謎の丸い穴の犯人はダルマザメ
論文発表により明らかに
この謎の丸い穴はどのようにしてできたものか想像できますか?昔からマグロだけでなく、クジラやイルカにも同様の傷が確認されており、長い間その原因がわかっていませんでした。イカの仕業であるとの説はあったのですが、それを裏付ける証拠はなく、あくまでも噂の犯人の候補として挙げられているだけでした。
また、後述しますが人為的な要因であるのではないかとの推測が生まれたこともあります。そういった中で、1981年に「マグロの噴火口状の傷の犯人は体長数十センチのダルマザメである」と論文で発表され、ようやくその原因がわかったのです。
古代に見つかった丸い穴
ダルマザメが残した傷痕はいつの時代に見てもやはり不思議だと思われるようで、古代サモアの伝説の文書に、生物のえぐり取られた肉片についての記述があるようです。ウナギや寄生虫、細菌などが犯人として疑われてきたようですが、深海に住む小さなサメだとは誰も考えなかったようですね。
ダルマザメの別名と分布
葉巻ザメ
ダルマザメはヨロイザメ科で、体長が30〜50センチの小型のサメです。そんな小さなサメがいるのかと驚きますね。細長い体型が葉巻に似ていることから、cigar shark(葉巻ザメ)と呼ばれることがあります。水深1,000〜6,000mに生息するといわれている深海魚です。宮城県の気仙沼や小笠原諸島、琉球列島等に分布します。
昼間は水深の深いところに漂い、夜間は浅いところへ上がって餌を取ります。ダルマザメの表面には小さな餌に見える模様があります。この模様を上から見て餌を狙いにきた生物を逆に攻撃するという賢く、凶暴なサメなのです。そして比較的珍しいサメであると言われています。
ダルマザメの生態
大きな相手を恐れない
体調は30㎝程度。子供の頃に学校で使った30㎝定規を思い出して頂けると、その小ささが想像できますね。自分よりも大型の相手に平気で攻撃をします。小学生の頃に国語の教科書の『スイミー』という話を読んで、魚は大きな相手を恐れて逃げ出してしまうような印象があったのですが、ダルマザメにとって相手のサイズは関係ないようですね。
頭部の軟骨が石灰化していて、噛み付く力が強いという点が特徴です。どう猛な肉食の魚であり、ほとんどの時間、水中を漂って過ごしターゲットを探しています。小さいからといって侮れないものですね。
ダルマザメの形態
葉巻状で、ナイフのように鋭い歯を持つ
前述した通り、葉巻のように細長い体形をしているのが特徴です。大きく丸い目が愛らしさを感じさせますが、その下にある口は真横に伸び、まさにサメらしい口をしています。上顎の歯は小さく直立し、下顎の歯はナイフのように鋭く突き立てられ、恐ろしい武器を備えていることが窺えます。
生え変わる歯
ダルマザメの歯は頻繁に生え変わります。捕食の際に酷使している影響からか、ダルマザメは成長過程で15回ほど歯が生え変わるのです。しかも、下顎から生えた鋭い歯は、一度に抜け落ち、全面リニューアルのような形で新しい歯を備えつけるのです。
獲物だとみなしたものに積極的に攻撃を仕掛ける生態であるので、歯がボロボロになってしまっても致し方ないように感じられます。歯が頻繁に生え変わることも進化の過程で身につけたものなのでしょうね。
ダルマザメの攻撃
ただ噛み付くだけではない
ダルマザメが噛み付いた箇所にはなぜ丸い穴が残るのでしょうか。それは、口の吸引力と鋭い歯を備えているからこそできる技で、ターゲットの身体に噛み付くと、そこから自身の身体を回転させて肉を食いちぎるのです。そうして結果的に不思議な丸い痕が残るのです。ただ、傷そのものは小さいためこの攻撃で大型の生物が死ぬことはありません。
潜水艦のゴムカバーにも攻撃
驚くことにダルマザメは生物以外にも攻撃をしたという記録があるのです。それは米海軍が潜水艦の試験潜航を行ったときに起こりました。潜水艦に最新鋭のソナー(音波で敵を察知するもの)を搭載した試験だったのですが、そのソナーのゴムカバーが円形にカットされていたのです。
海軍の推測
海軍は初めての出来事に驚き、なんと海中にスパイが潜んでいて、ゴムカバーを傷つけたのではないかと考えたようです。無理はないかもしれませんね。しかもその被害は1度だけではなくて、その後も何度か同様な例が見られ、その度にあれこれと検討が行われました。
その後、「マグロの噴火口状の傷の犯人はダルマザメ」という論文が世間で発表されたことにより、もしかしてゴムカバーを食いちぎったのもそのダルマザメではないかと考えられるようになり、調査を進めることにより、最終的に犯人がダルマザメに特定されました。今となっては海軍がスパイを疑ったことは笑い話ですね。