熊の手とは?中国伝統料理・食材の一つ!
狩猟で得た獣肉を食肉にするジビエ。一般にはほとんど見かけませんが熊肉もその一つです。その熊肉の中でも「4本脚は机以外何でも食べる」と言われる中国では、特に熊の手の煮込みが高級料理として珍重されます。
この「熊の手」料理はめったに食べる機会がありませんが、下処理や煮込み調理に手間がかかり、何より見た目がちょっとアレなため、まさに知る人ぞ知る幻の料理とも言われています。
熊の手は中国では高級食材!歴史にも多数登場!
中国で高級食材として扱われる熊の手。医食同源、漢方の薬膳料理など「料理」に長い歴史を持つ中国の食文化の中でも、熊の手は古くから知られ、歴史上の人物も好んで食べたと言われる食材の1つでした。
熊の手は中国の八珍の一つ
中国には、時代によって変遷・異説はあるものの食材や調理方法を8つ厳選した「八珍」と呼ばれる「究極の料理」が受け継がれてきました。
よく知られている八珍の中では「龍肝・鳳髄・兎胎・鯉尾・鴞炙・猩脣・熊掌・酥酪」のうち、「熊掌」が熊の手にあたり、食べ方としては主に煮込み料理に使われます。
高級食材として中国は北京の宮廷料理のメニューとして使用され、また熊が生息する森林地帯が広がっている中国東北部の吉林省産の熊がよく使われると言われています。
熊の手は滋養効果がある高級食材
医食同源や薬膳の考えがある中国では、滋養効果の高く漢方薬効のある食材は特に重要視されます。熊の手を含む熊肉は古来から漢方で「体を温める作用」がある滋養食材として知られています。
さらに、熊の手には豚足のようにコラーゲンが多く含まれています。美容にも良い高級食材として、熊の手の煮込みはかの楊貴妃も好んで食べたとも伝えられています。
熊の手は左右で値段が異なる?
古来から、熊の手は「右手」が美味しいため「右手」が「左手」より高級品で、熊の手がメニューにあるレストランでも、右手を高価に設定しているお店があるとよく言われます。
ただし「右手がおいしい!」というのはあくまで俗説。もともと流通量が少なく、食べるなら数万円は覚悟する必要がある熊の手ですが、左右で大きな価格差があることはまずありません。
はちみつの染みた右手はより高価は俗説
右手が高価と言われる理由は「熊は大好物の蜂蜜を右手ですくって食べ、冬ごもりの間も蜂蜜が浸みた右手をなめて過ごすので、右手が甘くて美味しい」という俗説があるためです。
一説には、1980年ごろに映画評論家の荻昌弘さん(故人)が雑誌コラムに「右手おいしい説」を書き、それが当時のバブル景気時代のグルメブームに乗って広まったものと言われています。
右手で一生懸命に蜂蜜を食べている熊を想像するとかわいいですが、この説に科学的根拠はなく、料理に、よりおいしさという価値をつけたい料理人や美食家の飽くなき願望が生み出したガセネタです。
熊の手は楚の成王も最期に食べたがった一品
熊の手は高級食材として中国歴代王朝の王も好んだと伝えられています。最後の晩餐として熊の手を望んだ、春秋時代の楚の成王(在位 前672年~前626年)もその一人。
成王は、反乱を起こした実子の商臣によって囚えられ「死ぬ前に熊の手の煮込みを食べたい」と懇願しますが、聞き入れられず失意のまま自ら首をくくって死んだと歴史書「春秋左氏伝」に記されています。
それ以外にも「殷の紂王は、熊の手の煮込みがまずかったという理由で料理人の首を刎ねた」という逸話も帝王世紀という歴史書に伝えられており、熊の手の煮込みは歴代王朝の王も魅了する究極の料理でした。
熊の手は孟子も好んで食べていた
古代中国の儒家である孟子の言行を記した書物「孟子」の中に「私は魚が好きだ。熊の掌も好きだ。だが両方を得られないなら、私は熊の掌を選ぶ」と、熊の手好きを主張するような問答が載っています。
ただこれは「命を大切にすること」と「義」のどちらが大事かという問答の中で「時には死の危険があっても人は「義」(入手が危険な熊)を選ぶこともある」というたとえで「熊の手」を使っているだけです。
しかし中国王朝の王の逸話もそうですが、こうした中国の古典の中にしばしば熊の手が登場するということは、それだけ古くから「熊の手」があこがれの高級食材として知られていたということの証明でもあります。
熊の手は日本では珍味?食べた人の味の感想は?
中国では高級食材の熊の手ですが、日本ではお金さえ出せばすぐに食べられるというものではなく、皆さんご自身や身の回りでも、熊の手を食べた経験がある方はきわめて少ないでしょう。
高級なのはわかったけど気になるのはやっぱりその味!ということで、この項では熊の手の日本での扱いや、実際に食べた方の食レポやアノ有名人も熊の手を食べていた?というトピックを紹介します!
熊の手は日本でも食べられている!
マタギなど一部地域で狩猟の文化のある日本では、流通量はきわめて少なく高価な場合が多いですが、希少な熊肉の、さらにレアな一部位として熊の手を食べられる場合があります!
中国宮廷料理のように高級日本料理の素材に使われるわけではないので、日本での食べ方は高級食材というよりは、むしろめったに食べられない珍味としての側面が強い食材です。
諸外国では完全にゲテモノ扱い
中国では高級品、日本では珍味の熊の手ですが、ジビエの食肉文化のある欧米では珍味をはるかに超えた、いわゆるゲテモノ扱いをされ好まれていないといいます。
そもそも熊は捕獲に危険が伴い、欧米で狩猟と言えばスポーツハンティングの側面が強いため、大型獣である熊自体をそもそも食肉とする概念が薄いことも関係しているかもしれません。
熊の手を食べた日本人の感想は?
熊の手料理を食べた方のネット上の感想をまとめると、豚骨や鶏足に似ていてコラーゲンたっぷりの濃厚なゼラチン質の旨みが強い料理で、おおむね「おいしかった!」という評価が多いです。
そもそも熊肉そのものは、旨みが強く脂も甘いのが特徴。気になる臭みは、食べているエサによって大きく変わると言いますが、解体時の血抜き処理を上手に行えば気にならないと言われています。
熊の手を食べた有名人は誰?
その方はお笑いコンビ「アンジャッシュ」の渡部健さん。渡部さんが以前に訪れたことがある、熊料理でも有名な滋賀県の「比良山荘」のご主人が、佐々木希さんとの結婚祝いに熊の手をプレゼントしました。
これには渡部さんも「一番驚いた結婚祝い!」とコメント。比良山荘ご自慢の料理で絶品なのは間違いなし!ただ見た目がなんというかちょっとアレなのが、芸人さんへの贈り物にピッタリとネットで話題になりました!
バラエティ番組でまさかの「熊の手御飯」
古いですが人気番組「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」の2004年の放送回「絶対においしい炊き込みご飯選手権」で松本人志さんが持ち出したのが、時価7万円というまさかの熊の手!
それをまったく処理することなくそのまま炊飯器に突っ込んでできたのは、見た目はただの白ごはん。スタッフさんの一人がいざ口に入れた瞬間、見事に「ブフォッ!」とモザイクがかかる状況になりました。
熊の手をきちんとお肉に処理して使えばきっと美味しくなったはずですが「後でスタッフが美味しくいただきました」のテロップが出るようになる以前、バラエティでは何でもありだった時代の一コマです。
熊の手料理はどこに行けば食べられる?
時には高級食材、時には珍味の、熊の手料理に興味がわいてきた方も多いのでは?食べることはおろかなかなか見かけることもない熊の手を、日本で食べるとしたら、どういったスポットになるのかを紹介します!
熊の手料理は高級中華レストランが定番!
高級中国料理の食材である熊の手を食べるなら、まずは高級中国料理レストランが定番!単品で注文可能なところもありますが、数名以上のコース料理の中で煮込みで供されることが多いです。
コースはかなりお値段が張り、単品の場合はちょっと怖い時価の事も。下処理や煮込み調理に手間がかかるため、数日前からの予約が必要な場合が多く、確実に熊の手を食べたいならお店への確認は必須です。
ジビエ料理店や地方の特産品として食べる
中国料理店以外でも熊の手は食べられます。前に紹介したアンジャッシュ渡部さんに熊の手を送った滋賀県の「比良山荘」もその一つ。他にも熊肉を扱っているジビエ料理店で熊の手に出会えることがあります。
ただし、やはり定期的に一定数入荷できるような部位ではなく、運しだいという側面も。確実を期すならお店へ要確認。幸運にもめぐり合うことができたら、お財布の中身にと相談して挑戦してみてはいかがでしょうか?
予約不要!1杯10万円熊の手そば!
山形県の「民宿の越後屋」さんのお食事処では、名物の熊肉料理の1つとして、熊肉が乗った「熊そば」と並んで、熊の手の煮込みを乗せた「熊の手そば」を「予約不要」のメニューとして提供しています。
ただしお値段は驚愕の一杯10万円!かなり注文に勇気がいりますが、それだけ熊の手が貴重だということ。熊肉以外でも、イワナ料理や山菜の山の幸も絶品と評判なので、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?
- 住所:山形県西置賜郡小国町大字小玉川456
- 電話:0238-64-2430
- 宿泊:7,000円~ 1泊2食付
- 山形県観光物産協会【山形県観光情報】
熊の手モチーフのスイーツも登場!
サンタのいるケーキ屋さんとして宮城県で店舗展開(全6店)している「ムッシュ・マスノ アルパジョン」さんでは、「熊の手」をネーミングした「クマの手シューラスク」を製造販売しています。
本物の熊の手は使っていませんが、子グマの小さな手のようなかわいらしさと美味しさで評判です。種類もいろいろ、お取り寄せもできるようなので、スイーツ好きの方はぜひ召し上がってみてはいかがでしょうか?
熊の手そのものは個人でも手に入る?買える?
ただでさえ流通量が少ない希少部位の熊の手を、個人で購入・入手できるかどうかみていきましょう。
熊の手をお店で食べるのでは物足りない!自分で料理してみたいという勇気のある人はぜひ参考にしてください!
熊の手は希少だが入手は可能!
熊の手は狩猟や駆除で得られた熊肉の一部位。もし猟師さんに知り合いがいれば分けてもらうこともできますが、そうでない場合、通販でも購入できる場合があります。
例えば北海道の「ジビエ工房」さんでは熊の手(左右一対)で約100,000円、兵庫県の「ぶっちゃー」さんでは処理済みの熊の手(1本)が約40,000円で販売されています。(2019/07/25現在)
ただし数が少なく常に在庫があるとは限りません。また値段もかなり高価になるので、なかなか個人ではおいそれと手を出せないのが熊の手購入の現状です。(店舗リンク先に熊の手画像あり。閲覧注意)
【画像閲覧注意】熊の手の調理方法や食べ方は?
分厚い毛や皮におおわれた熊の手は、他の獣肉に比べ精肉処理だけをとっても大変な時間と労力がかかります。この章では熊の手の調理方法や食べ方について紹介していきます。
見た目がちょっとアレな、処理前の実際の熊の手のちょっとアレな画像も含まれる項なので閲覧には少しだけ注意してください。
熊の手の伝統的な調理方法
熊の手の中国伝統の調理方法はすべての工程で1週間以上かかると言われています。戦前から戦後にかけて活躍したジャーナリストの佐藤垢石も著作の中で、中国の熊の手の食べ方について以下のように記しています。
まず熊掌を温水でよく洗い、次に熱湯で湯がいて表皮を剥ぎ、これを流水にさらすこと三昼夜。かくして磁器のうちに入れ、酒を醋<酢>に和して昼夜間断なく蒸熱すること、少なくとも五昼夜に及ぶ。そこで臭気が全然さり、かつやわらかになったならば骨を抜きとり肉を薄くきり。鶏汁、酒、酢、薑、蒜などを加え、数時間煮燗して最後に塩と醤油で味をつける。
引用:『「たぬき汁」以後』 佐藤垢石
文体が古いので読みにくい点もありますが、食べ方として、煮込み処理をしたり、水にさらしたり、調味料に漬け込んだりといった手順を3日間、5日間繰り返してやっとできあがるのが、熊の手料理だとあります。
熊の手の簡易的な調理法もある
熊の手の食べ方として、処理の第一歩は、まず分厚い毛をきれいさっぱり取り去ること!中国伝統の方法は、その後の煮込み工程で熊の手にじっくり味を含ませ、ふっくら柔らかく煮込むため日数がかかります。
しかし熊の手を普通のジビエ食肉と同じと考え、煮込み以外の食べ方をするなら、中国伝統の方法のように毛の処理をした後、何日間もかけなくとも調理することは十分可能です。
実際に自宅で料理する場合の熊の手の食べ方レシピは、毛の処理だけは丁寧に行って、指ごとに切り分け、油でソテーしてから煮込むといった、簡易な作り方が多いようです。
熊の手は現代風の味付けにも対応している
熊の手の食べ方は、中国風だと中華ダシに醤油のすっきりした味付け、和風なら匂い消しも兼ねて味噌で味付けというイメージも浮かびますが、おしゃれな現代風にワインや香草をたっぷり使った洋風でもOK。
以下のブログの食べ方レシピもその一つ。できあがるまでの熊の手のビジュアルはちょっと閲覧注意ですが、おいしい現代風熊の手料理に興味のある方はぜひご覧ください!(「熊の手」画像あり。閲覧注意)
熊の手の取引を規制する流れも?
熊は過剰な捕獲によって個体数が減少している地域もあるため、ワシントン条約(野生動植物の種の国際取引に関する条約)で生体や部位の取引が国際的に厳しく制限される保護対象です。
しかしながら、現在その制限対象の熊の手の多くが、不正な密輸による闇取引によって、熊の手の一大消費地の中国へ持ち込まれていることが問題になっています。
問題視されている熊の手の闇取引
熊の手の闇取引は、主にロシアから中国へ運び込まれることが多く、特に熊の手の需要が増える中国の春節(旧正月)のお祝いの時期が近付くと密猟・密輸業者の動きが活発になると言います。
これらはロシア当局によってしばしば摘発の対象になり、2018年には漢方薬の原料になる虎や鹿の部位と「熊の手867本」を密輸しようとした中国人が逮捕され、翌年に有罪判決を受けました
中国国内でも、最高有期懲役10年の厳しい罰則を設けた「野生動物保護法」で保護対象動物の食用目的の違法購入を禁じていますが、残念ながら密輸団とのいたちごっこが続いています。
日本でも熊は自然保護の対象!市場に出回ることはない
日本においては、熊の手の需要はごく一部に限られ、海外からの密輸・闇取引が表立って大きな問題になることは、幸いにもいまのところありません。