火災旋風の仕組みを解説!
「火災旋風」という言葉をご存知でしょうか?普段あまり聞くことのない単語ではありますが、自身や火災について深い知識をお持ちの方はご存知かと思います。まずは「火災旋風」とは何なのか、説明していきたいと思います。
火災旋風とは?
英語ではfirestormと言い、山火事や大きな火災の際に起こる現象です。文字通り炎を伴う旋風が巻き起こり、火災等の被害を大きくする可能性のある、非常に危険な現象です。旋風の発生メカニズムや発生条件は未だ未解明の点も多く、現在でも研究が続けられています。
火災旋風がもたらす被害とは
過去、火災旋風により亡くなった方の死因は炎の熱による焼死以外にも複数あります。実はこれが火災旋風の厄介な点であり、高温な空気やガスを吸ったことにより呼吸器を損傷し、その結果起こる窒息死。そして、旋風によって巻き上げられた家屋や家財、自転車等が空から降り注ぎ、その直撃により致命傷を負うパターンもあります。
火災旋風の範囲は?
火災旋風の範囲はとても広く、関東大震災の際には「国技館程の大きさ」の旋風が起こったと言われています。面積で言えば約13000平方メートル。それだけの大きさの旋風が移動しながら襲ってくる、非常に恐ろしい現象です。
火災旋風の事例
日本でも海外でも、実際に火災旋風により沢山の人が亡くなっています。どれも火災旋風が起きた条件に違いはありますが、多くの死傷者を出した点だけは共通しています。ここでは被害の大きかった火災旋風の例を幾つか紹介します。
海外の火災旋風事例① ハンブルク空襲
ハンブルク空襲は、1943年7月にアメリカとイギリスがドイツのハンブルクへ行った空襲作戦です。爆撃により火災が発生し、さらに家屋に貯蔵されていた石炭やコークス等の燃料に引火した事で炎が拡大。その結果、火災旋風が発生しました。この時の最大風速は240km/h、気温は800℃にまで達していたそうです。犠牲者の数は4万人を超えると言われています。
海外の火災旋風事例② カリフォルニア州の山火事
アメリカ、カリフォルニア州では何度か大きな山火事が起きています。その際、火災旋風が起きた事もありました。昨年起きた山火事では100人近い死者を出し、一時は行方不明者が1000人に上っていました。山火事で起こる火災旋風は時折、炎の竜巻のようなものが立ち上るさまが目撃されています。
関東大震災で起きた火災旋風
日本の関東大震災でも火災旋風により多数の死者が出ています。特に被害の多かった本所被服廠跡には、数万人の人々が地震に寄り避難していました。そこへ火災の熱波が襲い掛かり、避難の際に持ち出していた家財道具に引火します。燃え広がった炎から火災旋風が発生し、人も荷物も纏めて巻き上げ、その炎の中に飲み込んでいきました。この場所での犠牲者は38000人。関東大震災による死者は10万5千人余りと言われており、内3割以上がこの場所で亡くなった事になります。
火災旋風の発生メカニズム
何故火災旋風が起こるのか。未だ解明されていない点もありますが、原因として分かっている事もあります。実際、過去に大きな被害を出した火災旋風には共通している点があり、それは「広範囲の火災」と、もう一つ。原因となったのは「強い風」でした。
火災旋風が発生する原因は?
火災によってなぜ旋風が起こるかについては、いろいろと研究されていますが、今までに分かったものとして、
●火災で発生した大量の熱気が上昇し、冷気と混じり合うこと
●風の走りを助長する滑らかな面、例えば水面や広場が存在すること
●適当な風速があること(ただし、10メートル以上の強風では発生しないといわれている)
が、火災旋風発生要因として挙げられています。(引用:東京消防庁<消防マメ知識><消防雑学事典>)
こちらに書かれている通り、火災旋風には火災による熱気と広い空間、適度な風が必要となるようです。実際、地震や空襲による火災で起きた火災旋風では「強い風が吹いていた」という証言が残されています。
火災旋風が起きやすい場所は?
火災旋風は大きな火災が起きたのなら何処ででも発生する可能性があります。先程述べたカリフォルニア州の山火事のように、自然豊かな場所は火災が広範囲に広がって火災旋風が発生した例があります。逆に街中だと、ビル風により火災旋風の発生率が上がると言われています。
火災旋風の発生は回避できる?
火災旋風の発生を防ぐのは、残念ながら個人の力では難しいです。原因として広範囲の火災がありますので、まず「火災を起こさない事」が必要となります。地震等で避難する際は必ずガス栓を閉める。火災に気づいたらすぐに消火活動をするか、通報して消防隊に来てもらう。個人で出来る事はこの位でしょう。もし大きな火災に遭遇したら、火災旋風が発生しても巻き込まれないように、とにかく遠く離れた所まで逃げましょう。
火災旋風に遭遇した場合の対策
もし火災旋風に遭遇してしまったら、どうすれば良いのか。知っていて損はないでしょう。関東大震災で火災旋風に遭遇し、生き残った人の話も交えつつ、対処法を説明していきたいと思います。
火災旋風が発生した場合はどこに逃げれば良い?
火災旋風を見かけた際の対処法は、竜巻と同様です。旋風の進行方向に対して垂直に移動し、その進路上に入らないようにしましょう。ただし、火災旋風は不規則な動きをする場合もありますので、しっかりと動きを見て適宜逃げる方角を変更しましょう。
火災旋風が発生した場合の避難方法は?
火災旋風が発生した場合、迅速な避難が求められます。速さなら車での移動が一番ですが、火災やその前に起きた地震により道が寸断されていたり、瓦礫で埋まっている場合もあるので注意が必要です。その場合、自転車やバイクの方が融通が利く事もあります。かつての震災で火災旋風に遭遇した人の中には、旋風から離れるように走り回り、無事逃げ切った人もいたようです。状況によって移動方法を変更しましょう。
自転車での災害対策については、こちらの記事でも少し触れています。
火災旋風の避難先として屋内は有効?
屋内に避難すれば大丈夫なのでは?と思う方もいるかと思います。残念ながら、火災旋風から逃れる為に屋内へ籠るのはお勧めできません。理由としてはまず、建物が炎に包まれているような状態なので、すぐに酸素が尽きて窒息死する可能性がある事。もう一つは、強い旋風により家屋自体が破壊されたり、飛来物が窓や壁を突き破ってくる可能性があるという事です。火災の原因が地震だった場合は、家屋が倒壊する可能性が特に高まります。
もし火災旋風に巻き込まれたら?
38000人の死者を出した本所被服廠跡の火災旋風で、その場に居ながらも生存した方が僅かではありますが存在しています。もし、火災旋風に遭遇し、逃げ切れなかったら…。そんな最悪の事態に備えて、生き延びた方々の取った行動を頭に入れておきましょう。
とにかく諦めない
最後の最後まで諦めず、走り続ける。生き延びる為に一番大切なのはこの一点です。走り回って逃げ切った人もいれば、逃げる人ごみに押されて結果的に助かった人もいますし、人がドミノ倒しになって下敷きになった為に、直接熱風に触れずに済み、生き残った例もあります。どれも偶然や奇跡のような確率ではありますが、諦めずに動き続けたからこそ起きた出来事でもあります。
水の中に飛び込む
これは最後の手段ですが、川や池に飛び込んで頭まで潜り、熱から身を護るという方法です。一見安全そうに見えますが、関東大震災の時は沢山の人が川に飛び込んだ為に、多くの人が下敷きになって溺死しています。また、火災旋風で巻き上げられた瓦礫や木材が落下してきて、直撃して死亡した方も多かったようです。しかし生き延びた例もあり、その方々は頭を保護しながら水中に潜り、頃合いを見計らって呼吸をしていたそうです。