アダンソンハエトリとは?
名前は知らなくとも、きっと皆さん1度くらいは学校や職場、自宅などどこか身近な室内でこの小さな黒いクモを見かけたことがあるのではないでしょうか。彼らの名前はアダンソンハエトリと言います。
家の中にいる見た目は黒く模様が入ったクモ
メスは8mm(大きくても1cm)ほど、オスは6mmほどとメスと比べてオスの方がほんの少し小柄です。日本をはじめアジア諸国やアフリカ南部、ヨーロッパやニュージーランド、メキシコやブラジルなど、世界の至るところで生活しています。
基本情報
アダンソンハエトリはハエトリグモ(これは英語ではジャンピングスパイダーと呼ばれます)の仲間です。また後ほど詳しくお伝えしますが、彼らの目の働きは光のあるところでこそ活躍するもの。ですのでアダンソンハエトリは夜行性ではなく昼行性です。
寿命は1〜3年
アダンソンハエトリを含むハエトリグモたちの寿命はだいたい1年ほど。長くても3年くらいだそうですので、アダンソンハエトリたちも同様であると考えられています。彼らはもちろん最初は危険の多い屋外から室内へとやってきますから、その個体が生きる環境によるところも大きいのかもしれませんね。
アダンソンハエトリの特徴
アダンソンハエトリはどのような特徴を持ったクモなのでしょうか。身近だけれど、むしろ現在同居中だけれどよく知らないという方もいらっしゃると思いますので、ここから彼らの特徴についてさらに詳しくお伝えしていきます。
特徴①動くものに襲いかかる生粋のハンター
彼らは人間のように2つと言わずたくさんの目を使って、動くものに機敏に反応します。デスクのパソコン周りに来た日には、マウスのポインタにまでも反応することがあるようです。その目が『これは獲物』と確信した時には、彼らは目にも留まらぬ速さでその対象に襲いかかります。
ですが、彼らは人間の皮膚を噛めるほどの力強いアゴは持っていませんし、人間を噛むことはありません。毒も持っていませんので、人間にとっては近くにいるのを見つけても安心していられるクモなのです。
特徴②常に動き回って獲物を探す
彼らはじっとしていることなく常に移動しながら過ごします。アダンソンハエトリは、クモの巣というと皆さんが思い浮かべるような、放射状で自分が中心に座る、トラップを兼ねたタイプの巣を作ることがないのです。そこに獲物がかかるのをじっと待つのではなく、彼らは能動的に狩りに出掛けて獲物を得られる機会を増やして生活しています。
ということは、アダンソンハエトリは私たちにとって危険がないクモである上に、邪魔になりがちな大きな巣も作らず、室内にやってきたならば特に頼まなくとも家中を自らパトロールして虫退治をしてくれる、大変ありがたい存在であることがわかります。
特徴③ジャンプ力がすごい
先ほどお伝えしたようにアダンソンハエトリはジャンピングスパイダーと呼ばれるクモの仲間。ですので、その跳躍力は目を見張るものがあります。いったいそれはどれほどすごいものなのでしょうか。
映像で見てみよう!
この動画内で既に自分の体長の40倍もの距離を記録したようですが、時に50倍もの距離を跳ぶこともあると記録されています。仮にこれを身長178cmの人間に置き換えたなら、自分の50倍といえば89mにもなります。
しかも、これはもちろん助走なし。猫などもびっくりした時にその場で飛び上がることがありますが、さすがに自分の何十倍もの高さまで飛び上がったりはしません。ちっぽけな体のアダンソンハエトリですが、実は驚きの脚力の持ち主だったのです。
特徴④クモの巣を作らない
先ほどもお伝えしたようにアダンソンハエトリは、いわゆるクモの巣を作ることはありません。また、狩りの際に糸で獲物を縛ったりすることもないのです。彼らが糸を使うのは、移動中は自分の命綱としてだけ。1本の糸だけを頼りに飛び回る姿はまるで忍者です。
彼らも時々このような自分の体長の2倍ほどの小さな巣は作りますが、それはトラップとしてではなく、基本的に寝に帰る家としての役割のものです。成長に伴って脱皮する時なども安全なようにこちらで行うようです。
特徴⑤雌雄の差が大きい
アダンソンハエトリは、一見すると別の種類なのではと思ってしまうほどにオスとメスの姿がはっきりと違っているクモです。先ほどからご紹介している、黒い体に白い三日月模様が入っている、ツキノワグマのような姿をしているのは実はオスのほうだけなのです。
メスはどんな姿をしている?
アダンソンハエトリのメスはこのような色をしています。メスにもオスと同じような模様はあるのですが、メスは体が茶色いこともありそれが目立たず、全体的に地味な印象です。ちなみにこうした、生き物がオスとメスではっきりと違う特徴を持っていることを、性的二形と呼びます。
性的二形には、キジやクジャク、オシドリ、鹿やカブトムシなどのように色や角によって見栄えに差がある場合や、クモの仲間では、オスがメスの4分の1ほどの大きさにしかならないといった体格に差がある場合など、その生き物によって多種多様なものがあります。
アダンソンハエトリは益虫!捕まえてくれる家の害虫は?
生物が生きていく上で、食物は欠かせないものです。アダンソンハエトリたちは私たちが害虫と呼ぶような虫たちを食べて生活しており、結果として私たちとっては良い影響を及ぼしてくれるクモです。彼らに食べてもらえる害虫とはどのようなものなのでしょうか。
アダンソンハエトリのエサ①ハエ
アダンソンハエトリの代表的なエサに当たるものがハエの仲間です。『窓を開けたまま洗濯物を干していたら気がつくと室内にハエが入ってしまっていた…』『シンクの生ゴミにあっという間にコバエが来てしまって退治するのしんどい…』という時にはアダンソンハエトリに任せておけばいつの間にか退治してくれていることでしょう。
アダンソンハエトリのエサ②ゴキブリ
キッチン周りは特にですが、知らず知らずに落ちた食品のかけらや、生ゴミなどに誘われてコバエだけでなくゴキブリをも呼び寄せてしまうことがあります。明らかに最初から大きいものが飛んできたりした場合なら直接退治する他ありませんが、実は外からやってきたり室内で生まれた子供が成長して後々現れていることも多々あります。
ゴキブリも成長段階の小さいうちなら、アダンソンハエトリたちに退治してもらうことができます。特にこうした時期の個体は私たちにとっても見つけにくい上に取り逃がしてしまうことも多いですから、大変ありがたいですね。
アダンソンハエトリのエサ③ダニ
これもまたかなりありがたいことに、カーペットなどにいると退治が大変なダニも、アダンソンハエトリにかかればそれらを捕まえるのはお手のもの。体は小さいけれど本当にアダンソンハエトリたちは頼もしい存在なのです。
アダンソンハエトリのエサ④蚊
アダンソンハエトリは蚊も食します。これからの暑くなる季節になるとこの小さなヴァンパイアたちも増えてきますから、蚊取り線香の匂いが強くて苦手な方はアダンソンハエトリに蚊の駆除をお願いするのもひとつの方法かもしれません。
実際に蚊の退治をお願いした人がいた!
この投稿者さんはとても大きな蚊に刺されあまりに頭にきたがために、その蚊を普通に叩き殺したり殺虫スプレーに頼ったりするのではなく、あえてアダンソンハエトリ(の、オスのようですね)と一緒に透明のケースに蚊を入れ、彼に仇をとってもらうことにしたようです。結果は無事成功!
また、補足になりますが、室内だけでなく家の周りの虫も減らすことができたなら…という方は、家の外は女郎蜘蛛に担当してもらうのもよさそうです。見た目は少々インパクトがありますがこちらも人間にとっては良いクモと言えます。彼らに関する詳しい記事はこちらになりますので、気になった方はどうぞ。
アダンソンハエトリの名前の由来
『アダンソンハエトリ』という、そのどことなく賢そうなかっこいい響きの名前は、一体どこからやってきたのでしょうか。ここからは彼らがその名で呼ばれることになったいきさつをお伝えしていきます。
アダンソンは発見者の名前
アダンソンハエトリは学名ではHasarius adansoniといいます。フランスの博物学者であるミシェル・アダンソン(Michel Adanson)に因んでこの名前がつけられました。
19世紀初めにはハエトリグモの仲間は皆、1805年に確立されたAttusと呼ばれる単一の属に分類されていました。アダンソンハエトリは1826年に最初そこに分類され、当初はAttus adansoniiと呼ばれていました。
ハエトリは科目名から
その後、フランスの鳥類・クモ類の学者ウジェーヌ・シモンによって1871年に作られたHasariusというハエトリグモ属へと、2012年になって最終的に分類されました。それまではいろんな他の種族へあっちへ行ったりこっちへ行ったりと分類され直していたそうです。その回数はなんと86回!
日本名では、最初からつけられていたアダンソンという名前と、ハエトリグモの仲間としてわかりやすくハエトリとつけられ、アダンソンハエトリと呼ばれています。自分の知らぬ間に自分がどこに分類されるのかについて86回も熱く人間たちによって議論が交わされていたと知ったら彼ら自身もびっくりでしょうね。
どんな風に見えてる?クモたちの大きな目
虫の目というとトンボや蝶、蜂などのように、小さなレンズの集合体である複眼をイメージされる方もいらっしゃるかもしれませんが、アダンソンハエトリも含むクモの仲間たちの目は単眼と呼ばれています。クモは目を8つ持っている種類が多いようですが、その8つの黒いキラキラした目、それぞれが大きな1つのレンズなのです。
顔の真ん中にある大きな前中眼という2つの目がメインで獲物かどうかなどをじっくり見定める役割を、その他の方向についているそれぞれの小さな目は最初に動くものを見つけるためのレーダーのような役割を果たしているようです。
複眼とどう違うの?
複眼にはたくさんのレンズを使うことで広い視野が確保でき、自分が置かれている環境での距離感などがしっかりと立体的に掴みやすくなる利点があるのですが、彼らクモたちはそうでない目を持つことを選びました。