生きた化石とはどんな生物?
近年の生き物ブームによって「生きた化石」という言葉を耳にする機会も多くなってきました。改めて考えてみると、生きた化石とはいったいどういったものなのでしょうか?専門的な響きのする言葉ですからあまり自分たちの暮らしには関係ないように思う方もいるでしょう。
しかしながら「生きた化石」たちは実は身近な動物や植物にも存在しています。
生きた化石は大昔から姿を変えず生き続ける生物
定義は人によって諸説ありますが、この記事では「生きた化石」ははるか昔、太古の時代から姿を変えずに現在も生存している生物のこととし、それら20種についてご紹介していきます。
命の不思議に思いを巡らせながら生物たちの姿に迫っていきましょう。
生きた化石と呼ばれる生物①シーラカンス
この魚は静岡県沼図深海水族館で実際に見ることができます。冷凍された世界的にも大変珍しい標本で今にも動き出しそうなその姿はぜひ一度お目にかかりたい迫力です。
シーラカンスは4億年前からいる古代魚
彼らがこの地球に誕生したのはなんと4億年物昔だと考えられています。ヒトが誕生したのは600万年ほど前であり我々の直接の祖先となる新人類誕生となるとたかだか20万年前と言われていますからいかに昔から地球に暮らしているかがわかるでしょう。
シーラカンスは一度絶滅したと思われていた
この魚の化石自体は度々他太古の生物の化石などとともに発掘されていました。しかし私たちが日常で生きている姿を見かけなかったため、恐竜たちとともに絶滅してしまった魚だとされていました。
確かに泳いでいる姿を見ることもなく、釣り上げられることもなければそのように考えても当然のことです。しかしそれが生きた化石となって現れる瞬間が訪れました。
シーラカンスの発見で生きた化石と話題に
絶滅したと考えられていた彼らはなんとまだ地球上に生きて存在していたことが明らかとなったのです。人類史上初めて生きて発見されたのは1938年南アフリカチャルムナ川にてたまたま漁船の網に引っかかったことがきっかけでした。
種の同定を行った南アフリカ・ロードス大学の生物学教授、ジェームズ・レナード・ブライアリー・スミス氏によって世界的に有名な科学誌「Nature」に投稿され世界に知れ渡ることになります。4億年もの昔から姿を変えず悠然と泳ぐ「生きた化石」の姿はまさに衝撃的でした。
シーラカンスはいくつかの種が属しています。生存している姿が確認されたのはその中で「ラティメリア・カルムナエ」と呼ばれる種になります。他の種はいずれも白亜紀を超えて生存することはかなわず唯一ひっそりと生き残ったのがこのラティメリアでした。
日本でシーラカンスが見つかる日は近い!?
深海魚のメッカである静岡県沼津港深海水族館では以下の様に述べられています。
現在ではこれまでにアフリカ(南アフリカ、コモロ諸島、タンザニア)とインドネシアで見つかっています。日本ではまだ見つかっていませんが、深海の海洋環境は世界中で近しい環境にあるため、「日本にはいない」と断定するほうが難しい、とも言われています。(引用:沼津港深海水族館ホームページ)
日本で生きた化石、シーラカンスの泳ぐ日が見られる日が来るかもしれないと思うとドキドキしてきますね。
シーラカンスをはじめとした深海生物に関する記事はこちらからご覧ください
生きた化石と呼ばれる生物②カブトガニ
続いての生きた化石は「カブトガニ」です。こちらも馴染みのある方がいらっしゃるでしょう。砂浜などで見かけることもあります。比較的馴染みある彼らですが、こうした固い鎧に覆われ、長い尾を持つ今の姿になってから何と2億年も月日が流れていると言われています。
カブトガニが現れたのは5億年以上前
彼らがこの地球上に誕生したのははるか5億年以上前のことです。そこから少しずつ姿を変えて今の姿になったのが2億年前と言われています。そんな生き物が泳ぐ姿がこちらの動画になります。5億年も前からこのような姿で泳いでいると思うと雄大な気持ちになってきますね。
カブトガニはカニではなくクモの仲間
カブト「ガニ」と名前がついていますがカニの仲間ではなくクモの仲間に近いとされています。日本でも岡山県笠岡地が繁殖地として有名で生きた化石を目にすることができます。
カブトガニは数が減り天然記念物になっている
そんなカブトガニですが近頃の地球温暖化や環境破壊の影響を受けてその数は減少の一途をたどっています。日本でも繁殖地となっている伊万里市、笠岡市のカブトガニは国の天然記念物に指定され、愛媛県西条市では県の天然記念物に指定されています。
絶滅に瀕している動物たちをカテゴライズするレッドリストには絶滅危惧種に登録されています。
カブトガニの青い血液
カブトガニの青い血液が医薬品の検査に利用されていることはご存知でしょうか?そもそも血液が青い理由は私たちのように鉄分を含まず、銅を含んでいるため青くなります。
この青い血液が毒素エンドドトキシンが薬品や食品に含まれていないかを確認するためにとても有効です。さらには抗がん剤としての可能性も秘めており、エイズウイルスの増殖を抑える働きまであります。
この人にとって奇跡の存在ともいえる血液を採取するために大量に捕獲され、なるべく体を傷つけないようにして再び海に戻していましたがやはり命を落とす個体は多く、人によってその命を脅かされており早期の解決が望まれます。
カブトガニを食用とする文化を持つ国も
中国やタイなどのアジア圏で食用とされた歴史もあります。卵を持つメスが特に食用として重宝され中国福建省では炒め物にされています。日本でも山口県下関市などでは食用としていた時期もあったようですがさほどおいしくはなかったようで、「体は大きい割に食べる部分が少ししかない」といった記載が残っています。
昔はそれほどまでにたくさんの数のカブトエビが当たり前のように私たちのそばで暮らしていたことが強くうかがえる話でしょう。
生きた化石と呼ばれる生物③カブトエビ
カブトガニに続いての生きた化石はカブトエビです。確かにカブトガニのような「カブト」を持ったエビの姿をしており田んぼなどの水辺にも生息しています。エビとついていますがエビ類ではなく小型甲殻類に属します。
カブトエビは3億年前からほぼ姿が変わっていない
全長2~3㎝と小さな体ですがその姿は何と3億年前からほぼ変わっていません。雌雄同体であるため他のカブトエビとの生殖を必要とせずとも子孫を残すことができます。もちろん通常の生殖形態をとることもできます。
こういったフレキシブルな生殖形態を持つことは環境の変化にも耐えうる力になるといえるでしょう。
カブトエビは世界中に生息している
3億年もの昔に誕生しているため南極大陸以外の世界中の水辺に生息している身近な生きた化石です。カブトエビと1口に行っても数多くの種類が存在しています。比較的ありふれた身近な存在であるといえます。
日本の田園風景には欠かせない存在だった
日本にも数多く生息するカブトエビですが、水田と切っても切れない関係でした。水田の泥の中で眠った卵は水田に水が張られたときから10時間ほどで孵化が始まります。そこからあっというまに生体となり誕生から10日もすれば産卵を行います。
産卵した卵は乾燥に強く水が抜かれた田んぼの泥の中で次にまた水が張られる時までじっと耐える力があります。乾燥に強いためカブトエビの飼育キットなども手軽に販売されているほどです。
カブトエビが生きた化石ではないという説も?
見た目は3億年もの長い間変わっていないと考えられていますが、その本体であるDNAの配列や生殖様式は時代によって変化していることが近年明らかとなりました。そのため完全な生きた化石とは呼べないのではないかという声も上がっています。
生きた化石と呼ばれる生物④ミツクリザメ
4種目の生きた化石のご紹介はゴブリンシャークと聞けば思い当たる方もいるでしょう。ゴブリンシャークを別名に持つミツクリザメも生きた化石とされる魚(サメ)です。
ミツクリザメには古代のサメの特徴が残っている
1億2500万年以上前に誕生したとされるこちらの生きた化石・ミツクリザメの特徴は何といってもその長い鼻。厳密には長い鼻の様に伸びたこの部位を「吻(フン)」と呼びます。この飛びでた吻には微弱電流を感知することのできるロレンチーニ器官が集中しているのですがこの形態が古代のサメの特徴ととてもよく似ています。
古代サメの特徴を現在も色濃く持っているということは古代から生きていたことも証拠にもなる上、彼らがそれほど変化(進化)せず現在まで生き残ってきたという証明にもあります。
ミツクリザメの噛みつく瞬間が衝撃!
長い吻ばかりが目立ちますが、驚くのは捕食の瞬間です。吻の先端よりもずっと後方に口があるため口を開けるとアゴが飛び出すような見た目になります。このような恐ろしい姿からゴブリン(悪魔)シャークと呼ばれるようになりました。
ミツクリザメを発見したのは日本人?名前の由来とは
ミツクリザメを最初に発見したのは日本人で名前を箕作佳吉(みつくりかきち)といいます。このミツクリから名がつけられました。四方を海に囲まれ、深い海溝も持つ日本では昔から深海生物の遭遇は多くあったのでしょう。
生きた化石と呼ばれる生物⑤ゾウギンザメ
こちらの生きた化石はまだ有名ではないですが、ゾウギンザメも生きた化石の1つとなります。生きた化石中の生きた化石ともいえるかもしれません。その理由をご説明しましょう。
シーラカンスより生きた化石?進化が遅いゾウギンザメ
このサメのDNA解析を行ったことろDNAの進化(変化)の速度は極めて遅くそのスピードは4億年近く姿を変えずに存在しているシーラカンスよりもさらに遅いというのです。はるか太古の昔から姿を変えずに今も生きているとすれば驚きを隠せません。
見た目や泳ぎ方がユニークなゾウギンザメ
確かに長い歴史を経ても姿を変えていないだけあって私たちが知るサメとは一線を画すユニークな生態を持っています。ミツクリザメようのに長い吻を持ち、ここにロレンチーニ器官をもちます。
象の鼻の様にも見れることからゾウギンザメと呼ばれるようになりました。また、見てすぐわかる特徴がその泳ぎ方です。大きな胸ビレをパタパタを羽ばたくように動かして海の中を泳ぎます。
ゾウギンザメはまだまだ謎の多い魚!
DNA解析を終え、その驚異的に遅い進化スピードが明らかとなりましたがまだまだ謎に満ちた魚です。このサメのことがわかるにつれて生物学的にも何か新たな知見が発見されるだろうということで注目を集めています。
日本では唯一サンシャイン水族館で生きて泳いでいる姿を直接見ることができます。繁殖にも挑戦しているということで赤ちゃんをいつか見ることができるかもしれません。生き物ですから展示されていなことも当然あり得ますのでどうしても見たい方は確認の上ぜひお出かけしてみてくださいね。
生きた化石と呼ばれる生物⑥オウムガイ
こちらの生きた化石はなんともユーモラスな姿をしているためアニメなどでもよく登場していますね。この何とも不思議な姿をしているオウムガイについてご紹介します。
オウムガイは5億年前から姿が変わっていない
南西太平洋からインド洋といった熱帯の海に生息しており、サンゴ礁が発達しているような環境を好みます。水圧に耐えうるのは水深800mほどまでですので大体水深150~300m域で目撃されることが多くなっています。
オウムガイはどうやって泳ぐ?
ふわふわと海中に浮かんでいますがそもそもなぜ浮かんでいられるのか?と思いませんか?実は彼らの殻の中は小さな小部屋に細かく分かれており、そこにガスが充満しています。このガスによって浮力を得ているようです。
気になる泳ぎ方ですが、複数の触手の中にクチバシのような、ホースのような口を持っており、ここから水を勢い良く吐き出してその反動で海中を進んでいます。
オウムガイは貝ではなくイカやタコの仲間
一見貝の仲間にも見えますが、タコやイカの仲間に分類される生きた化石です。しかしながらタコやイカのように素早く泳げるわけではなく、生きたエサを捕食する能力は低いため様々な魚の食べこぼしを主な餌としているようです。
このような泳ぎがそれほど得意でなく海を揺蕩うような生物が現在まで生き残ったという点が非常に興味深いです。
オウムガイは現在進化中の生き物?
この貝の化石は古い地層からも発見され、生きた化石だと考えられていますが実際の化石に残らない部分が現在と同じであるという証明は困難です。化石として残る箇所は変化しておらずとも触手の数やその動かし方などは実は緩やかな進化の中で変化しているため、生きた化石と呼ぶことに異論を唱える人もいます。
生きた化石と呼ばれる生物⑦トリノアシ
続いては東京湾の深海にも今もひっそりと息づいている生きた化石「トリノアシ」のご紹介です。トリノアシといいますが海底に生息し、ヒトデなどが分類される棘皮動物の1種です。植物のようにも見えますが自分で移動することができます。
トリノアシは5億年前から姿を変えていない
こちらの生物も5億年前に地球上に誕生して以来同じ姿であると言われています。深海にひっそりと息づく植物のようです。化石の発見場所から考えるに誕生当初は海の浅瀬に生息していましたが生存競争に敗れたことで深海へと追いやられていったと推察されています。そこでひっそりと生き延びたことで生きた化石と現在呼ばれるに至りました。
トリノアシは植物にも見える不思議な見た目
「冠部(かんぶ)」と呼ばれる花のように見える部位を持ちます。その冠部の下にはジャバラ状に見える関節から成る柱状の茎のような部位が伸びています。このような見た目から「トリノアシ」と呼ばれるようになりました。
トリノアシの冠部は取れても再生する
冠部に生存するために必要な機能というのはすべて詰まっています。にもかかわらず、この冠部が取れたり食べられたりした場合なんとまた冠部が再生するというのです。私たちが脳を失っても再びまた脳が生まれてくるようなものです。実に驚きです。
生きた化石と呼ばれる生物⑧ヌタウナギ
人気バラエティー番組「鉄腕DASH」などでよく登場する魚、ヌタウナギも生きた化石の仲間です。ヌタウナギと「ウナギ」の名がついていますがウナギの様に脊椎は持たず全く別の種になります。
ヌタウナギは脊椎動物の中で原始的な姿の生きた化石
ウナギの様に脊椎を持ちませんが、軟骨からできた我々にとっての背骨のような「脊索」が背中に1本通っています。3億年も姿を変えていません。脊椎動物の中でもかなり原始的であることが推察され、私たち脊椎動物の発生の起源を知るカギを握っているともいわれています。こういったことがわかるのも生きた化石のおかげでしょう。
ヌタウナギの目は退化している
彼らの目は退化していてありません。同様に顎も持っていません。3億年もの長い間目や顎を持っていないというのも驚きですが、一体いつ目が退化したのかも興味をそそりますね。
ヌタウナギは酸素がなくても心臓が動く
彼らはなんと心臓を3つも持っており、酸素がない環境に陥ってもそのまま数時間は心臓が動き続けるというのです。酸素の代わりに蓄えた脂肪を使っている可能性があるようです。
生きた化石と呼ばれる生物⑨ハイギョ
魚のハイギョも生きた化石としてかなり有名でしょう。ハイギョが目覚める瞬間などはテレビで目にすることもあるでしょう。どのような魚なのかご紹介します。
ハイギョは1億5000年前から姿を変えていない
化石では現存しているハイギョよりも種類は多く280種ほどいたことがわかっています。そのころには海水で暮らすものや淡水で暮らすものがいましたが、現存しているハイギョはすべて淡水性で6種のみとなっています。
海水性のものはすべて絶滅してしまったことを思ってもはるか昔に大きな地殻変動や環境の変化があったことがうかがえます。
ハイギョは他の魚にない肺を持つ魚
彼らの特徴は何といっても「肺」を持っているということです。そのため、ほかの魚にはない「鼻」も持っています。夏の乾季には泥の中にもぐり、エラ呼吸をやめて肺呼吸で「夏眠」をとります。再び雨季が訪れるとエラ呼吸に戻り、泥の中から目覚めます。
このようにエラ呼吸と鼻呼吸のどちらも行うことができるため魚類と両生類が分岐した証拠を持つ魚であるとも考えられています。生きた化石の生物的価値がうかがえる点といえるでしょう。
ハイギョは観賞魚として飼育も可能!
ゆらゆらと体と特徴的な細長いヒレが揺蕩う様子が美しく、観賞魚としても一部の人たちからは人気を集めています。近年その個体数が減少していましたが養殖技術が確立したため養殖した個体であれば観賞魚として購入が可能になりました。
ハイギョについてもっと詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください
生きた化石と呼ばれる生物⑩オオサンショウウオ
作家井伏鱒二の小説にも登場するサンショウウオですがこちらも生きた化石の2つです。大雨の後などにオオサンショウウオが橋の欄干に現れた、といったニュースを時折耳にします。日本では昔は馴染みのある生き物だったことがうかがえます。
オオサンショウウオは3000万年前から姿が変わらない
彼らの祖先となった種は恐竜がいたような古い時代から生息していますが(1億7000万年前からほぼ同じ姿であるといわれています)、彼らが今の姿になってからは3000万年であると言われています。