現在でもこの植物の被害にあう人はいます。毒性を知らず、ビーチを歩いていてスコールに振られた観光客たちが雨宿りをした木がたまたま運悪くこの木であった場合、雨にわずかに混ざった樹液によって皮膚がたちまち水ぶくれになってしまうのです。
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マンチニールは燃やしても毒性がある!
触るだけで水ぶくれができる恐ろしいこの毒性はなんと燃やしても力を失うことはありません。この木を燃やすと毒性を持つ化学物質が煙となって空気中に飛散し、吸い込んだり目に入ると有害です。
毒が目に入れば失明?
この木を燃やした煙が目に入ってしまうと目の粘膜が炎症を起こし、ひどい場合だと失明に至るケースもあります。有害な木だからといって安直に燃やしてしまうととんでもない被害を受けることになるのです。
マンチニールは実は利用価値もある?
怖いイメージばかりできてしまうこの木ですがは利用価値がちゃんとあり、現地住民たちには何世紀にもわたってまさに毒にも薬にもなる植物としてともに生きてきた歴史があります。砂浜のマングローブの中で成育し、人々の防風林となる大きな役割も果たしてきました。
カリブ海地域では建材として利用
カリブ地域の住民たちは長い歴史と経験からこの木の毒を無毒化する方法を知っています。例えば大工たちはこの木を建材として何世紀も使用してきました。木を切り倒した後、天日干しして樹液を完全に乾かし切ってしまうのです。
浮腫の治療や利尿薬としても利用されている?
また、木の皮を加工すれば浮腫の治療に用いることもできると伝えられています。建材にする加工方法と同様に、毒の果実も乾燥させれば薬となることがわかっており、利尿薬として使われてきた歴史があります。
毒を操っていたタイノ族を絶滅に追い込んだのは?
マンチニールが成育しているイスパニョーラ島に昔から暮らしていた民族にはタイノ族がいました。豊富な自分たちの経験からこの猛毒を使いこなし、たくましく生きていた彼らも18世紀には絶滅してしまったと言われています。原因は植物の毒なんかではなく、人によって持ち込まれた微生物でした。
海に囲まれ隔離された環境で独自の風習・文化とともに暮らしていた彼らにとってスペイン人とともにやってきた未知の微生物は最大の脅威だったのです。ドミニカ共和国の地下洞窟「奇跡の洞窟」には当時の彼らが残した壁画があります。人が人を滅ぼしてしまったという悲しい歴史を忘れないように今は大切に保存されています。
人と毒を持つ植物との歴史
人にとって有害な物質であるアルカロイド類(窒素を原子を含む有機化合物の総称。)を持つ植物は時に薬用植物として使われてきた歴史もあります。古くはなんと紀元前2000年ごろのメソポタミアで既に用いられた記述が残されており、エジプト女王から「無意識の状態に導く薬剤」として贈られたなんていうことまで記されています。
マンチニールに関する声は?
毒にも薬にもなり、命を脅かす存在でありながらも古くから現地の人の生活に溶け込み、実に様々な方法で利用されているとても不思議で危険な存在を世の中の人はどう受け止めているのでしょうか。
マンチニールに関するツイッターなど
マンチニールでつぶやきを検索するとまさに数えきれないほどの検索結果が出てきます。みなさんいずれもその強い毒性に恐れを抱きながらも、この植物の珍しい生態に興味を抱かずにはいられないといった様子です。
マンチニールへの関心は高い!
関心は予想通り高く、触れるだけでやけどのような傷を負ってしまう猛毒の正体に興味を持つ人から、未だ同定しきれていない物質の中には私たちの暮らしに役立つようなものがあるのではないかと期待する人と実に様々です。アダムとイブの林檎の物語や白雪姫の食べた林檎に共通点を見出す人もいました。
マンチニールの木について書かれた書籍もある!
このような関心は世界中でも高く、科学論文にとどまらず文学の世界でもこの植物についての記述は散見されます。かわいらしい林檎のような実を食べると死に至ってしまうというまるでアダムとイブの物語のような強いストーリー性が多くの人の興味をかきたててきました。
マンチニールに出会った人の記した日記・体験記
ニコラス・クレスウェルの「The Buccaneers of America」には以下の様な記述が残されており、実にこれは200年以上昔の話です。いかに古くからこの木が恐れられていたのかがよくわかります。
マンチニール・アップルは、大きく育ったとしても小さいが臭いがあってイギリスのリンゴのような外見で、通常は海辺に生育している。それらは猛毒である。僕は一つのリンゴで、20人を殺すには十分であると聞いた。その毒は、木から垂れるたった一滴の雨粒、雫であっても、皮膚に付いてしまえばすぐに水疱を生じさせるほどきわめて有害な自然生成物である。聞くところによれば、果実も木も有用性が無いとのことだ。(出典:The Buccaneers of America; Part I, Chapter IV)
マンチニールが登場する小説①
R.R.クヌードソンの作品、『You Are The Rain』(1974)にもこの木は登場しています。この木の下でカメラを前にポーズをとっている少女を木の毒から守るシーンがあり、その際にこの毒の恐ろしさが実に細かく説明されています。
マンチニールが登場する小説②
イギリスの小説家であるラファエル・サバチニの代表作品である歴史小説、キャプテン・ブラッド・シリーズ(1931~)では、マンチニールの果実から作ったジュースによって引き起こされる中毒症状が描かれています。
「マンザニラ!」そして、彼は向きを変え、そしてひどく恐ろしく、血が凝結するほどの不敬な言葉を叫び始めた。そして彼は、ジャックとその残った中身を床で死に絶えている男に投げつけた。(出典:The Chronicles of Captain Blood, Chapter V – Blood Money)
マンチニールは日本にも生息する?
触れることすらできないほどの強い毒性を持ちながら人々を魅了してしまう、まさに禁断の木の実をつけるマンチニールは果たして日本には生息しているのでしょうか?気になる分布について改めてお伝えします。
マンチニールは日本だと沖縄に生息?
この木はカリブ、バハマ、メキシコなどの熱帯・亜熱帯地域を中心にしたごく限られた地域にしか生息していません。さらに海水と淡水が入り混じる汽水域に生息するということで沖縄は適合するのではないかと想像しますが、現段階で沖縄での確認はありません。
マンチニールは危険な木だった!見かけても絶対に近づかないで!
日本人が日常で会うことはまずないマンチニールですが、旅行などで訪れた地で見かけることがあるかもしれません。攻撃的な見た目をしているわけでもなく、かわいらしい実をつけていることもあるかもしれません。けれど決して興味本位で近づかないようにしましょう!