タコブネの分布
タコブネの生息域は太平洋や日本海の暖かい場所。日本の海岸で頻繁に見られるということはありませんが、福井県や兵庫県、和歌山県などに漂着したという記録が残っています。過去にはなんと北海道で見つかったことも!ダイビングなどではまれに見ることができますが、打ち上げられることは多くありません。海岸を根気よく探せば見つけられるかもしれないタコブネ。海が荒れた翌日に殻を見つけたという報告もあるので、運とタイミングが良ければお目にかかることもできるでしょう。また、山陰沿岸だと6~11月にかけてが見つけやすいというデータがあります。
タコブネの生態
アオイガイ科に属するタコブネは「フネダコ」とも呼ばれ、暖かい海の表層を、まさに舟に乗っているようにゆらゆらと浮遊しながら生活しています。移動をするときは、体内に取り込んだ海水を勢いよく噴射して泳ぐこともできます。他のタコと同じように肉食性で、稚魚や甲殻類、クラゲなどを食べると言われています。
オスとメスの違い
タコブネのメスは成長すると7~8cm程にまでなるのに対し、オスはその20分の1、数ミリ程度の大きさにしか成長しません。また、オスの見た目は普通のタコと変わりなく、何も言われなければタコブネのオスだとわからないほどです。交尾の際はオスの腕を切りはなし、メスの体内で受精したあと、殻の中に卵を産みつけます。貝殻を持つのはメスだけで、オスはその大きさもあってか今まで海で泳いでいる姿を発見された記録はありません。
タコブネの貝殻
タコブネの特徴は何といってもその貝殻ですが、卵を守り育てるため、メスの第一腕(膜のように広がっている)から分泌されるカルシウム成分で作りあげられたものです。自分で作りあげるものなので、もしその薄い殻が壊れてしまっても、また修復することができます。その殻は灰色がかったクリーム色で、放射状に広がるトゲのような部分は少し黒っぽくなっています。
(画像はアオイガイ)
そしてタコブネの胴体は殻の奥にまで入り込んでいるわけではありません。カタツムリなどと違って殻の浅い部分に頭を入れているだけなので、体と殻が離れてしまっても死んでしまうということはないのです。後述する希少性の高さから貝殻コレクター憧れの品となっているタコブネの貝殻。同じく貝殻を作るタコの仲間ではアオイガイなどもいますが、タコブネの殻はアオイガイの殻に比べてうねが少なく、その形状はどこかアンモナイトにも似ています。
タコブネの祖先
タコやイカ、アンモナイトなどは頭足類と呼ばれる種類です。その祖先はカンブリア紀にまでさかのぼり、カンブリア紀中期に貝の仲間から今なお現生するオウムガイへと分かれました。それからアンモナイト、べレムナイトと分かれ、ついにイカとタコに分かれます。
べレムナイトは今のイカによく似た姿で、胴体の内側に石灰質の殻がありました。分かれた後、イカの仲間は今でも胴体の中に薄い殻を持ちますが、タコの仲間は知能と引き換えに殻を捨ててしまったと言われています。しかし、タコブネやアオイガイなどは、卵を守るため、自らカルシウム成分を分泌することで再び殻を身にまとったのです。
タコブネの希少性
海岸にタコブネが漂着すること自体が珍しいのに加え、その美しい貝殻は非常に薄く脆いため、欠けていない完全な状態のものは希少性が高く、コレクター垂涎の品なのです。また、まれに漁網にかかることもありますが、多くはそのまま海に放されたり、水族館に送られます。珍しいものに目がない方は、海が荒れた翌日、タコブネの殻を探して浜辺を歩いてみるのも楽しいのではないでしょうか。