ゴリアテグルーパーとは?
ゴリアテグルーパーはスズキ目ハタ科に属する魚で、英語ではゴライアスグルーパー、日本ではイタヤラとも呼びます。巨大で危険な魚と言われているものの、その正体はどのような魚なのでしょうか。詳しくみていきたいと思います。
世界最大級の魚
ゴリアテグルーパーはカリブ海などのサンゴ礁に住んでいますが、サンゴ礁に住む魚の中では世界最大級です。海全体を見てもそれ以上に大きくなる魚は数えるほどしかいません。成長するとその大きさは人間を軽く超えるほどになり、寿命も約50年と言われています。
大きな口が特徴
体色は黄や緑、灰がかった褐色をしていて、黒い斑点があります。小さいころは濃い褐色の数本の縦じまがありますが、成長するにつれて消え、体色が濃くなっていきます。また、小さい目と大きな口も特徴で、唇は厚くいわゆる「たらこ唇」で、巨大ではありながらも意外と愛嬌のある顔をしています。
ゴリアテグルーパーの名前の由来
英語では「ゴライアスグルーパー(Goliath Grouper)」といい、Grouperとは英語でハタを意味します。そしてGoliathはヘブライ語の発音でゴリアテといい、これは旧約聖書に出てくる巨人の名前です。とても巨大に成長する事からこの名前が付けられました。
ちなみにゴリアテというと宮崎駿監督の映画『天空の城ラピュタ』に出てくる飛行戦艦をイメージする人もいるかもしれません。こちらもその由来は同じく旧約聖書だと言われ、巨大さと強さをたとえています。ちなみに和名の「イタヤラ」は学名からとった呼び名です。
旧約聖書の巨人「ゴリアテ」
ゴリアテは旧約聖書の中の古代ユダヤの歴史を記した「サムエル記」に登場します。後に預言者となるダビデが属するイスラエル王国と戦争したペシリテ人の兵士で、諸説ありますが身長が約2.9mあり、約57kgある鎧をまとって、6.8kgほどの刃がついた槍を扱っていました。
ゴリアテの名を冠する他の生物
ゴリアテは巨大なもののたとえとして使われる事が多く、他にもその種で最大級の巨大な生物に名付けられています。また、生物ではありませんが強い、大きいという意味で自動車や兵器、戦艦の名前としても使われた事があります。
ゴリアテを冠する生物①ゴライアスガエル
アフリカのカメルーンや赤道ギニアなどに生息する、世界最大のカエルです。その大きさはオタマジャクシの段階で4~5cmあり、成長すると最大で体長30cm以上、手足を伸ばすと80cm以上にもなり、重さも3kgを超えます。イメージとしては生まれたての人間の赤ちゃんくらいのサイズです。
ゴリアテを冠する生物②ゴライアストリバネアゲハ
ニューギニアに生息しており世界最大級のチョウとして知られ、その大きさはメスのほうが大きく最大で翅(はね)の大きさが20cm以上になります。そもそもトリバネアゲハの仲間はサイズが大きく高く飛ぶため鳥のように見えるためその名がついています。大人の手や子どもの顔を覆うほどのサイズで、幼虫でも最大で約12cmに成長します。
ゴリアテグルーパーの特徴
顔もなかなか愛嬌のある独特な顔をしていますが、最大の特徴はなんといってもその大きさです。いったいどれほどのサイズになるのでしょうか。そしてその巨大な体を支えるためにどんなものを食べているのかご紹介していきます。
何と言ってもその巨大さ
なんと最大で2.4mほどの大きさになります。電話ボックスの高さが2m強なので、なんとそれよりも大きくなるのです。また、体重も360kgほどになり、これは大人5~6人分ほどの重さです。確かな情報ではありませんが、120年ほど前に重さ680kgの個体が捕獲されたという記録もあります。
大きな口で獲物を丸飲み
ゴリアテグルーパーは肉食性で、甲殻類や魚類、タコ、ウミガメなどを食べます。その捕食方法は、特徴的な大きな口で獲物を丸飲みにします。基本的にはサンゴ礁や岩陰、沈没船などに潜んで近づいてきた獲物を食べますが、気まぐれに住処から出てきて釣り人が釣った獲物を食べてしまったり、人間に食いついたりする事もあります。
歯はあるが噛まない
ゴリアテグルーパーには歯はありますが、3mm以下の大きさしかなく、のどの方に向かって生えています。そのため獲物を噛み切ったり咀嚼したりする事はできず、捕まえた魚を口から逃がさないようにするために使われています。
実際、噛み切る事ができないため、ある水族館で一緒に泳いでいる魚を食べてしまったものの食べた魚を飲み込み切れず、頭のほうが消化されるまでしばらく口からしっぽを出したまま泳いでいたという目撃情報もあります。
ゴリアテグルーパーの恐ろしいエピソード
口に入るものはなんでも丸飲みにしてしまうため、人を襲ったり、サメを食べたりと様々な恐ろしいエピソードがあります。中には動画も残っているものもあるので、一緒にご紹介していきたいと思います。
恐怖のエピソード①釣った1m超のサメを横取り
2014年に投稿された動画で、船の上で釣りをしている人の竿にサメがかかっています。しかしその周りにゴリアテグルーパーの巨大な影が泳ぎ回っており、サメの動きが鈍くなってきた瞬間に食べられてしまうという動画です。この動画に写っているサメはおよそ1.2mのサイズだそうですが、それより大きいサイズの個体と考えられます。
恐怖のエピソード②少年がゴリアテグルーパーに殺された?
なんと人間も襲われたという話があるのです。1950年代にフロリダ州で橋から飛び込みをして遊んでいた少年を殺してしまったというエピソードがあります。こちらはあくまで噂の域の話で、詳しい事は不明ですが、子どもであれば丸飲みされなかったにしても海に引きずり込まれて溺れさせられてしまう事はあるかもしれません。
恐怖のエピソード③ダイバーの足に噛みつく
こちらの動画では、ダイバーがモリで魚を獲っていて、その周りを1.5mほどはあろうかというゴリアテグルーパーが泳いでいます。すると次の瞬間ダイバーの足に噛みつき、フィンを取ってしまいます。それにびっくりしてダイバーがモリを離してしまい、獲物をモリごと奪って去っていくという動画です。
ゴリアテグルーパーの生態
ゴリアテグルーパーは怪物やモンスターなどと言われ恐れられていますが、凶暴であったり毒があったりするわけではありません。その理由はとにかく大きくなることと、獲物を丸飲みする習性から来ています。しかし実は普段は暖かく浅い海で静かに暮らしているおとなしい魚です。
南の暖かい海に生息
主にアメリカのフロリダ州からカリブ海、ブラジルにかけての熱帯域の暖かい海に分布しています。普段は比較的水深の浅い珊瑚礁や岩場、沈没船の中などに潜むようにして生息していて、あまり泳ぎ回る事はありません。
意外とおとなしい
性質としては獲物を求めて探し回るというよりは、普段は物陰に隠れており、近くに来た魚やエビやカニ・ロブスターなどの甲殻類を食べています。ただ、狙いやすそうな獲物がいるのを見つけると隠れ場所から出てきて食べに行く事もあり、少々気まぐれな性格です。
繁殖方法
あまり詳しい事はわかっていませんが、繁殖期は主に7~9月で、その頃になると受精率を上げるため群れを作り、沈没船や岩棚などのそばの海中に産卵します。卵からかえった幼魚は5~6年ほどマングローブの林などの汽水域で暮らした後、海に移動します。生まれた時はメスばかりで、途中で一部がオスに性転換すると言われています。
ゴリアテグルーパーは絶滅危惧種
ゴリアテグルーパーは巨大で、遭遇したら恐ろしさも感じてしまうような魚ですが、実は絶滅危惧種に指定されています。アメリカやカリブ海では保護が行われており、徐々にその数は回復してきてはいるものの、いまだ数が少ない状態は続いています。
人間にあっさり捕まり激減
ゴリアテグルーパーは決まった場所にとどまってあまり動かない習性があるほか、繁殖期になると浅い海に群れを作るため、その巨大さに耐えうる道具を準備すれば捕獲は意外と簡単です。さらに近年では成魚が暮らしているサンゴ礁や、幼魚が棲むマングローブ林などが環境破壊により少なくなっており、それも減少に拍車をかけています。
絶滅危惧種レッドリストに指定
人間の乱獲と環境破壊により数を減らしたゴリアテグルーパーは現在絶滅危惧種のレッドリストの中で、特に絶滅のリスクが非常に高いランクに指定されています。そのためアメリカのフロリダ州などでは1990年以降保護活動が行われています。
2006年までは完全禁漁でしたが、現在では少しずつではありますが数が回復してきていると言われており、レジャー目的での釣りは可能になっています。しかし寿命が約50年と長く、繁殖できるようになるまでにもおよそ6年前後かかるため、急激な回復は見込めず、今後も地道な努力が必要です。