ちびしかくちゃんが怖いと話題に!闇を感じるさくらももこの漫画

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ちびしかくちゃんがかなりブラックな漫画だということはわかりましたが、一部ではダークを通り越して「怖い」と言った声も聞かれます。「下手なホラーよりも読後感が辛い」や「精神をやられそうになる」といった感想が散見され、闇の深さが物議を醸しました。

軽い気持ちで読み始めると、メンタルを削ることになりかねません。

さくらももこさんが『ちびしかくちゃん』を作った意図とは?

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では作者がこのように強烈な作品を生み出した意図は一体どんなものなのでしょう。この癖の強い作風はどのようにして生まれたのでしょうか。

次にちびしかくちゃん誕生の背景をご紹介します。

さくらももこさんの少女時代が元になっている可能性

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ちびまる子ちゃんのモデルが作者自身であることは有名な事実です。作者の少女時代を土台に、実在する人物を織り込みながら描かれたコミックエッセイと言われています。

小学生時代をユニークに表現しているちびまる子ちゃんですが、中には実際の人物とは全然違う性格に仕立てられた人もいます。いつもまる子の味方をし、寄り添ってくれる友蔵は、実際にはとても辛辣な祖父だったと後にエッセイで語っています。友蔵は、作者の理想のおじいちゃん像を投影しているようです。

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作者は「もものかんづめ」や「さるのこしかけ」といった多くのエッセイ本の中で、ちびまる子ちゃんに登場する人物数名について詳細に語っています。自身の幼少期~学生時代の話も多く書かれており、実はちびまる子ちゃんほどハートウォーミングな少女時代を過ごしていたわけではないことが伺えます。

子供の頃は「ほとんど親に褒められたことがなかった」や「友蔵は母にも姉にも大変嫌われていた」と語っており、和気藹々としたちびまる子ちゃん一家は、実は作者の理想を落とし込んだものと言えます。

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こういった例を見ていると、実はちびしかくちゃんで表現された荒涼としたムードこそが、実際の少女時代の作者の状況に近いとも言えます。ちびまる子ちゃんをベースにしている作品だけに、ちびしかくちゃんも自身がルーツとなっている可能性があります。

実は『ちびまる子ちゃん』と変わりない?

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ダークさが目立つちびしかくちゃんですが、実はちびまる子ちゃんもブラックさは随所に見え隠れしていました。テレビ版は、子どもも見るアニメのため多少アレンジされていますが、原作では結構残酷な描写が見られることがあります。

家が火事になった永沢君を励ます話が不謹慎すぎて笑えなかったり、街で見かけたカップルがあまりに不細工で笑っていたら一緒にその場にいた野口さんのお兄ちゃんだったという話だったり、笑いの中でも「苦笑い」に分類されるような話が多々見られます。

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ちびしかくちゃんは、こういったちびまる子ちゃんのシュールな部分を切り取り膨らませた、実はちびまる子ちゃんとあまり変わりない漫画とも言えます。

世知辛い世の中を生きる子供たちを応援したい気持ち

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ちびしかくちゃんが敢えて残酷に描かれている背景には、子供は子供なりに大変な世界で生きていることを理解し、それを応援したい気持ちがあるのではないかという声が聞かれます。

小学生くらいの子供が抱えがちな周囲への不安や不信感を赤裸々に描くことで、今辛い思いをしている人に向けて「そう思っているのはあなただけではないよ」と寄り添っているようにも見えます。

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大人の社会とは違いますが、子供の世界にも確実に人間関係や理不尽な出来事は存在します。そのことに理解を示し、嫌な目に遭うのは必ずしも自分のせいではないと鼓舞している漫画とも言えるでしょう。

さくらももこさんの作品は意外とブラック?

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ちびまる子ちゃん、ちびしかくちゃんともに作者のダークなユーモアセンスが散りばめられていますが、実はさくらももこさんの作品には共通して、この癖のある作風が全面に押し出されています。

代表作と言えるちびまる子ちゃんも前述の通り少し不謹慎な笑いやギリギリの表現があちこちに見受けられますが、その他の作品にも鋭い描写が多く取り入れられており、ハッとする場面によく出会います。

ちびまる子ちゃんスピンオフ作品「永沢君」

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さくらももこさんの作品のひとつに、ちびまる子ちゃんから派生した「永沢君」という漫画があります。ちびまる子ちゃんに登場する永沢君が既に、登場人物きってのダークさを持っているわけですが、この作品はその陰鬱なキャラをメインに展開されているため、作品全体からシニカルな空気が漂っています。

主に藤木君や小杉君といった、本家ちびまる子ちゃんの方でも湿っぽいオーラを放っていた人物たちで構成されているため、全体的な陰気臭さがなかなかのものですが、それが妙に笑えて癖になる、絶妙な作品です。

見た目とは裏腹にシビアな「コジコジ」

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ちびまる子ちゃんがさくらももこさんの代名詞的作品と言えますが、他にも「コジコジ」という個性的なコミックが存在します。全4巻ながら根強いファンの多い作品で、メルヘンで優し気な雰囲気のキャラクターのわりにセリフが辛辣という独創的な漫画です。

セリフの内容が妙に皮肉っぽかったり、核心を突きすぎて辛辣だったりと尖った部分が多いのですが、キャラクターデザインはファンシーというギャップに病み付きになる人も多いと言われています。

人生に対して気付きを与えてくれるような鋭い名言もあるため、ただブラックユーモアを詰め込んだだけという軽い作品ではありません。

さくらももこさんのルーツに触れるエッセイ「まる子だった」

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さくらももこさんの世界観に触れられるのは、漫画作品だけではありません。むしろ、エッセイ作品の方が事実に基づき詳細に自身について語られているため、そのダークなセンスの真髄に迫ることができるとも言えます。

さくらももこさんは、多くのエッセイを残しており、特にちびまる子ちゃんを愛読していた方には「まる子だった」を含む3部作を読んでみることをおすすめします。

「あのころ」「まる子だった」「ももこの話」の3冊で構成されており、作者のまる子時代の話が赤裸々に綴られています。ちびまる子ちゃんやちびしかくちゃんで表現されているブラックさのルーツを知ることができ、普通とは異なった視点の絶妙な重さが存分に発揮されています。

さくらももこさんが『ちびしかくちゃん』を通して伝えたかったこととは?

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ちびしかくちゃんは、ただの一風変わったコメディ漫画ではありません。ちびしかくちゃんの世界には、そのブラックさの中に様々なメッセージや教訓が存在しているのです。

作者がちびしかくちゃんの世界から読者へ向けて発しているメッセージとは一体どんなものなのでしょうか。

『ちびまる子ちゃん』との比較から読み取ってほしかったこと?

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ちびしかくちゃんの中でも印象的なシーンのひとつに「ちびしかくちゃんがちびまる子ちゃんのアニメを見る」という箇所があるのですが、この部分がまさに、ちびしかくちゃん全体を通して表現されているものの集約的な場面とも言えます。

まる子の気楽さをお手本に

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まる子は自由奔放に振る舞い、家族にも友人にも気を遣うことなく伸び伸び発言し、それでいて愛されている。一方しか子はいつも周囲の理不尽な人物に振り回され、徹底的に自己肯定感の低い性格になってしまっています。

しか子は自分がこんな目にばかり遭うのは、自分に原因があるからだと思っているのですが、客観的に見ると明らかに周りの横暴さだったり状況のせいだったりします。

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自己肯定感が低く、生きづらさを感じている人に「卑屈にならなくても良いんだ、自分は悪くないんだ」という意味を込めて、まる子の気楽さを見習って自由に生きようというメッセージを伝えているのではないかと考えられます。

少しの勇気を持とう

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しか子は自分のウジウジした性格のせいで、周りが一方的に責め立ててくるのだと思っています。筋違いな叱責が大半なので、ここに少しだけ弁解する勇気があったなら、しか子はここまで酷い扱いを受けることはないでしょう。一方まる子は、こういったシチュエーションでは自信満々に言い返す姿がよく見られます。

これは自分の尊厳を守るためにも、少しの勇気が大切であることを暗に語っていると言えます。

しか子が濡れ衣を着せられ責められているシーンもよくありますが、こういう状況では「自分は悪くないと言い切れるときはしっかり言い返す勇気が大切」という教訓が込められていると考えられます。しか子を通して、自信を持つことの大切さと勇気の重要性を伝えているのでしょう。

性格の悪い「だまちゃん」が垣間見せた優しさ?

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作中では相当な残酷キャラとなっている友人のだまちゃんですが、奇跡的に優しさを見せているシーンも存在します。普段、暴君のようにしか子を振り回し罵倒しているだまちゃんが、何気なくしか子にジュースをあげるだけのシンプルな優しさのカットなのですが、いつもの残虐さとのギャップが激しすぎて、たったそれだけの優しさなのに泣きそうになったという人もいるほど。

この意外性溢れるシーンが物語っているのは「どんな人にも普段見えていないだけで別の一面がある」ということでしょう。自分が知っている一部分だけで人を判断していては、気付けないことがたくさん人生にはあるんだというメッセージを読み解くことができます。

作者本人も認める強烈な漫画

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ちびしかくちゃんが単行本化され記念すべき第一巻が発売となった際に、作者本人がインタビューにて「キョーレツな作品になった」とちびしかくちゃんの製作を振り返っていました。パロディを描くにあたって、ベースの漫画自体が自分の作品であるため展開させやすく、そして自身も描いていて楽しいと思える作品だったとのコメントを寄せていました。

原作のちびまる子ちゃんの方がこれだけ世間に愛されたことも、ちびしかくちゃんを誕生させられた要因のひとつであると語っており、作者本人もちびしかくちゃんが相当個性的で癖の強い作品であることを自覚しつつ楽しんで描いていたことが伺えます。

ちびしかくちゃんと追悼文

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惜しくも、2018年6月の掲載が最後となってしまったちびしかくちゃん。さくらももこさんが亡くなったことを受けて、グランドジャンプには追悼文が掲載されました。その際、追悼文掲載ページに使われていたのは遺作となったちびしかくちゃんの原稿。ちびしかくちゃんの登場キャラクターが勢揃いした、賑やかなページに仕上がっています。

さくらももこさん本人に、さくらももこと過ごした楽しい思い出をこれからも思い出してほしいという遺志があったことが記されており、作者の意図が汲み取られた楽しい雰囲気のページとなっており、読者からも悲しいけれど素敵なページだったという声があがっていました。

さくらももこさんのセルフパロディ『ちびしかくちゃん』が深イイ

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さくらももこさんのセルフパロディ作品、ちびしかくちゃんについて詳しくご紹介しましたが、これまでダークさやブラックさのイメージが先走り、ネガティブなイメージを持っていた方も少し見方が変わったのではないでしょうか。

皮肉なストーリー展開の中にも笑いや教訓があり、身につまされる言葉があり、ただ面白いだけの漫画作品とは一味違うことがお分かりいただけたことでしょう。決して暗いだけの話ではなくハートフルな描写もあり、癖になる読後感を与えてくれる奥の深い作品なのです。

ちびしかくちゃんは、刺激の欲しい人、人生に悩んでいる人など、様々な人が笑いながら学びを得られる漫画と言えるでしょう。

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