ムカサリ絵馬は故人を絵馬の中で結婚させる供養方法
ムカサリ絵馬という伝承を聴いたことがあるでしょうか。この伝統は、古くから一部の地域のみで伝わるもので、それは供養の一種だとされています。
若くして亡くなった人は、結婚をせずに亡くなる人も多数います。中には、未婚のまま亡くなったことを未練に思ってしまう人も居たそうです。
そんな人を安心して成仏させてあげるための方法がこのムカサリ絵馬を称される儀式・道具です。架空の人物との婚礼の様子を絵馬に記して、供養するというものなのです。
山形県の一部地方でのみ行われる伝統の儀式
今回の供養方法があるのはどこなのでしょうか。地元でもあまり聞かないと感じる人は多いと思います。実は一部の地域というのは非常に限定的な物なのです。
伝統として残っているのは山形県の一部地域で、そこでのみ伝統的にのこる儀式となっているようです。今回の記事では、ムカサリ絵馬なる伝統がいかなるものなのか詳細に調べていきます。
さらに、この儀式にはタブーといわれるものもあります。このタブーを犯せば不幸が訪れるともいわれているのです。タブーの内容も含めて詳細に調べていきましょう。
ムカサリ絵馬とはどんなもの?言葉の意味は?
一部地域に残る伝統ですが、聴き馴染みのない人には不明な点も多いところでしょう。いったいどのような内容なのか、ムカサリ絵馬にひめられた言葉の部分から詳細を見ていきます。
「ムカサリ」は婚礼を意味する方言
ムカサリ絵馬のムカサリとは何か、初めて聞く人も多いことでしょう。ムカサリという言葉は、もともとは「迎えられ」という結婚の方言を由来に持つそうです。
嫁に迎えられて去ることから転じてムカサリと命名されるようになりました。ですので、ムカサリというカタカナ表記は誤記になったものが伝わったようです。
絵馬に故人と結婚相手の婚礼の様子を描く
故人の婚礼の様子を記し、それを持って成仏をさせてあげるというものでしたが、では絵馬に描く内容はどのようなものなのでしょうか。
その内容は、主に故人と架空の結婚相手の婚礼の様子を描くというものだそうです。しかし、時代や風潮なども関係しており、描かれる内容はその時々によって異なるようです。
ムカサリ絵馬に書かれる内容には、故人と架空の結婚相手という二人きりのものもあれば、両親や酌取りを務める女性、また、さかのぼれば仲人の参列姿も描かれることも。
また、雄蝶や雌蝶などは描かれ正式な婚礼のシーンが描かれることもあったり、最近の物であれば夫婦二人だけの結婚写真風のものもあったりするそうです。
絵馬には故人の名前や享年を書く
描くものとしては、婚礼の様子以外にも最後に故人の名前や享年も記すのだと言います。誰のものなのか、また成仏を願っての供養の一種なので、きちんとその人が誰なのかを記すそうです。
絵馬を神社に奉納する
婚礼の様子を描いたムカサリ絵馬が出来上がったら神社に奉納します。山形県内においても、一部のお寺でしか奉納を扱ってくれていないので、その数は決して多くはありません。
しかし、奉納を可能とするお寺は古くからこの伝統を行っており、由緒正しい歴史あるところばかりのようです。
基本的には絵師に作成を依頼する
伝統のムカサリ絵馬ですが、では絵馬に内容を描くのは遺族で行ってもいいものなのでしょうか。調べてみたところ、遺族でも描いても大丈夫なのようです。
故人への思いを絵に乗せて描きたいと考えている遺族であれば、自分たちで描くのは許可されているようです。
しかし、どういった理由なのかは不明ですが、やはり通常はムカサリ絵馬師やそれを生業にする専門家に相談し描いてもらうケースの方が多いようです。
やはり専門家に描いてもらったほうが絵馬の中にきちんと描け、文字なども記入できるからではないでしょうか。
ムカサリ絵馬を奉納し死後婚をさせる目的とは?
ムカサリ絵馬を描いて奉納する文化とその手順については大まかに理解することができましたが、ではこういった伝統を使用して死後に婚姻をさせる目的とはいったい何なのでしょうか。
ムカサリ絵馬の目的①故人を成仏させるため
ムカサリ絵馬の目的は、ひとえに故人の死語の幸せを願い、そして成仏させるための行いだといわれています。
結婚という一大イベントをなすことなく死を迎えた人は、やはり若い人が多いです。これからという時期に亡くなる人のことです。まだまだ幸せなことが待っていたはずなのです。
それを経験することなく、若くして亡くなったことにより、未練を残すこともあると思いますが、死後の幸せを願って未練なく成仏してほしいという思いから、絵馬の奉納を行うのです。
ムカサリ絵馬の目的②結婚して初めて祖先として認められるため
今でも残るムカサリ絵馬。近年では先述したような目的の方が意味合い的に大半を占めますが、しかし太古に実施されたムカサリ絵馬ではより狭義の意向も込められていたのだそうです。
昔は結婚は、祖先として認められる大切な行いだったのです。結婚して始めて祖先として認められるために、婚礼前に亡くなるということは祖先に認められずに死を遂げることと同義だったのです。
さらに言えば、特に長男が亡くなった場合は、家を継ぐという本来あるべき形が失われることになります。これを無理やり修正するためにも、儀式を行う意味があったといされています。
本来であれば、家を継ぐ未来があった場合、あるいは長男に限らずとも若くして亡くなったら祖先として認められないといった本来あるはずない未来を避けるための目的もあったということです。
ムカサリ絵馬の目的③オナカマに指示されたから
目的として、シャーマンのオナカマと呼ばれる人物に指示を受けるからという理由もあるようです。実はこの理由や目的は大昔では大半を占めていたといわれています。
シャーマンとは霊的な存在と更新できる人たちのことを表し、中でもオナカマといわれる人物がこのムカサリ絵馬を取り仕切って行ってくれるようなのです。
このオナカマが一連の風習に係り、依頼後に口寄せなどを行って故人を弔ってくれるのです。具体的なオナカマによって行われる内容については後述しますが、こういった風習や目的もあったとされます。
ムカサリ絵馬に関するタブーとは?
供養として伝統的に行われる内容ですが、とはいえタブーとされることもあります。昔からあるものだからこそ大切な伝統なのです。タブーの内容を見ていきましょう。
実在の人物を描くとあの世に連れていかれると言われている
古くから行われている伝統はいろいろと尾ひれや都市伝説がつくものです。このムカサリ絵馬についても決して他人事ではありません。
婚礼を描く内容ですが、内容に描く相手は架空の人物を描かなければならないというタブーがあります。このタブーは実在の人物を描くとその人もあの世へ連れていかれるといわれているのです。
タブーを犯せば、もちろん実在している人を巻き込みませんし、一種の呪いとなってしまう兼ねないので、決してこのタブーは犯してはいけないでしょう。
現在でも残る伝統ですので、万が一遺族が想い人を知っており、その人物を描いてしまったらその人もあの世へ連れていってしまうことにもつながります。タブーということを覚えておく必要があるでしょう。
実際に生きている人の写真を使い亡くなってしまったという噂もある
過去には実在する人の写真をムカサリ絵馬に使用して、その使用された写真の相手が後日亡くなったという噂もあるそうです。この噂は一人のデザイン会社に勤める男性社員がネットで供述しています。
彼はある時遺族から亡くなった息子の架空の結婚写真を作ってほしいと依頼を受けたそうです。両親からは、未婚のまま若くして亡くなった息子がかわいそうで、嘘でも結婚の写真を残したいというもの。
その時依頼された本人は、ムサカリの存在すら知らなかったそうです。しかしその後先輩社員に相談したところ事実が発覚。会社としては引き受けられないが、個人的に引き受けることとなります。
そうして、彼と両親との間で写真の作成が進められていき、新婦の写真を作成しかけた時に、両親からある女性の写真を渡されたそうです。もちろんこの時はタブーについて知っていたので、問いただしたと言います。
しかし、両親いわくこの女性も亡くなっているとのことで、何も問題はないとのこと。謝礼ももらい写真を作りそうして両親は地元に帰っていったそうです。
しかし、その2週間後問題は起こります。なんと新聞にその写真に使用した女性が事故で亡くなったという記事が載ったのです。タブーを犯していたということです。
新聞には写真こそ乗っていませんでしたが、写真に記入した名前の女性が、今回の依頼主である両親の息子さんの遺体を搬送中、病院の前で救急車にはねられたという内容だったそうです。
あくまでも都市伝説であり、風習を理解していないという指摘も
上記のようなタブーですが、しかしあくまでも都市伝説であることを考慮しておかなければなりません。ここまで現代にいたるまでその風習が知られた経緯にはテレビ放送などの過去があるからだそうです。
2000年代に特別番組などで、この儀式が注目されることとなったのです。これにより認知は広がりましたが、一方でその真意や風習を理解せずに誤った都市伝説だけ伝わったといわれてもいます。
本来は死者の幸福や故人を成仏させたいという思いから行われる行為ですが、それが薄れてしまいタブーという一面だけ歪曲し、都市伝説ばかりが先行している形になっているといわれています。
専門的な立場の人からすれば、この儀式の見解について、タブーや異説ばかりが注目を浴びで本質を理解できていないと批判的な指摘もなされているようです。
ムカサリ絵馬はシャーマンと関係がある?
ムカサリ絵馬がシャーマンとどれほど関係性が高いのかも調べていきましょう。実は非常に高い関係があり、ムカサリ絵馬には無くてはならない存在ともいえるのです。
「オナカマ」というシャーマンに故人を呼び出してもらう
まずシャーマンの中でもオナカマという人たちがいます。先述でも話したように、オナカマというのは特に盲目の巫女のことを言います。
この巫女により、故人を呼び出してもらい、ムカサリ絵馬で必須となる故人の情報を本人からもらい受けるのです。個人の様子をここで聞き出していきます。
故人から聞き取りを行い、必要であればムカサリ絵馬を奉納していた
オナカマにより、故人から情報を聴きとった後は、必ずしもすべてムカサリ絵馬が必要になるわけではないようです。どうやら、必要とするときだけ、ムカサリ絵馬をあてがうようです。
必要がある場合は、ムカサリ絵馬に必要な情報を再度集め、その後奉納を執り行うという流れです。これによって、宗教の包括できない部分もすべてカバーできるようになる意味も併せ持っているようです。
オナカマには故人の好みを聞いて実在の人物と死後婚させるという説も
オナカマの役目としては、故人の好みを聞き出して、実在する人物と死後の世界で結婚に導くという勤めも持っているという説もあるようです。
ムカサリ絵馬にも諸説あり、内一つに重大な役目を担うオナカマがいるという者でした。例えば、故人の意中の人を聞き出し住む方向や容姿すらも把握します。
そして、できる限りその人に近しい存在を作ります。また、特には遺族がその家を訪ねるなどして写真を焼き増ししたり肖像画をかいたりして、儀式に用いるようです。
儀式内では、出来上がった写真あるいは肖像画と故人の写真を並べて、祝言を行いムカサリ絵馬を奉納するといった内容になるようです。
ムカサリ絵馬師には幽霊が見える人も!
ムカサリ絵馬に係る儀式の内容や役目を負う人のことについては知ることができましたが、実はムカサリ絵馬の絵師には幽霊が見える人も実在するそうなのです。
ムカサリ絵馬師の高橋知佳子氏は昔から霊が見えていた
幽霊が見えるというムカサリ絵馬の絵師高橋千佳子さんという方。彼女は幼少期から霊が見えていたといっています。
見える時には、黒い影や人の形としてはっきり見えるときもあり、語り掛けてくることすらもあるそうです。しかし、彼女はそれらの存在にそれほど恐怖を感じたことはなかったそうです。