慣用句としての「地獄絵図」
悲惨な状況や凄惨な場面を表す言葉は多くありますが、地獄絵図という言葉を日常生活の中で使う機会はそう多くありません。しかし、誰しも一度は耳にしたことのある言葉ともいえます。ここでは、ぞんな地獄絵図について様々な観点からアプローチしていきます。
地獄絵図の言葉としての意味
日常生活で耳にする「地獄絵図」ですが、実際には地獄そのものを描いた絵に用いられるほか、目を覆いたくなるような凄惨な場面などでも引用されることの多い言葉です。身近なところでは、戦争の様子を描いた絵や戦地の写真、ドキュメンタリー映像。グロテスクなシーンのある映画作品などが該当します。
地獄絵図はどんな使い方をするの?
残忍な事件や状況を一言で現すことが出来る地獄絵図ですが、普通に暮らしていてそのようなシーンに出くわす事はほぼあり得ません。近年であれば、2016年におきた相模原障害者施設殺傷事件が、まさに地獄絵図と呼ぶに値する惨たらしい状況であったと推察されます。空想の世界である地獄での出来事がまさに現実に現れたような、悲惨な状況を指すために用いられる言葉です。
地獄絵図の類語は?
地獄絵図の指す「地獄」とはそもそも直視できないような残忍な状況を一語で現している言葉ですが、地獄絵図とよく似た意味を持つ四字熟語に「阿鼻叫喚」という言葉があります。叫喚はそのまま泣き叫ぶ様子を指す言葉ですが、阿鼻とは八大地獄の最深部、無間地獄であるとも、大叫喚を指すとも言われています。いずれにしても現世で殺人などの大罪を犯した人間が報いを受ける際の悲惨な場面を指すという点で一致してます。
そもそも「地獄」とは?
ここまで比喩的表現としての地獄についてご紹介してきましたが、実際に地獄という場所の詳細について学ぶべく、地獄の成り立ちから宗教的な観点で見る地獄の存在意義についてまでを見ていきましょう。
「地獄」は仏教の思想
地獄という言葉は世界中で広く使われており、宗教観は違えどおおよその意味するところは同じです。人間が生きている間に犯した悪事を地獄で清算し、リセットされたところでまた人間界に生まれ変わる輪廻転生のための場所といった考えが仏教における地獄の概念です。
仏教の発祥はインド
地獄と聞いて多くの人がイメージするのは、閻魔大王をはじめとする恐ろしい者たちの存在ですが、そもそも地獄に住むと言われる者たちの多くは、古代インドに定着していた民間信仰が発祥です。古くはインドから中国を経由して日本に伝えられた起源がありますが、日本に伝わった際に日本独特の思想が入り混ざり、現在のような形で定着しました。
地獄は八種類ある
私たち人間の住む世界の何十万キロも下にあると仮定されている地獄ですが、まず、人間界に一番近い場所に等活、次に黒縄、衆合、叫喚、大叫喚、焦熱、大焦熱と続き、最深部には無間地獄と呼ばれる、およそ20万キロの広さを有する場所へと繋がっています。この八大地獄の他にも更に細かく分類され、十六小地獄と呼ばれる場所が八大地獄の周辺には広がっており、それぞれの前世での罪に応じた罰を受けるとされています。
地獄絵図ってなに?
地獄については絵本や物語にたびたび登場することから、日本人にはイメージしやすいものとなっていますが、「地獄絵図」となると曖昧なイメージや知識にとどまってしまいがちです。ここでは、地獄絵図の意味する内容やその歴史に踏み込んで解説します。
地獄絵図はいつから描かれるようになったの?
浄土真宗が広く日本に普及した奈良時代には貴族などの位が高い人々に限り地獄の概念が多く知れ渡ることとなりましたが、平安時代になると、その頃の世間的な風潮により一般の民衆にも親しまれる文化となりました。日本ではじめに地獄を現した創作物は東大寺二月堂の仏像とされており、民衆の信仰心が高まった結果、歌舞伎や演劇の演目や屛風絵などの美術的なカルチャーとして広まりました。
地獄絵図のもつ意味ってなに?なにに使われたの?
おどろおどろしい怪談としての一面とは違い、そもそもの地獄絵図の役割は生きている人たちへの教訓を説くために用いられたものでした。悪事や身の回りの人たちへの接し方など、日常生活における生活態度を改めて鑑みさせるためにあった思想で、生きている間に善行を積まなければ、「死後怖い目に合うよ」といった戒めの意味合いが強くありました。悪事や自殺を行えば天国へいけないとされるキリスト教にも通ずる宗教観です。
どこに行けば見られるの?
地獄をモチーフとした展示会や画集がたびたび話題になりますが、実際に地獄絵図を間近に見られるお寺が日本の各地に存在します。北は青森から九州まで、様々なルーツを辿って渡ってきた由緒ある地獄絵図や、有名な偉人のエピソードに由来する地獄絵図まで地獄絵図と一言でいっても、趣の違った作品が楽しめます。
地獄絵図を見られるおすすめのお寺3選【東日本編】
都内から少し足を延ばして訪れることが出来る関東近郊のお寺から、東北地方のお寺まで、間近に地獄絵図を見学することができるオススメの寺社をご紹介します。
青森県「雲祥寺」
十王曼荼羅と呼ばれる江戸時代に描かれた地獄絵が見られる雲祥寺は、日本を代表する純文学作家、太宰治ゆかりの地としても有名なお寺です。太宰の代表作の一つ「斜陽」をルーツとする斜陽館にもほど近い立地にある雲祥寺は、幼少の太宰が子守りの女性に連れられて訪れた際に見た地獄絵図によって後の作品に影響をもたらしたとされる文学的な価値を併せ持つ歴史ある寺社です。
施設詳細
- 住所:青森県五所川原市金木町朝日山433
- TEL:0173-53-2074
- http://www.jomon.ne.jp/~oldpine/index.html
- 参拝料:境内無料
- 公開日:ー
栃木県「福正寺」
江戸時代に描かれたとされる「閻魔大王地獄図」が見られる福正寺では、地獄絵図の意図を詳細に説明する映像作品を公開するなど、教訓を学べる寺社としても広く知られています。徳川家から寄贈された阿弥陀如来立像や、展示されている地獄絵図には家内安全・勝ち運・身を清めるパワーが宿されているとの説もあり、多くの参拝客で賑わい閻魔大王の御朱印や700年続く西方の踊り念仏も名物となっています。
施設詳細
- 住所:栃木県栃木市西方町元1584
- TEL:0282-92-7734
- http://www.cc9.ne.jp/~jyoudo-tochigi20/
- 参拝料:無料
- 公開日:―
東京「深川えんま堂」
江戸時代に建立され、御府内八十八ヶ所の74番目に数えられる由緒あるお寺です。日本最大級の大きさを誇る閻魔大王座像を拝むことができる深川えんま堂は、仏像にお布施をするとありがたい説法を聞くことが出来るユニークなシステムを採用している寺社でもあります。本堂には16枚もの地獄絵図が並び、現世で善行を行うことの大切さ、それによる死後の裁きなどを克明に描いた絵絵図を見学することが出来ます。
施設詳細
- 住所:東京都江東区深川2-16-3
- TEL:03–3641–1652
- http://www.enma.or.jp/index.html
- 参拝料:無料
- 公開日:毎月1・16日
地獄絵図を見られるおすすめのお寺3選【西日本編】
歴史的な土地や建造物が多く存在する京都・奈良をはじめ、日本最古の霊場がある福岡まで、ほかの場所では見られない圧巻の地獄絵図・建造物と合わせてご紹介します。
京都「六道珍皇寺」
六道珍皇寺の名前の由来となっている六道とは、仏教の教えにも登場する6つの地獄道から冠したものです。人間は死後6つの道を経由して生まれ変わる「輪廻転生」という考えを元にしており、大昔墓所であったとされる六道珍皇寺はあの世とこの世の分水嶺とされ、冥途への入口であるとの伝説も残っています。古来よりあの世と密接な関係にある六道珍皇寺では季節ごとに様々な展示イベントを開催しており、古くは室町時代に造られた彫像から宗教絵画である参詣曼荼羅図、黄泉がえりの井戸など歴史的価値の高い寺宝を見学する事が出来ます。
施設詳細
- 住所:京都市東山区大和大路通四条下ル4丁目小松町595
- TEL:075-561-4129
- http://www.rokudou.jp/
- 参拝料:大人600円
- 公開日:―