ドーマンセーマンとは?
ドーマンセーマンまたはセーマンドーマンともいいます。ドーマンは九字紋ともいいます。縦四本、横五本の直線で構成された図形です。セーマンは一筆書きの星形です。ドーマンセーマンは三重県志摩地方の海女が身につける魔除けです。昔から受け継がれてきましたが、そのルーツは判っていません。
三重県志摩地方の海女の安全を願うまじない
ドーマンセーマンは磯手縫いに刺繍したり、道具に彫刻してあります。海女たちが恐れる魔物は、時に海に引き込む亡霊だったり、帰る方向をわからなくしたり、命を執ると恐れられている日本古来の妖怪たちです。ドーマンセーマンは魔物から身を守るとされている護符で、板に書いて首から下げることもあります。
魔除け、魔除け、魔おどしに用いられる
ドーマンセーマンを身につけることにより恐ろしい魔物から身を護ることができると信じてられて、綿々と受け継がれてきたのです。海に巣食う魔物もまた口伝によって、脈々と語り継がれてきました。海女たちにとって海はいつ命を落とすかも知れない恐ろしい場所なのです。
見たことがないから恐ろしいのか、見てしまえばさらに怖いことが待っているのか。こちらも併せてご覧ください。
海女が恐れる魔とは?
海女が恐れる魔とは?海女が魔と恐れているのは、広い大海そのものです。仄暗い海の底で、自らの命を脅かすモノたちです。昔から海に潜む魔物で、それぞれが漁場で待ち構えて命を脅かすのです。海女の歴史は古く、縄文時代まで遡ります。魔物たちもまた古い時代から海に棲みます。
トモカズキ
トモカズキとは自分とそっくりの海女のことです。カヅキは潜るの古語です。『珠洲の海女沖の御神にい渡りてかずき取ると言ふ鮑玉』鮑玉は真珠のこと、カヅキは潜ることでこの和歌は大伴家持が詠んだ歌です。
万葉集にはガヅクが使われた和歌がいくつかあります。かなり広い範囲で一般的に使われていた言葉です。トモカズキは今風に言うなら、海の中でドッペルゲンガーに会ってしまったということになりますね。後でドッペルゲンガーに会った海女の話しをいたします。
ボーシン
ボーシンは舟幽霊のことと言われたり、海坊主のことだったりします。志摩地方だけで語られている妖怪なのか、調べても記載が著しく少ないのです。舟幽霊は全国区の海の幽霊で、海上の浮遊霊が集まった姿だとも伝わっています。ボーシンは伊勢志摩の方言か独自の表現なのです。
尻こぼし
尻こぼしは尻の穴から魂を抜きとる妖怪です。見た目は河童に似ていて、尻子玉を採るのも同じ。頭には皿まであります。天王祭の日に海に入ると、出会ってしまうらしいのです。首に山椒の枝を掛けておくと襲われません。
海の中で、尻から内臓を抜かれ命をとられると恐れられています。鉄を嫌いますから、海女たちは海に道具を落とさないように注意を払います。また、出会ってしまうと、鮑を差し出してきます。背中を向けて、見ないようにして受け取らないと、命を取られるといいます。この部分はトモカズキと同じです。
セーマンの特徴
セーマンは安倍晴明の清明桔梗と呼ばれる紋であり、清明が使う陰陽道の魔法陣でもあります。五芒星とも呼ばれています。日本ではすでに室町時代には存在していました。完璧なデザインといわれています。
一筆書きで書く
セーマンは星形の一筆書きです。一筆書きで書く星型は世界の多くのところで用いられています。英語ではペンタグラムです。2700年以上前に古代イスラエルから渡ったという説もあります。また上下逆さまに描かれているものは黒魔術の領域です。
元の場所に無事に戻れるようにとの意味をもつ
海女たちに伝わっているセーマンは、一筆書きで、元の場所に無事に戻れるようにという意味合いを込めたおまじないで魔除けです。どこからも入れますが、出口がないと説明されています。陰陽道との関連は伝わっていないのです。
格子状の印(ドーマン)の特徴
ドーマンは蘆屋道満のことで、安倍清明と同じ時代を生きていました。清明と敵対する人物として語られています。道満が用いたのが六芒星であり、格子を描いた図柄がドーマンです。臨.兵.闘.者.皆.陣.烈.在.前の九字の呪文と共に印を結ぶ九字護身法を使いました。
たくさんの目をかたどる
九字紋とも言います。籠目で通る地方もあります。セーマンより古い紋で、蘆屋道満が使っていたとされている紋です。たくさんの目で魔物を見張る意味があるのだとは、海女たちの口伝です。九字は密教において今も使われています。様々な逸話が日本各地にあります。
目で魔物を見張るという意味
九字紋は格子になっています。竹格子ではないかと伝わっています。隙間のように開いたたくさんの目から相手を見張ります。日本では、奈良時代から、竹を使った編み物が発達してきました。籠目や網代編みなど美しい細工がされた衝立で、外からの目を遮断していました。また格子柄は出口がわかりにくいという理由があるようです。
安倍晴明と蘆屋道満の関わり
安倍晴明は室町時代の朝廷に属した陰陽師として名を馳せました。安倍晴明は陰陽道に用いる五行の象徴として五芒星を用いたと伝えられています。清明に敵対する人物として名があがる蘆屋道満は官職に属さない陰陽師で六芒星を目印とし、安倍晴明と対決したと伝えられています。
陰陽師の印と類似
陰陽師の印とドーマンセーマンが酷似しているのは、偶然の訳はありません。海女の歴史は古く、奈良時代の万葉集の中にはあまという言葉が出てきます。平安時代の延喜式に志摩には30人のかずきがいると記されています。かずきは海女のことです。ドーマンは蘆屋道満を指しセーマンは安倍晴明を指すとされています。
ドーマンセーマンは「セーメー」と呼ばれる
ドーマンセーマンを伊勢志摩の海女は合わせてセーメーと呼びます。死と隣り合わせの海の仕事は昔も今も変わりません。護符は命を守る大事な物です。何かが起こり、誰かが護符を授けたとしたら、それは朝廷直々だったのかも知れないと読み解く人もいます。いづれにしろ陰陽道にかかわる印なのです。
ドーマンセーマンの使い方
海の底の竜宮に引き込まれてしまわないように身を守る護符です。海には多くの魔物がひそみ、ひとり暗い海の底に潜る海女は命と引き換えに糧を得ていたのです。厳しい環境のなかで呪術の加護にすがったということです。
磯てぬぐいや襦袢に縫付ける
磯手ぬぐいや白襦袢に、セーマンドーマンを貝紫と呼ぶ染料で描きます。貝紫は古代紫に染め抜かれます。黒い糸で縫いつけていることもあります。道具である磯ノミや磯メガネ、磯ジャツ、海女の道具にはおおよそ付けられています。海の妖怪と自分を見分ける目印でもあります。
漁夫の褌にも付けられた
セーマンドーマンを身につけるのは、漁師も同じです。漁師はセーマンドーマンが付いた褌を身に着けていました。漁師、水夫、漁夫、海に関わる者たちは海を恐れる反面、信仰の対象にしていました。
海女は女性の仕事ですが、過酷な仕事がなぜ女性の仕事になったのか書かれている資料がありました。女性は競争心が男性より強く、絶えず競い合う姿勢で一人海の底の仕事であっても成果を上げます。対して男性はすぐになれ合いとなり、競争心は減退するといいます。
現代の伊勢志摩地方の海女もドーマンセーマンを身に着けている
現在、ほとんどの海女たちはウェットスーツです。昔ながらの海女の姿は見かけません。海に入るときにはそれぞれ道具にドーマンセーマンを刻んだものを用います。ウェットスーツの頭にはドーマンセーマンが描かれています。
ウエットスーツに書く
ウエットスーツで潜る時代になっても、ドーマンセーマンは信仰としてしっかり継承されています。古くから受け継がれた伝統はそう簡単には捨てられるものではありません。海の中での恐怖はウェットスーツになろうと拭い去ることは出来ないのです。海女に限らず日本の社会において護符は様々なところで使われています。
頭巾を着けている
ウエットスーツを着ても、頭に頭巾をつけて、伝統的なスタイルを残しています。魔除けの意味合いだけでなく、海女という古い伝統ある職業に対してのプライドや誇りが伝統を維持してきたのだという記事がありました。
ドーマンセーマンのグッズ
ドーマンセーマンのグッズはネットショップで見かけますから探してみて下さい。ドーマンセーマンの図形は黄金比で構成されています。御守りはもちろんですが、Tャツに描かれていたり、スニーカーにデザインされています。現地で探す方がよりご加護があるとわざわざ出かけます。
お守り
ドーマンセーマンで一対のお守りになっています。誰か意中の人や家族とひとつずつ持つためでしょうか?素朴な麻袋のお守りには種類がいくつかあります。陰陽師の紋がお守りとして人気があります。
ネックレス
ペアのペンダントヘッドがついているものや、セーマンドーマンがひとつのペンダントヘッドになっているものもあります。お守りには厄災から逃れることができる霊験あらたかな物が紛れているとか、いないとか。それを信心と言います。
ドーマンセーマンは「帝都物語」や「レッゴー! 陰陽師」にも登場
荒俣宏によって書かれた小説です。1988年には映画化されて話題になりました。荒俣宏さんですから、破天荒な物語には違いありません。奈良時代に考案された図柄とは思えない完璧なデザインは現代の物語に新しささえ感じるのです。