ウナギの生態
ウナギといえば、うな重や白焼きなど、食材として身近な存在だと思います。しかしウナギってどんな魚なのでしょうか。日本ではなんと縄文時代から食べられていた形跡がありますが、その生態がわかってきたのはここ十数年のことです。
ウナギの分類
ウナギ目ウナギ科ウナギ属に属しており、世界に19種類が確認されています。そのうち食用にできるのは4種類で、日本に生息しているニホンウナギも含まれます。これをこの記事では「ウナギ」と呼んでいきたいと思います。
ウナギの生息地と分布
そもそもウナギ属の魚は世界中の熱帯と温帯にかけて分布しています。そのうちニホンウナギは日本・朝鮮半島・中国・ベトナムなどの東アジアに生息する魚です。川の中流・下流、河口、湖、内湾などでよく見られます。
ウナギの生態
ウナギは海で孵化し、川や湖に遡上して成長、産卵時は海に戻る降河(こうか)回遊と呼ばれる行動をとります。夜行性で、昼間は砂の中や岩の割れ目などに隠れており、夜になると活発になって甲殻類や小魚、カエルなどを食べます。
かつては「ムナギ」と呼ばれており、これが変化してウナギになったと言われています。ムナギの語源については、その形から家の棟木に似ている為、胸が黄色い為、「身長(みなが)」がなまった為など、いくつかの説があります。
ウナギの体の特徴を解説
ウナギを目にする際はほとんどかば焼きなどに調理されたものなので、その姿をちゃんと見たことはあまりないかもしれません。にょろにょろと細長く、大変特徴的な体をしています。目は丸く、口は大きめで大変愛嬌のある顔つきです。
ウナギの体
数十cm~1mほどの円筒形の体をしており、環境などによって変わりますが背側は黒っぽく、腹側はクリーム色もしくは白い色をしています。背びれと尻びれは尾びれとつながっていますが、腹びれはありません。
また、視覚や聴覚に比べ嗅覚が非常に発達しており、その強さは人間を超え、犬並みとも言われています。嗅覚器の大きさはなんと脳全体よりも大きく、嗅覚神経が分布しているひだがとても発達しているそうです。
オスとメスとで大きさが違う
オスのほうが成熟が早いですが、大きくは育たず、50cmを超えるものは非常にまれです。しかしメスは50cm以上のものが普通で、大きいものは1mを超えるものもいます。寿命もメスのほうが長く、オスは数年~10年ほどなのに対し、メスは10年を超え、20年以上生きたものもいたそうです。
銀ウナギの輝きの秘密
ウナギはその成長過程や生育環境などによって形や色が変わります。特に川で暮らすものは体が黄色い為「黄ウナギ」と呼ばれ、現在成長過程にある個体です。また、成熟しきった個体は体が銀色や銅色に光るようになり、これを「銀ウナギ」と呼びます。
これはアジなどにもあるグアニンという銀白色の色を出す物質が蓄積する為です。同時に大型のものはウロコが浮き上がり、皮膚に独特の模様が出ることから「綸子(りんず)ウナギ」とも言います。
ウナギの一生を見てみよう
ウナギは日本人の食文化と切っても切れない存在のなじみ深い生き物ですが、長らくその一生はほとんどわかっていませんでした。最近やっと産卵場所が特定でき、少しずつその一生が明らかになってきています。
ウナギの産卵
ウナギの産卵場所が日本のチームによって突き止められたのは2009年のことです。日本から約3000㎞も離れたマリアナ諸島やグアムのそばの海域で、新月の夜に産卵します。メス1匹から300万個もの卵が産まれます。
ウナギの稚魚
卵は1日半ほどで孵化しますが、卵からかえったときはまるで透明な木の葉のような形です。この段階のものを「レプトセファルス」といい、比較的深い海の中で、泳ぐというよりは潮の流れに漂って暮らしています。
それが半年ほどたつと、透明ではありますが大人のウナギと同じような形になってきます。これは「シラスウナギ」と呼ばれていて、このころには日本の近海にたどり着いています。養殖のウナギはシラスウナギを捕まえて育てたものです。
海から川へ
シラスウナギはさらに成長すると体が黒くなってきて10cmほどになり、「クロコ」と呼ばれる状態になります。岩などの上を体をくねらせながら川を上り、数年~十数年かけて成長していきます。成長してくると体が黄色っぽいことから「黄ウナギ」と呼ばれるようになります。
大人のウナギに
ウナギは成熟して産卵できるようになると、エサを取らなくなり、産卵の準備を始めます。断食を始めると、胃や腸などの消化管が退化する代わりに生殖器が発達し、体に脂肪が蓄積され、体が銀色に変わります。この状態を「銀ウナギ」といいます。
そして川を下り海に出て、半年ほどはるばる旅をしてグアム沖の産卵場所まで行くのです。その頃の体の中には、オスは精巣、メスは卵しかないそうです。産卵を終えるとウナギは死ぬと言われています。
ウナギのヌルヌル粘液について
ウナギは体がヌルヌルしており、なかなかつかめません。その為つかみどころがないたとえに使われたり、難を逃れられるとして魔除けのシンボルとされたりすることもあります。このヌルヌルは納豆の粘りの成分と同じムチンという物質で、ウナギが生きる上で重要な様々な役割を持っています。
粘液は自分の身を守るバリア
普通の魚は固いウロコによって体表を保護しています。しかしウナギはウロコが小さく埋もれているので、皮膚が弱く傷つきやすい生き物です。その為、粘液がウロコの代わりに体表を守る役割を担っています。
粘液のおかげで陸上移動が出来る?
ウナギはエラ呼吸のほかに皮膚呼吸もでき、呼吸の60%ほどを皮膚から行っています。これには体表がぬれている必要がありますが、粘液があることで水分を保つことができ、陸に上がってもすぐに死ぬことはありません。その為雨の日に体をくねらせて別の水場まで移動したり、切り立った岩場を登ったりする姿が目撃されることもあります。
川や海での環境変化に対応
魚は何気なく水の中を泳いでいるように見えますが、じつは体内の水分の塩分濃度と周りの水の濃度のバランスを絶えず調整しています。その為海水魚が淡水に入ったり、淡水魚が海水に入ったりすると、水分のバランスが崩れて死んでしまいます。
しかしウナギは川と海を行き来する生物なので、その調整に粘液が一役買っています。海水にいるときは皮膚から余分な塩分が体内に入ってこないようにし、淡水にいるときは体内の塩分の流出を防いでいるのです。
毒の成分で身を守る
粘液にはじつは毒が含まれており、外敵から身を守っています。これは人間が食べる分には問題はない毒とされていますが、何らかの形で食中毒などが起きないとも限りません。念の為、ウナギをつかむ際には手に傷などがないか確認をし、つかんだ後はすぐにきれいに洗うようにしましょう。
あまり知られていないウナギの毒を紹介
毒のある魚といえばフグやエイの仲間などが有名ですが、じつはウナギも毒のある魚だということを知っていましたか?毒は血液と体表の粘液に含まれ、すぐに命にかかわるほどの強い毒ではありませんが、つかんだりさばいたりする際には注意が必要です。
血液に含まれる毒
動物の血液には血清という液体成分が含まれますが、ウナギの場合その血清にイクチオヘモトキシンという有毒物質を含んでいます。ウナギの血1mlほどでマウスを100匹程度殺せるそうですが、人間は1000mlほど飲まない限りは死に至ることはありません。
ただし、目に入ると結膜炎を起こし、口に入ると粘膜がただれ、指先などに傷口があるとそこから入って炎症が起きてしまいます。ひどい場合は下痢、嘔吐、麻痺、呼吸困難、失明などのおそれもあります。ちなみに、同じウナギ目に属するアナゴやハモ、ウツボなどの血液にも毒があります。
体の粘液に含まれる毒
ウナギは体の表面に出ている粘液にも毒を持っており、じつはこちらのほうが血液の毒より強いと言われています。精製した毒をマウスに注射すると1ml分で数千匹を殺せるそうです。しかし成分が不安定で、マウスへの経口投与では異常が見られなかったことから人間が食べても問題ないとされています。
毒があるのに何で食べられるのか?
ウナギの毒の主成分はタンパク質なので、60℃以上で5分以上加熱すると変性して無毒化します。つまり蒲焼きなどになってしっかりと火が通っていれば、毒を気にせずに安全に食べられるのです。
逆に言えば、ウナギの刺身は生の血がついている為食べてはいけません。完全に血抜きをして刺身を提供している店もあるようですが、素人にはできませんので必ず加熱して食べるようにしましょう。
ウナギの毒への対処法を紹介
ウナギのつかみどりをしたり、さばいたりする際には手にあかぎれやささくれなどがないかしっかり確認してから行うようにしましょう。傷がある場合や肌が弱い人などはゴム手袋などをして触るようにしてください。初心者がさばく時には血が飛び散りにくい背開きがおすすめです。
また、触った手で別の食品を持って食べたり、顔などを触ったりしないように気を付けましょう。万が一ウナギの毒で炎症などが起きてしまった場合、まずは患部をきれいに洗い流し、早めに病院にかかるようにしましょう。
ウナギと人との関係
ウナギと日本人との関わりは古く、なんと約5000年前の縄文時代の遺跡からウナギの骨が発掘されたことがあります。古事記や万葉集にも登場し、古くから食用とされていたことがうかがえますが、かつては今のように開いたものではなく、ぶつ切りにしたウナギを串刺しにして焼いたものでした。
現在のようなウナギの蒲焼きの形になってきたのは江戸時代で、1800年代から外食としてウナギを食べる文化ができてきました。しかしきちんと店を構えた高級店はさほど多くなく、屋台のような形や天秤棒で焼きながら売り歩く庶民的なお店が多かったといいます。