スナッフフィルムとは
スナッフフィルムという言葉を聴いたことがありますか。あるいは「SNUFF]というスプラッター映画を思い出す方もいるかも知れません。これはアルゼンチンとアメリカとの合作で1976年に発表されたものです。もちろん全然関係なくはないのです。スプラッター、つまり血しぶきを上げて人が殺されるところを写した動画なのです。
販売目的で殺人が記録されたビデオ
例えば第二次世界大戦中にナチスがユダヤ人を殺戮したホロコーストなど、実際の殺人を記録した動画というのは結構存在します。ではそれが全部スナッフフィルムかというと、そうではないのです。スナッフフィルムは、販売目的として殺人を動画に収めたものでなくてはならないからです。
ナチスがユダヤ人を毒ガス室で大量殺戮したホロコーストや非道な拷問を重ねて死に至る実際の殺人記録をフィルムに収めたとしても、それはヒトラーや一部のゲシュタポ(ナチスの秘密警察)が楽しむためで、販売を目的としてはいません。だからスナッフフィルムとはいえないのです。
しかも趣味、娯楽として撮影される
一方で、いくら事故や事件、自殺などを記録映画として販売されていても、それが趣味や娯楽目的でなければスナッフフィルムではないという。つまり、事故などの映像を免許の更新などの研修用に販売されていても、それは娯楽用ではないからスナッフフィルムではないのです。最も日本では残虐シーンはぼかしてありますが。
語源は「蝋燭を吹き消す」という擬音語から
snuffというのは実にいろいろな意味を持った言葉です。元々の意味は「鼻でクンクン臭いをかぐ」ときのクンクンという擬音を表現する言葉のようです。臭いを嗅ぐことから嗅ぎタバコ(鼻の穴にこすって臭いを楽しむタバコ)という意味を持ちます。嗅ぎ分けるとか嗅ぎつけるという意味もあります。
快調であるとか、打ちのめすとか、抜け目ない、あるいは取るに足らないものといった意味もあります。アメリカとイギリスでも意味が違うし、こうなると文脈で意味を判断するしかない言葉です。そのなかでも「ろうそくを吹き消す」ときのフーッという擬音に使われたことが、スナッフフィルムにつながっているようです。
殺人をも表す
ろうそくを吹き消す、あるいは火の消えたろうそくの芯までも表すスナッフは、殺人をも表現するようになります。人の命をろうそくの炎で表現することはよくありますよね。それを吹き消すわけですから、殺人という意味に繋がるのはなんとなく理解できます。
スナッフフィルムの起源
スナッフフィルムというのは、最初「残虐なシーン」を撮影したビデオという意味で使われることも多かったようです。例えば猟奇的な殺人犯をマスコミが取り上げるときに、そういうビデオが部屋にたくさんあった、と報じられてきました。そうするうちに、本物のスナッフフィルムが存在するという都市伝説が生まれたようです。
アメリカを騒がせたマンソンファミリーの事件
1969年。当時アメリカで女優をしていたシャロン・テートが、ロスのご自宅で友人と一緒に殺害される無差別殺人があった。この犯人がカルト集団であるマンソン・ファミリー。首謀者はチャールズ・マンソンです。彼は死刑判決を受け、後に終身刑になります。
事件について書かれた書籍にスナッフフィルムが登場
その彼の供述をエド・サンダースが出版した本が『ファミリー―シャロン・テート殺人事件』です。この本の中でチャールズ・マンソンによって「1本だけ、27歳くらいの女が本当に殺されたビデオがある」という内容が語られました。それは、カリフォルニアで実際にマンソンファミリーが殺人を起こし撮影したものです。
他にもマンソンファミリーは、集団でのレイプやリンチ、乱交パーティー、あるいは野生動物を殺戮する動画を取っては闇ルートで販売しているという噂が多くの人に信じられることとなりました。そういうことを行うフリーク・アウトが定期的に開催されていました。
事件以降スナッフフィルムの存在が噂されるように
このマンソン発言が、本当のスナッフフィルムが存在するという確信を世間に与えることとなりました。大量に無差別殺人を起こしていたカルト集団の首謀者が写したというのだから、間違いありません。そういうものが存在するだろうと都市伝説まで生んだ噂に信憑性を与え、続々とエクスプロイテーション映画が作られました。
エクスプロイテーション映画とは、興行目的のために、社会問題などを扱った映画をいいます。興行目的という性格上、真面目なノンフィクションとは異なり、面白おかしく、あるいは覗き趣味を満足させて人気さえでればいいという側面を持つ特徴を持っています。
闇ルートで販売
これをきっかけに「スナッフフィル身が闇ルートで販売されている」という噂が世間に流布しました。そこで現在は廃刊となったスクリュー・マガジン誌では、現物のスナッフフィルムを送ってくれたら10万ドル、というキャンペーンを行いましたが、実際にビデオを送った人はいなかったそうです。
スナッフとは少し違いますが、映画やドラマにもなった、あまりにも有名な日本の昭和の愛憎劇的事件。まだ現代のように性や男女関係に関しても厳しかった昭和の愛憎劇。愛情なのか、そこまで性におぼれることが、本当に愛なのか、殺人とは何なのか、深く考えさせられる事件です。
本物の殺人が記録された映画と噂の「SNUFF」
スナッフフィルムの話題が取り沙汰されるなか、これぞまさしくスナッフフィルムだという触れ込みで、1本の映画が注目を集めます。その映画こそ「スナッフ」です。実際にはどんな映画だったのか、見ていきましょう。
元々は「スローター」という映画だった
スナッフはもともと南米制作された「スローター」という映画でした。これはマンソンファミリー事件を参考に、サタンという男が次々とブロンド女性を殺害していくという、セクスプロイテーション映画でした。エクスプロイテーション映画のなかでも、セクシーな題材を扱っているものをセクスプロイテーション映画といいます。
「SNUFF」のあらすじ
「スローター」の配給権を得たのは米カリフォルニアの映画プロデューサー、アラン・シャクルトンです。サタンによるブロンド美女連続殺人事件という陳腐で冗長な映画「スローター」の最終部分に彼は新しい5分間のシーンを付け足しました。この5分間によって大ヒット作に生まれ変わったのです。
問題の殺人シーン
カーット。「スローター」の本編が終わると映画の撮影現場シーンに変わります。そこで監督が女性ADをベッドに押し倒します。周囲のスタッフも彼女を押さえつけます。おふざけかと思った彼女の声が絶叫に変わる頃、パンチやのこぎりで彼女をバラバラにし「やばい」とスタッフが全員逃げるところで映画が終わります。
宣伝効果で社会現象に
殺人が日常茶飯事の南米。宣伝の文句には「命の値段が安い南米だからこそ撮影できた」と歌われ、監督は本当の殺人シーンが使われているということをあちこちで言いふらしました。キャスティングについても明かされないという不思議な映画とんりました。これらのことが「あり得るだろう」という評判を生み、社会現象を巻き起こしました。
本当の殺人や死体が使われたのでは?と疑われた映画
当時の特殊メイクや撮影技術の問題もあるが、作られた殺人シーンよりも、よりリアルな殺人シーンのある映画がスゴイといわれる風潮があり、中には本当に殺人シーンを撮影したかもしれないという噂のある映画は、なかり評判になった。当然、証拠を明白にはしないで「これは本当の殺人だ」といわれる映画が続々と登場したのです。
映画①「ギニーピッグ2:血肉の華」
ギニーピッグは複数の男性が女性をいたぶりまくるシーンだが、2作目の「血肉の花」は女性の解体する工程のみを写した動画です。日野日出志というホラー漫画家で監督の真骨頂として80年代に発表されたシリーズです。特にこの2作目は当時実際に女性を殺し解体したのではないかという評判が立ちました。
実際に有名俳優チャーリー・シーンアメリカの配給会社がFBI連邦捜査局に訴えられ、同局も捜査に当たったのです。しかし、結局殺人の証拠が出ないままにシリーズ3作目で「メイキング」が発表されて、特殊な撮影を行った、つまり殺人ではなかったことが明らかになっています。
宮崎元死刑囚も所蔵
ギニーピッグシリーズは東京・埼玉で連続幼女殺害事件の犯人である宮崎勉元死刑囚の所蔵ビデオであるkとおも話題となりました。しかし実際に持っていたのは、かなりコメディ路線であるシリーズ5であるようです。
映画②「食人族」
アマゾンの奥地に撮影取材に行ったクルーが行方不明。ドクターモンローが彼らの捜索に行き、このフィルムを発見するという設定です。取材班は現地の野蛮で殺人や動物虐待ばかりをフィルムに収め、現地の人たちの怒りをかって全員殺されてしまう記録映像が残っていました。(串刺しの女性は後にトリックと判明)
イタリアでは上演4時間にして中止、監督のルッジェロ・デオダートが訴えられた。そのため、スタッフがイタリアに赴き特殊撮影の技術を説明したが、動物虐待では有罪判決が出ました。また、海賊版がイギリスで没収されたときには「これはスナッフフィルム」と判決が出ています。これらの評判で日本では大ヒットしました。
映画③「Faces of Death – ジャンク 死と惨劇」
1979年にアメリカで発表されたドキュメンタリー作品。殺人鬼が2000ボルトの電気イスで処刑されるシーンや、ライフル乱射魔がSWATTに撃ち殺される瞬間。殺人魔がガス処刑される瞬間。飛行機事故の悲惨な上京。列車大事故で積み重なる死体。あるいはワニが人間を食い殺す瞬間などが納められています。
映画④「THE MAN BEHIND THE SUN – 黒い太陽731」
1988年の香港映画。日中戦争で関東軍石井731部隊が行った人体実験を残酷に描いたものです。残酷な拷問のオンパレードです。氷の中に浸した手を熱湯に入れて肉をもぎ取る。ガス室で親子が処刑される。圧力を減らす部屋に男を入れてお尻から腸を出させるなどです。特に少年を解剖するシーンは本当に殺したのではないかと疑われました。
後に病院に死にそうな男の子を予約していたことが判明。ほかにも死体が次々と焼かれるシーンもリアルな映像ではないかといわれています。80年代エクスプロイテーション映画もここに極まったという感じです。
スナッフフィルムを題材にした作品
エクスプロイテーション映画が存続できる理由には、それを受けいれるマーケット、つまり見たいという人々の特急があることも事実です。それは動画というリアルなカタチだけでなく、アニメや小説という、オブラートに包みながらもより想像力が膨らむメディアにまで影響しているのです。