先に紹介したトモカズキに纏わる怪異です。昔から、海女たちの口伝として伝わっていたものが、民話として本に収められました。地元では知られた話でしたが文字になったことで余計に恐ろしいと語る人もいます。
極楽浄土は十万億土の彼方にあります。僧といえども遠い道のり。併せてご覧下さい。
地元で囁かれる噂話や、人から人に語られる話は民話という形でも伝承されてゆきます。物語は自然の驚異や忠告が含まれています。海の中で出会った不可思議はほかに知る人もない。震えながら海女小屋で呟いた言葉も含まれているのです。
地元で語り継がれている
志摩では今にも降り出しそうな曇り日に海に入るとトモカズキに遭うと伝わっています。ある日、若い海女がそんな日に1人鮑獲りに出ました。岩場に舟を止めて潜ると別の海女さんが背中を向けて鮑を獲っているのを見ました。
この海女は、セーマンドーマンの印をつけていません。しかも足先が霞んでいます。若い海女さんはすぐにトモカズキだと気がつきました。母親から言われていたことが頭に浮かび、差し出す鮑を受け取らないように手を後ろに回そうとしたとき、何かが体にまとわりついて動けなくなりました。
若い海女はノミを振り回してまとわりつくものを切り裂き、息も絶え絶えに海上に出ました。村人はしばらく海に出ませんでした。トモカズキが笑いかけてきたら、娘は命をとられていたでしょうとある村人はいいました。
最強の海の魔物
日本の妖怪は恐ろしいけど、必ず思いもよらないおかしな弱点を抱えています。河童に出会ったらお辞儀をすれば助かります。お皿のお水がこぼれちゃいますからね。なんとかなるんじゃない?って思ってしまいます。かならずしも死と直結している訳ではありません。