生きる化石カブトガニ
カブトガニの祖先は、今から5億年程前の古生代カンブリア紀に生まれ、化石でおなじみの三葉虫とよく似た動物だったと考えられています。2億5000年前からは祖先とほとんど変わらない姿をしていることから、生きる化石とも呼ばれています。
太古から生息地や生息域が変わらない為とされており、生きる為に考え抜かれた究極の生き物であるとも言え、太古の生物を知る上でとても貴重な研究対象とされています。決して、進化から取り残されたわけではありません。
カブトガニは実はカニではない
カニと呼ばれていますが、実はクモの仲間に近いとされています。尻尾のトゲトゲは、攻撃するためについているわけではなく、ひっくり返ってしまったときに起き上がる為についているものです。外見こそはプレデターやエイリアンなどと言う人もいますが、好物はゴカイやアサリと、なんとも見た目とはかけ離れた平和で愛すべき生物なのです。
太古からの生きる知恵が詰まった生物
カブトガニは我々の命を守る青い血液を持っているだけではなく、その生態にも生きるための知恵がたくさん備わっています。産卵期は7月から8月の大潮ですが、大潮に現れた海底に卵を産んでおくと干潟で太陽に卵は暖められ早く孵化ができ、卵は砂の中なので、波や外敵からも守られるためです。
カブトガニの血はなぜ青い?
血液を赤くするヘモグロビン
ヒトや他の動物の血の多くが赤いのは血液に含まれる赤血球の成分ヘモグロビンによるものです。ヘモグロビンは色素を持ったタンパク質です。色素の中心に鉄があり,酸素を運ぶために酸化すると赤くなるため、赤いのです。
血液を青くするヘモシアニン
なぜカブトガニの血液は青いのでしょう。ヒトではヘモグロビンでしたが、ヘモシアニンという青い色素を持ったタンパク質を含んでいるためです。ヘモシアニンの中心には銅が含まれており、銅は酸素を含むと青くなるため、血液は青くなります。その他に血液が青い仲間は、イカやタコなどが知られています。
緑や透明の血を持つ生き物がいる?!
ホヤの血液はなんと、緑色です。血液にバナジウムを含む緑色のヘモバナジウムを持つためですが、鉄や銅といった酸素を運ぶ呼吸色素ではない事が近年の研究により分かっています。ジャノメコオリウオという魚の血液はなんと、無色透明です。体液に酸素を運ぶための呼吸色素を持たなくても生きていける高濃度酸素の海域に生息しているためとされています。
乱獲される青い血のカブトガニ
カブトガニの青い血が医療で注目
カブトガニの医学的研究を最初に始めたのは野口英世博士です。1903年にカブトガニの青い血液を研究中に細胞を活性化させることで、有害な細菌などを体内で増殖するのを防止するレクチンという物質を発見しました。その後、様々な研究が世界で行われてきました。
細菌汚染に反応する青い血
米国の研究者が1968年に大腸菌などの細菌内毒素をゼリー状に凝固させる成分が血液中にあることを発見しました。白血球をもたないカブトガニが病原菌から体を守るための成分です。この発見によりLAL(ラル)という試薬が開発され、従来の方法より素早く細菌汚染の有無を確認することが可能となりました。
さまざまな場所で使用されているLAL
食品、水質検査、宇宙開発事業などで使用されています。具体的には、輸入肉や牛乳などの食品の細菌汚染、水道水や井戸水、宇宙研究による宇宙での実験器具などに汚染がないか検査する目的で使用されています。
アメリカで大量消費されるカブトガニ
LAL試薬は、我々の身近な現場で欠かせないものとされているため、採血をする為に大量に捕獲されています。毎年捕獲される数はなんと25万匹です。抜き取る血液の量は体内の血液量の30%までなら問題がないとされ、採血後は再び海へ戻されます。
海に戻された個体は、数ヶ月で回復しますが、約15%は回復せず死んでしまいます。特にメスの個体へのダメージが強く、産卵などにも影響を与えているといわれています。
カブトガニの血液が必要なワケ
薬剤の安全性確認に使われるカブトガニの血液
細菌が作り出す毒素が体内に入ると命にかかわる毒素ショックを引き起こしたりする為、米食品医薬品局は薬品の原料や最終製品に汚染検査を行うことを義務付けており、汚染検査の試薬としてカブトガニの血液が利用されているのです。
カブトガニが使われる前はウサギだった
以前は、ウサギの血が主に検査に使われており、ウサギの血は、細菌汚染があると発熱する性質があります。反応熱があるかどうかで、細菌汚染の有無を検査していました。検査時間は48時間かかります。
カブトガニとウサギの血の違い
カブトガニの血液は細菌があれば、ゼリー状に固まります。固まらなければ、汚染がないことの証明になります。検査精度が高くほんのわずかな細菌汚染にも反応します。
検査のスピードも桁違いです。ウサギの血での検査には48時間かかる上に、検査をする為にたくさんのウサギが必要です。カブトガニの血液を利用した試験ならたったの45分で検査が終了します。
おぞましいカブトガニ血液採取工場の中身とは?
アメリカの東海岸で主に捕獲されます。血液採取企業の工場へ輸送されます。洗浄された後、血液を抜かれます。採血が終われば、何度も捕獲されないように、捕獲されたところから遠い海に戻されます。
整然と並べられるカブトガニ
洗浄された後、体を折りたたみ、専用台に動かないように固定されます。ステンレス鋼の針を体に刺し血液が採取されます。硬い鎧をまとっているとはいえ、針を刺されている姿はとても痛々しいです。整然と台に並べられて刺された針から瓶へ直接採血されている様子は見るに堪えない、おぞましい現場そのものです。
生きたまま抜かれる青い血
海に返すため生きたまま血液が抜かれます。血液を1匹づつ瓶に直接採取していきます。生きたまま採血するのは、海に戻すためですが、海に戻ってからうまく泳げなくなったり、回復することができず、10~20%が死んでしまうとされています。