ひかりごけ事件とは?初めて裁かれた食人事件の内容や判決は?映画化も

最初にも述べましたがこれは日本人特有の死者への過剰とも言える敬意と生者を軽んじる風潮から起きた凡例とも考えられます。司法の場でさえそうだったのですがら、彼は生活の中でどれだけの人にその生を否定されたのか想像するにあまりあります。

ひかりごけ事件同様に物議を醸したウルグアイ空軍機571便遭難事故

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日本ではありませんが、同じようにやむを得ない状況での人肉食が行われた事案があります。それが、アンデス山脈で起こった飛行機の墜落事故です。簡単にその概要をご説明します。

生き残るために食人を行う

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悪天候のため山の一角に機体を衝突させたために墜落した飛行機には、合計で45人が乗っていました。最終的な死者行方不明者はそのうち29人に及び、生存者たちも食べ物も民家もない極寒の山中で絶望に打ちひしがれました。

機内にも食べ物はなく、生存者の中のひとりが死者の肉を食べることを提案し、キリスト教徒であった彼らの中にはその提案に嫌悪感をあらわにする者もいましたが、最後にはやむなく全員がそれを承諾して生存者の全員が人肉を食べて生き延びました。

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日本の一件と同様、生き残る為に選択を迫られ、やはりこちらでも人々は明日の命をつなぐために食べることを選択しました。極限の状況下ではやはり人は自身の命のためにやむを得ずそういった選択をしてしまうものなのでしょう。

日常的に私たちは生きていくために栄養摂取という名目の元他の動物の肉を食らっています。これらの事件はみんなその延長線上に位置しているものであり、なにかを犠牲にして生きているという意味では普段の私たちとなんら変わらない行為をしているに過ぎないのです。

生還後は世界中から避難殺到

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必死に生き延び、なんとか救助を呼ぶことができた彼らを待っていたのは、生き残るために行った食人を批判する多くの心ない声でした。特にキリスト教ではこの行為はタブー視されているため、神に背く罪人であるかのような言葉が彼らに投げかけられました。

実際にその行為を行った彼らとしても罪の意識を感じながらも仕方なく行ったため、その世間の声は深く心に突き刺さりました。生き残る為に仕方ないとは言え、やはり船長と同様彼らも自分の行ったことに苦しむことになりました。

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実際に死地に立たなかった人間たちが必死で生きた人達に心ない言葉を吐きその生存自体を後悔させるような動きは世界共通の人の業であるということがこの一件でよくわかります。そういう人たちは果たして自分が同じ立場だったらと考えたことがあるのでしょうか。

生きるためにすべてのことが肯定されるわけではありませんが、すでに命のない人だった肉塊を前に生死の境に立たされるほどに飢えた人間がはたしてどれほどの尊厳を見いだせるのでしょうか。

カトリック教会は彼らが罪に当たらないと発表

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そんな状況を重く見た教会はすぐに彼らは生き残る為に仕方なくそれを行ったのであり、彼らには罪はないという見解を公式に発表しました。船長の時とは違い、教会は彼らに寄り添い彼らの立場になって考えてくれたということでしょう。

この例を見るとやはり当時の日本の司法は船長の立場に立って考えるということが足りなかったのかもしれません。宗教ではっきりと食人を否としている文化圏でさえもそれを罪でないと断言したのですから、無宗教の日本ではなおのこと認めてあげるべきだったのではないでしょうか。

ひかりごけ事件の由来となった短編小説『ひかりごけ』

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冒頭で一度ご紹介しましたが、この事件の名前の由来は小説のタイトルです。ではここでは、この小説はどういったものなのかについてご紹介していきます。

1954年の武田泰淳による短編小説『ひかりごけ』が事件名の由来

 

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この小説は船長の噂話を元にしたフィクションです。事実とは異なる部分も多く、この小説では船長は最終的に殺人を犯してしまっていますし、元から食人を好んでいるような描写があります。

この話は実際に元にされた彼にインタビューなどをしたということはないため、読む際にはあくまで実際の事件とは切り離し、別のものとして楽しみましょう。

ウワサを基に描かれた『ひかりごけ』によって船長は風評被害に

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この小説が公開されたのは事件から10年ほど経った頃でしたが、これが元になり事件の知名度が上がってしまい、小説のように彼が人を殺して食べたのではないかという噂が大きく広まることになってしまいました。

彼は反論しても仕方ないと世間に対して弁解することはしませんでしたが、その内心にはどれほどの罪悪感と絶望があったでしょうか。生きるためにした行為が結局どこまでいっても彼を苦しめたことは皮肉と言うほかありません。

小説のタイトル『ひかりごけ』とは暗所で光るコケのこと

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標題は、実在する苔の名前からとられています。作中ではこの苔に似た光の輪が罪人の背後に現れるという表現が使用されています。罪の象徴とされているものの名前が事件の名前として有名になってしまったということもまた彼にとっては不名誉なことでしょう。

作者はこの作品を発表する前にそれを世に送り出すことでどのような影響があるのかを慮るべきでしたが、それを怠ったために彼は生涯この作品という十字架を背負わねばならなくなっていました。

小説だけでなくさまざまなメディアで注目を集めたひかりごけ事件

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実際の事件が元となっていることもあり話題を呼んだこの作品は、様々なメディア展開がされました。どのような展開があったのか、一部をご紹介していきます。

NEXT 1992年には熊井啓監督によって映画化された『ひかりごけ』