))→いつもいっこるわ(いつも行きよるわ)・いのく(動く)→よう、いのきはる人やなぁ(よく動く人だなぁ)・おどれ、おんどれ(おのれ、お前)→おんどりゃあー!(お前なぁー!)・
使用例②
おもろい(面白い)→おもろい人やなぁ(面白い人だなあ)・ぬかす(言う)→何ぬかしとんねん(何言ってるんだ!)・ねん(だ、だよ)→ひとりで行くねん(ひとりで行くよ)・飲んもる(飲みやがる)→よう飲んもるなあ(よく飲みやがるなあ)・はる(なさる)→何処へ行きはりまんねん(何処へ行きなさりますか?)
使用例③
ほる(捨てる)→この紙ほっといて(この紙捨てといて)・まいっぺん(もう一回)→まいっぺんゆうてみて(もう一回言ってみて)・みぬき、ゆぬき(ゆで卵)→みぬき作って(ゆで卵作って)・めばちこ(ものもらい)→めばちこできてるわ(ものもらいできてるわ)・よす(入れる)→わてもよしてぇ(私も仲間に入れて)・
河内弁は他の大阪弁と違うの?
大阪弁は主に大阪全体の方言をまとめた呼び名で実際には河内弁の他に摂津弁、泉州弁と呼ばれる二つの方言があります。それぞれの方言は周辺地区の影響を受け、またその地域の地理的な状況や環境から言葉にも少し違いが見られる様です。
河内弁と泉州弁の違い
泉州弁は大阪の南西部のあたりで使用されており河内弁と同様に語尾に「け」を付けるのが特徴です。泉州弁の中でも南の方面は紀州弁の影響も多く見られ、また泉州弁には敬語に当たる言葉がほとんど無いため初対面で話すと馴れ馴れしく少し荒っぽい印象を受けます。
河内弁と摂津弁の違い
摂津弁は大阪の北中部周辺~兵庫県の南東部のあたりまで使用されています。江戸時代に大阪商人達が使っていた「船場言葉」という丁寧な言葉遣いが受けつがれているため大阪弁の中でも品のある言葉として認知され河内弁とは対照的だと言えます。
同じ河内弁でも地域によって違う!
河内地方は北から南に長いのでその土地によって違いが見られます。北河内は京都と隣接しているため京言葉と重なるところがあり、中河内が最も周りからの影響の少ない言葉を話し、南河内は隣りの泉州の影響が強く見られる様です。
その土地ごとに様々な方言があることがわかりましたが中国地方には「いんぐりもんぐり」という言葉があるそうです。バンド名にもなっているというこの言葉の意味を知りたい方はこちらの記事も読んでみて下さい。
河内にゆかりのある作家達
大阪出身の作家は名前を挙げたらキリがないくらい大勢いますが、その中には特に河内にゆかりの深い作家もいます。ここでは河内にゆかりの深い作家とその作品についていくつかご紹介しましょう。
今東光:「悪名」
今東光は生まれは横浜ですが昭和26年から昭和50年まで大阪府八尾市に住んでいました。「お吟さま」で直木賞を受賞。河内を題材にした作品も多く、ヤクザ映画で有名な「悪名」の原作者でもあります。残念ながらほとんどの作品が絶版になっています。八尾市にある八尾図書館の3階に今東光資料館が設置されています。
町田康:「告白」
町田康は大阪府堺市の出身でミュージシャンや俳優としても活動していましたが、現在は執筆活動を主に行っている様です。「告白」は「河内十人斬り」をモチーフにした大作で「人は何故人を殺すのか」という重いテーマを主人公を通して描き第41回谷崎潤一郎賞を受賞しています。
三国美千子:「いかれころ」
三国美千子は2018年「いかれころ」で第50回新潮新人賞、2019年には第32回三島由紀夫賞を受賞しています。「いかれころ」というのは河内弁で「踏んだり蹴ったり」という意味だそうです。南河内が舞台となり4歳の少女の目から見た一族の人間模様が描かれています。
河内弁を使う芸能人をご紹介!
大阪出身の芸人や俳優その他有名人は大勢いますが、その中には河内の出身者もたくさんいます。しかし普段芸能人達が河内弁で話すところはなかなか見られません。そこで河内弁を話せる三人の芸能人を紹介しましょう。
河内弁を使う芸能人①お笑いコンビ「和牛」川西賢志郎
吉本興業所属タレントでM1グランプリ三年連続準優勝して有名になったお笑いコンビ「和牛」のツッコミ担当の川西賢志郎は東大阪市の出身です。東大阪市は中河内に属するので河内弁も本場の河内弁だと言えるでしょう。実際漫才では「ラ行」が綺麗な巻き舌になっていてポンポン飛び出す威勢の良い言葉は圧巻です。
河内弁を使う芸能人②俳優・豊川悦司
映画やドラマ、そして舞台でも大活躍の俳優豊川悦司は中河内地方の中心部八尾市の出身です。NHKの連続テレビ小説「半分、青い。」で演じた漫画家秋風羽織役ではネイティブな河内弁を披露して話題になりました。
河内弁を使う芸能人③俳優・山上賢治
「白い巨塔」や「功名が辻」など多数のドラマに出演している俳優、山上賢治は大阪府堺市の出身です。山上賢治のプロフィールを見ると特技の中に「河内弁」と書かれているので、子供の頃から河内弁に馴染んで来たことがうかがえます。
NHK連続ドラマ「半分、青い。」でリアル河内弁が登場!
「半分、青い。」は北川悦吏子脚本の2018年にNHKで放送された朝の連続テレビ小説です。ドラマの中で漫画家を目指す主人公の師匠、秋風羽織を演じたのが大阪府八尾市出身の豊川悦司でした。
第50話でトヨエツが河内弁を使用!
第50話でトヨエツこと豊川悦司が演じた秋風羽織が主人公の鈴愛に漫画の指導をする場面で流暢な河内弁を使いました。秋風羽織は興奮すると河内弁が出るということで、河内弁でまくしたてるところは圧倒されます。