片眼鏡とは
片眼鏡と言われれば、上品で知的で余裕のあるジェントルマンのイメージが湧いてきます。はたまた、知的でミステリアスなかっこいいアニメキャラクターを思い浮かべた人もいらっしゃるでしょう。
別名「モノクル」とも呼ばれる片眼鏡は、おしゃれの用途で利用するイメージがあるかもしれませんが、もともとは度が入ったものが使用されており、眼鏡としても利用されていました。
日本では、明治時代に片眼鏡が流行したようです。しかし現代、日常の中で見かけることが少ないので、あまり馴染みありません。そんな片眼鏡について、詳細をご説明していきます。
片眼鏡は片目のみにかけて使用する眼鏡
その名の通り、片目のみの眼鏡となっているものを指します。普通の眼鏡は耳にかけて位置を固定していますが、片眼鏡には耳にかけるためのフレームはついていません。この独特なかけ方ゆえ、日本人には馴染みのないものとなっています。
片眼鏡にはファンが多い
馴染みがないはずなのに、片眼鏡と聞いて大抵の人はイメージが浮かんでくるでしょう。なぜかと言うと、テレビの中で度々見かけることがあるからです。
片眼鏡は知的さや、ミステリアスな印象・かっこよさから、アニメのキャラクターに使用されることが少なくありません。さらに片眼鏡をかけたキャラクターにはファンが多く、人気も集めています。
片眼鏡の種類①手で支えるタイプ
片眼鏡のかけ方ですが、方法は1つではありません。それぞれのかけ方をご紹介していきます。
まず手で支えて使用するタイプがあります。常時かけているものではなく、新聞や本を読むときに目にレンズを当てて、文字を読みやすくするといった、老眼鏡やルーペのような使われ方をしていました。
片眼鏡の初期型
片眼鏡は19世紀に大きく流行しましたが、それまでにも流行り廃りを繰り返しており、手に持つタイプはその中でも初期の型であったとされます。また眼鏡の歴史は古く、文字を拡大する用途で使用されるようになったのは9世紀ごろからでした。
この頃は目に当てるものではなく、読みたい文字にレンズを当てて使用されていたため、手に持つタイプの片眼鏡はこの歴史の延長だったのではないでしょうか。
身体への負担が少ないのが特徴
使用することによって片目だけが見えやすくなるため、それぞれの眼での見え方が変化します。すると眼への負担が大きくなり、身体に良い影響を与えません。手で支えるタイプであれば短時間の使用で済み、眼への負担も少なくて済みます。
片眼鏡の種類②眼窩にはめ込むタイプ
片眼鏡の一番主流なものが、この眼窩(がんか)へはめ込むタイプです。眼窩へはめることにより、両手が空くため便利であるとされていました。19世紀に流行したのはこのタイプのもので、多くの紳士が愛用していたデザインです。
彫りの深い西洋人向き
目元の彫りを利用してかける眼鏡のため、西洋人向きの眼鏡であるとされます。そもそも、彫りが深くない日本人を含む東洋人には、かけること自体が難しいのです。
普段は首から下げる
眼窩にはめてはいても、ふとした拍子に落下してしまう危険性があります。そのため対策として、紐や鎖をレンズに通し首から下げられるようにしたものが、製造されるようになりました。
レンズのみのタイプもありますが、次第に装着のしやすさを考慮した形へと進化していきます。金属製のフレームにレンズを付けたもの、さらにフレームに足を付けることではめ込み易くしたタイプも登場しました。
片眼鏡の種類③鼻にかけるタイプ
最後は鼻にかけるタイプです。眼鏡の、レンズとレンズの間の鼻にかける部分をブリッジと言い、このブリッジと片レンズで作られたものがこのタイプに属します。
片眼鏡の鼻にかけるタイプは最近登場
このタイプの片眼鏡は歴史に新しいですが、アニメ界では前述の2タイプに次いで人気となっています。またレンズのついている側にだけ、耳にかけるためのフレームが付いたものもあり、日本人にもかけやすくなったものが登場しています。
片眼鏡の中ではあまりポピュラーではないタイプ
人気とは言ってもヨーロッパで流行した歴史があるわけではなく、他のタイプには引けをとっていたようです。日本でもお目にかかる機会はなかなかありませんので、片眼鏡と聞いてこの形を連想することは少ないでしょう。
片眼鏡をかけている例①歴史上の著名人
この眼鏡が流行した19~20世紀の著名人の多くは、この眼鏡をかけた写真が残されています。軍人、詩人、政治家、映画監督など、職業に限定することなく、広く愛用されていました。
片眼鏡を愛用した著名人①カール・マルクス
彼は、ドイツ出身の哲学者・思想家・革命家として知られます。資本主義・共産主義の社会へと、世界が変革していく必然性を説いていました。
友人や娘たちから「オールド・ニック(悪魔)」というあだ名で呼ばれるような見た目だった彼ですが、友人のからかいの手紙に笑いで返すような、ユーモアも兼ね備えた人でした。
片眼鏡を愛用した著名人②モーリス・コステロ
コステロ氏はアメリカ出身の俳優です。色男で多くの女性に人気だった彼は、数々の映画にも出演しており、あのシャーロック・ホームズ役も演じたことがあるとされます。
娘、孫、曾孫までが俳優業についており、サラブレッドの始祖としても有名です。
片眼鏡を愛用した著名人③アルフォンス・ドーデ
フランスで陰鬱な子供時代を過ごしたドーデ氏は、教職を辞めたのちに書いた詩集が人気となり、作曲や小説の執筆を行っていました。彼は反ユダヤとして有名で、これに関わる「ユダヤのフランス」という作品がフランス人に大きな影響を与えました。
片眼鏡を愛用した著名人④ジョゼフ・チェンバレン
イギリスの政治家として知られるチェンバレン氏は、バーミンガム市長として政治改革を行いその名を上げました。「労働者の心理や願望を深く理解した人だった」と評価されています。
またバーミンガム大学の創設者でもあり、威厳を持ち自身の信念を貫いた、国民思いの人物であったとされています。
片眼鏡を愛用した著名人⑤フリッツ・ラング
彼はオーストリア出身の映画監督で、片眼鏡がトレードマークとしても知られています。ドイツで映画監督として活躍していた彼ですが、ユダヤ人であるためにヒトラー政権から逃げ、命からがらアメリカへと亡命します。
アメリカでハリウッドの仲間入りを果たし、ここでも多くの作品を残しました。
片眼鏡を掛けている例②アニメキャラ
ここからは片眼鏡といえば、というアニメキャラたちをご紹介していきます。いずれも有名な作品ですので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
片眼鏡をかけたキャラクター①怪盗紳士ルパン
怪盗の代表格・ルパンです。シルクハット・燕尾服・ステッキ・モノクルが彼のイメージですが、実は作中には見た目に触れることは書かれていません。発売時の表紙絵により、“怪盗と言えばコレ”というイメージが広がったのです。
片眼鏡をかけたキャラクター②怪盗キッド
怪盗キッドは、「まじっく快斗」「名探偵コナン」で登場する怪盗で、2019年のコナン映画にも出演している話題のキャラクターです。レンズの耳側に紐がつけられ、その先にはトレードマークであるクローバーが描かれたチャームがついているのが特徴です。
片眼鏡をかけたキャラクター③フォルテ・シュトーレン
こちらは「ギャラクシーエンジェル」に登場する、女性キャラクターです。片眼鏡をかけた女性キャラクターは珍しいですが、知的で大人な彼女に良く似合っています。
射撃を得意としており、幼いころに負った傷で左目の視力が低下したものを補うために、片眼鏡を装着しているとされます。
片眼鏡をかけたキャラクター④ウォルター・C・ドルネーズ
漫画作品「HELLSING」に登場する、老執事役のキャラクターです。20世紀末のイギリスを舞台に、吸血鬼と敵対する一族に仕え、一緒に戦ったり執事としての仕事もこなす、できる執事です。
作中では14~69歳頃の彼が登場しますが、青年期あたりから片眼鏡を装着する姿が見られるようになりました。
片眼鏡をかけたキャラクター⑤佐々木異三郎
こちらも有名な作品「銀魂」に登場するキャラクターで、見廻組という武装警察の局長を務めています。「三天の怪物」と呼ばれる文武両道なエリートで、片眼鏡がインテリさや気難しそうなイメージを醸し出しています。
基本的に無表情ですが、メールの時だけショタコン風の字面になるという可愛らしい一面を持っており、このギャップがファンにも人気となっています。
片眼鏡はスチームパンクファッションでも人気!
スチームパンクは、イギリス・ヴィクトリア朝に蒸気機関車や飛行船が飛んでいるような雰囲気を連想させる、世界観のことを指します。1980~90年頃に人気となったジャンルで、「海底二万里」を執筆したジュール・ヴェヌルなど、著名な小説家にも好まれる題材でありました。
片眼鏡が人気のスチームパンクとは?
ファッションや芸術にも影響を及ぼしており、近未来と機械的を掛け合わせたような雰囲気に未だに多くのファンが存在します。片眼鏡にも、この世界観に影響されて機械的で独特な形へと姿を変えたものが作られ、ファッションとしても楽しまれています。
スチームパンクの世界観
スチームパンクを連想できるアニメをご紹介します。有名なジブリにもこの世界観が登場することが多くあり、「言われてみれば」「こういう世界観のことか」と、納得いただけるでしょう。
天空の城ラピュタ(1986年映画)
このアニメに登場する、鉄板をつなぎ合わせた見た目の列車や飛行船は、まさにスチームパンクを連想させます。またラピュタという幻の島では、地上の人々にはない発達した文明の遺産が多く残されており、未来的な技術革新を想像させてくれます。
鋼の錬金術師(2001年から連載)
19世紀のヨーロッパが舞台なのですが、現実と異なるのは“錬金術”と呼ばれる学問が広まっている世界であることです。錬金術とは、物質の構造を解き明かし、その物質を用いて新しい物質を作り出す術と言われています。
ある兄弟が幼少期に、錬金術の禁忌とされる“人体蘇生”を行い、兄は左足を、弟は全身を失ってしまします。義手・義足の兄と、甲冑姿の弟が、身体を取り戻すために冒険するお話です。
ハウルの動く城(2004年映画)
イギリスのファンタジー小説を原作としたこの作品は、魔法が存在する国を舞台としたお話です。ヒロイン・ソフィーの暮らしていた街は、フランスのアルザス地方をモデルとして描かれており、石畳やレンガで作られた街並みが可愛らしい印象を与えます。
ここで忘れてはいけないのが、ハウルの「動く城」です。これが鉄や建物をつなぎ合わせた、生き物のような見た目をしており山を移動しています。所々から煙がのぼる姿は、蒸気機関車も連想させます。
死者の帝国(2012著・2018年映画)
こちらも19世紀が舞台となったお話で、フランケンシュタイン博士が屍体蘇生術を成功させ、世に浸透したという世界が繰り広げられています。冒頭では、“霧の街ロンドン”の描写も入ります。
目的を果たすために国外へ出るのですが、移動手段で潜水艦が登場します。また、蘇生に用いられる機器や建物の構造には、大小さまざまな歯車が描かれており、これがスチームパンクを感じさせています。
片眼鏡の歴史
眼鏡の歴史は古いですが、“耳にかける”という現在のスタイルへ進化したのは、17世紀でした。18世紀ヨーロッパのファッション文化の進化に伴い、様々な形の眼鏡が現れましたが大衆には高級品であり、一部の人間が使う道具でした。
片眼鏡は18~19世紀の貴族階級で流行
片眼鏡もそれに属します。貴族階級に位置する人物が手にすることの出来るものであり、自身の富の象徴でもありました。映画などの作品においても、ある程度の上流階級の人物が片眼鏡を付けて登場しています。
片眼鏡は主に男性が掛けていた
片眼鏡を女性がつけることは極めて稀で、一般的には男性が使用するものでした。イギリスでは自身の執事に片眼鏡をかけさせ、階級や威厳を主張するということも流行りました。
同時期に流行したオペラグラス
19世紀ヨーロッパではオペラが流行したことに伴い、オペラグラスと呼ばれるガリレオ式の双眼鏡も人気となりました。こちらも貴族の嗜みとして愛用され、オペラの観劇の際に利用されていました。
しかし現代の双眼鏡に比べるとその差は歴然、その後はファッション・玩具として扱われました。双眼鏡はプリズムを搭載することにより、遠くのものが格段に見やすくなりました。双眼鏡をお求めの方は、こちらもご覧ください。
片眼鏡の本来の役割とは
今までご説明した内容だと、片眼鏡はファッション文化の一環や階級の象徴であると思われますが、誕生時は眼鏡として使われるための役割を持っていました。ここでは片眼鏡の、本来の役割をご紹介します。
片眼鏡は不同視矯正をするための器具
もともと片眼鏡は、左右の視力が大きく異なる場合に用いるよう開発された眼鏡でした。多くはありませんが、片目だけが集中的に視力が落ちていくケースがあります。
そして左右の見え方が大きく異なれば、生活がし辛くなります。そういった方のために開発された眼鏡なので、このようなファッションとして注目を集めることになるとは、眼鏡屋さんも予想ができなかったでしょう。
片眼鏡を本来の目的で使用していた人は少なかった
思わぬブームが到来した片眼鏡ですが、前述の通り本来の目的で利用した人は少なかったようです。ファッションとしての役割を多く持ち、ここから眼鏡がファッションの一部であるという文化も加速します。
私たちが眼鏡を選り取り見取りの中から選ぶことが出来るのも、おしゃれとして楽しむことが出来るのも、この時代の文化があってこそでしょう。
おしゃれな眼鏡と言えば、サングラスも忘れてはいけません。サングラスは色付きのレンズのために印象が大きく変わったり、フレームやレンズが多種多様であったりと、ファッション要素も強く持っています。
さらに、眼は紫外線を浴び続けると異常をきたしやすくなるため、サングラスは眼の保護にもぴったりです。おしゃれとしても楽しめるサングラスを、メンズ・レディースごとに紹介した記事がこちらです。
片眼鏡は現在でもヨーロッパの眼鏡屋で売っている!
ヨーロッパの眼鏡屋さんでは現在も、片眼鏡や鼻眼鏡の取り扱いがされています。そして2009年にひっそりと、片眼鏡のブーム再来と思わせる出来事が起きていました。
イギリスのある眼鏡チェーン店が、大量の片眼鏡の受注を受けて驚いたと、嬉しい困惑のコメントをしています。顧客に理由を尋ねると、「自身の祖父たちの世代のファッションをしたいと考えた」という回答が。
しかしその後は、話題になるほどの流行とはなりませんでした。この頃からコンタクトレンズが更なる発展、大きく普及したために、その波に飲まれてしまったのかもしれません。
片眼鏡は日本ではオーダーメイドで作ることができる!
日本人には装着が難しいとは言っても、片眼鏡に憧れを持つ方は少なくないはずです。しかしチェーン店のような場所では、なかなか見かけることが出来ません。