相次ぐ通報が寄せられた結果の急展開により、無事に逮捕された市橋達也。
身柄が確保された翌12月2日、死体遺棄罪で起訴され、更には事件現場に残された証拠から市橋のDNAも検出され強姦致死容疑で再逮捕。送検後は殺人罪でも追起訴されました。
殺人罪・強姦致死罪・死体遺棄罪で起訴
2011年7月、リンゼイさんの家族が見守る中開かれた初公判では検察側は市橋達也には強い殺意があったとして無期懲役を求刑、しかし市橋側は殺意はなく強姦致死罪・死体遺棄罪のみに該当すると意見が対立しました。
無期懲役の判決
公判の中で市橋はリンゼイさんに対する蘇生処置を行ったと発言していますが、処置を認められる証拠がなく、リンゼイさんの遺族側は死刑を求刑します。しかし、市橋にこれまで前科が無いこと、更に計画性のない犯行であり今後更生の余地があるとの最終決断が下され、無期懲役の判決が確定しました。
翌8月、市橋は無期懲役を不服として裁判所に控訴。翌年3月には控訴審初公判が開廷されましたが、市橋に反省に色が見えないとの理由で棄却、刑が確定した市橋は現在も長野刑務所に服役中です。
Contents
リンゼイ・アン・ホーカー殺害事件が市橋達也の家族に及ぼした影響
世間を騒がせたリンゼイさん殺害事件。事件の当事者である市橋達也は現在も塀の内側で服役していますが、人々を震撼させたこの事件は外の世界で生活している彼自身の家族にも暗い影を落としました。
両親は仕事を辞めざるを得なくなる
名古屋市内で外科医師として勤務していた市橋の父親はこの事件を受け、当事働いていた病院を退職しています。一時期は、現在も医師を続けているのではという噂や病死説、自殺説などが飛び交っていましたが、母親の証言によると現在は仕事はしておらず、自宅にこもるような生活を送っているそうです。
母親もまた当時の職は辞めており、父親と共に岐阜の一軒家で生活しています。事件当時は市橋の実家にもマスコミが大勢押しかけ、両親共に憔悴していた様子でした。
姉は離婚することに
市橋達也の姉は既婚者で両親と同じく医療関係者であったとされていますが、この事件を受けて離婚されたそうです。両親とは異なりマスメディアへの対応をした記録が残っていないため、彼女については殆どの事が不明のままです。
リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件がその家族に残した爪痕
強姦、殺害、遺体遺棄そのどれか一つとっても、自分の大切な人が被害の当事者となったのであれば家族にとってどれほどの精神的苦痛をもたらすのか筆舌に尽くしがたい思いです。そんな失意の中、リンゼイさんの家族は娘の無念を晴らすべくあらゆる活動に尽力しました。
当時22歳の娘の命が突然奪われる
日本で英会話教師になるという夢を叶えるべく、単身で日本に来日し講師として働いていたリンゼイさん。その娘が日本で無惨に殺害されたとなれば、その家族の心中は察するに余りあるものがあります。
初公判時は被害者参加制度を利用し、裁判に参加されていましたが市橋の言葉一つ一つに怒りを露にし、時には顔を覆って泣き崩れる様子も見受けられました。
家族は何度も来日し、逮捕への協力を求める
リンゼイさんの訃報は本国イギリスにも直ぐに届きました。事件を知ったリンゼイさんの家族はその後何度も日本に来日し、事件の迅速な解決を望みました。しかし、前途した通り警察の相次ぐ失態により市橋の行方は知れず、事件は長期化します。
事件解決までの2年間の間にリンゼイさん家族は街頭でのビラ配り、インターネット上やマスメディアを使っての情報提供を呼び掛けるなど懸命に活動を続けました。
リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件が社会に与えた影響
時代の移り変わりとSNSの普及により多様性が叫ばれる昨今ですが、リンゼイさん殺害事件当時多くの人々が彼女の死を悼む中、一部では市橋達也を擁護するような人々の声が聞かれました。SNS上では市橋達也のファンクラブと称したサークルがいくつも生まれ、実際に裁判所まで市橋の姿を生で見ようと押し掛けたファンも存在したほどです。
市橋達也のファンクラブができ、カリスマ犯罪者へ
市橋達也が逮捕された2009年11月、その逮捕の瞬間が大々的に報道されると市橋の風貌が俳優の水嶋ヒロや海外スターであるジョニー・デップに似ていると一部の人々の間で話題となり、その報道写真がきっかけで市橋のファンクラブができるなど世間から大きな反響がありました。
特に女性の支持者が多くマスコミやワイドショーコメンテーターが首を傾げる中、第一審には多くのファンが押しかけ、市橋の発言や仕草に感嘆の声をあげる様子も見られました。
市橋達也|懸賞金最大1000万円
市橋達也が逃走したのち、当初は100人体制で捜索していた警察本部でしたが相次ぐ捜査官の失態と、事件の長期化に伴い徐々に捜査の規模を拡大しました。
100人体制から150人体制に増加、更には指名手配ポスターも3万枚以上配布しましたが一向に捜索の進展は得られず、のちには公費懸賞金制度を導入。これによって国民を挙げての市橋達也の早期発見に期待されました。
懸賞金制度とは
公費懸賞金制度とは2007年から新たに導入されたもので、警察が捜索中の容疑者に対する有益な情報をもたらした情報提供者に規定の金額が支払われるという制度です。
リンゼイさん殺害事件の他にも1995年に起きたオウム真理教の公証人拉致監禁事件や、2005年に栃木県で小学生の女の子が行方不明になり、刺殺体で発見された今市事件なども対象となっていました。
リンゼイさん殺害事件の懸賞金受け取り人については、当時様々な憶測が飛び交い、市橋逮捕後はその話題でも持ち切りになりました。
懸賞金の支払いとその行方は
2007年に公費懸賞金制度が設けられて以降、凶悪事件における一般からの情報提供は増えたものの実際に懸賞金が支払われた実績はなく、リンゼイさん殺害事件においての情報提供に対する支払いが史上初の出来事となりました。
2009年12月24、警視庁からの正式な発表があり、情報提供者の4人への支払いが決定しました。市橋逮捕の決定打となったフェリー会社職員からの通報、形成外科から寄せられた市橋の顔写真、建設会社職員からの通報によって検出できた数々の証拠品など、どれも重要な情報であった事から上記関係者の4人にそれぞれ支払われる事となりました。
市橋達也の恩師と裁判費用の呼び掛け
市橋達也の逃亡生活中、世間から多くの注目を集めたリンゼイさん殺害事件。犯人の市橋に対するバッシング、またファンクラブの発生など様々な反応が起こる中、市橋の大学時代をよく知る千葉大学の教授が市橋の為に立ち上がりました。
ブログを開設
市橋達也が千葉大学に在学中所属していた空手同好会で親睦を深めたという本山教授は、日々マスコミにバッシングされ極悪人のように扱われている元教え子の姿に胸を痛めたと言います。
マスコミにインタビューを受けた市橋の母親もまた同じように語っていましたが、決して許されない犯罪行為を犯したとしても生きて罪を償って欲しいと願うのは、双方に共通する親心のような感情なのでしょうか。
市橋に対する世間の評価を踏まえて、現状では適切な裁きを受けることが出来ないのではないかと懸念した教授は市橋に私選弁護人をつける為にブログ上で資金を募り、最終的な募金額は340万円に達しました。
恩師にだけ話した市橋達也の心中
事件の直前に実家からの仕送りを辞めると宣告されていた市橋達也。その事が今回の事件の引き金になるほど精神的に参っていたのではと本山教授は語っています。
逮捕後、教授と面会した市橋は「私のした事を許してくださいますか」と涙を流しながら脅えきった表情を見せていたそうですが、事件を起こした理由を尋ねるも、「真実を話しても自分の言うことは誰も耳を傾けてくれない」と自嘲じみた態度をとっていたようです。
逃亡生活のすべて 市橋達也の手記
リンゼイさん殺害事件は、事件としての注目度は勿論のこと、犯人「市橋達也」本人に対するメディアや国民のクローズアップが目立ちました。逮捕後、市橋本人による手記が出版された際にはAmazonランキング1位になるなど、事件後も波紋を広げました。
「逮捕されるまで―空白の2年7カ月の記録」
世間を賑わせた凶悪犯罪者が獄中で手記を書くのは珍しい事ではありません。記憶に新しいところでは1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件の少年Aによる手記「絶歌」、更に2008年に起きた秋葉原連続通り魔事件の加藤死刑囚による手記「解」など手記をつづった経緯は様々です。
市橋達也は逮捕の翌年、幻冬舎からオファーを受け2011年に自身の逃亡生活の全容を記した「逮捕されるまで―空白の2年7カ月の記録」を出版しています。
印税はリンゼイさんの遺族への賠償に
自身が犯した罪への懺悔として獄中で執筆されたものですが、出版早々瞬く間に売り上げ部数を伸ばし、最終的な印税収入は1000万以上にも上りました。
この本で稼いだ印税は、全てリンゼイさんの遺族へあてたいと市橋は語っていましたが、リンゼイさんの遺族側は「娘の死を冒涜している」としてこれを拒否され、一銭も受け取る事はありませんでした。
リンゼイさん殺害事件は映画にも
市橋達也が逮捕された事により、事件に関する話題も報じられる機会が減り、リンゼイさん殺害事件についての人々の記憶も年々薄まりつつあります。
こちらでご紹介する映画は、そんな時間とともに風化していく出来事をいつまでも忘れないために制作されたものです。市橋とリンゼイさんの間に起きた事実を踏まえて見ると、とても感慨深い作品になっています。
「I am ICHIHASHI 逮捕されるまで」
2013年に俳優のディーン・フジオカさんが監督、主演をつとめたサスペンス映画です。2011年に出版された市橋達也の手記や裁判記録をもとに事件発生から逃亡生活の末逮捕されるまでを忠実に再現しています。
「怒り」
2014年に小説として出版され、2016年には俳優の渡辺謙さんを主演とする豪華キャストにより映画化もされました。原作者の吉田修一さんが、リンゼイさん殺害事件の報道を受け、この事に着想を得て執筆されたものです。
「怒り」のあらすじと市橋達也の関係
東京の郊外で夫婦殺害事件が発生、犯人は整形を行い全国を転々と逃亡します。警察は広域指名手配を出し容疑者を捜索しますが、犯人の行方は依然として知れず一年が経過します。
その後、容疑者によく似た3人の男が東京、千葉、沖縄で目撃されます。売春で生計を立てるゲイの男、千葉で日雇い労働者として勤務する男、沖縄の離島でサバイバル生活を送っている男など、どの人物も市橋達也を思わせる要素が散りばめられており、最後まで誰が犯人か予想が使いない極上のサスペンス映画となっています。
リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件が社会に及ぼす影響
リンゼイさん殺害事件を受け、それまで海外でイメージされていた治安の良い日本という概念が必ずしもそうではないという論調に切り替わりました。この事件が起こった2000年代では西鉄バスジャック事件や世田谷一家殺人事件、附属池田小事件など世間に衝撃を与えた残忍な事件が多く起こりました。
リンゼイさんの事件についても何不自由ない生活を送っていたはずの青年が起こした、身勝手な犯行として世間に大きな関心をもたらしました。
事件から12年余り過ぎた現在も毎日のように悲惨なニュースが報道されています。これから多くの外国人が移住してくる日本で、今後二度とこのような事件が起きない事を願いつつ、自分には何が出来るのか考える必要があるのではないでょうか。
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