カワイルカとは?川に住むからカワイルカ?
みなさんはカワイルカという名前を聞いたことはありますか?海に暮らしている私たちがよく知っているイルカとは違い、淡水の川に暮らしていることからカワイルカと分類されています。この記事ではそんな彼らの生態やその興味深い秘密に迫っていきます。
カワイルカも元は海に生息
彼らの祖先はクジラでもともとは海に生息していました。彼らは次の項目でご説明する4つの亜科に大きく分かれます。その中でさらに細かく亜種に分かれるものもあります。
広々とした海を泳ぎ回っていただろう彼らがなぜ今は淡水域に暮らすようになったのでしょうか?そのわけは次にお話しする生存競争にありました。
海のイルカに負けて川へ進入
彼らの祖先であるクジラは約1500万年もの昔に海での生存競争に敗れたものだと言われています。
厳しい生存競争の末に、海で生きることを諦め、川へと逃げ込んでいったのです。そこで淡水でも生き抜いていける特徴を進化の過程で身に着け、淡水で生きるカワイルカとしてそれぞれの土地に定着したと考えられています。
海のクジラが川に居ついたという説も
生存競争に敗れて逃げた先が淡水域であったという説が有力ですが、河口に迷い込んでしまったクジラがそのままそこに居ついたという説もあります。いずれにせよ、海水の生き物が淡水へ移動したという大きな変革点があったわけです。
4科に分類されるカワイルカ
先ほどお話ししたように、彼らは4つの科に分けられます。このうちの3つは完全な淡水域で生息し、残りの1つは海水の混じる汽水息を生息地とします。
クジラを祖先としアジア、中国、アマゾンの順でカワイルカが誕生していったことが近年の遺伝子解析によって明らかになりました。我々がよく知る海のイルカの登場はそのあと誕生したと推察されています。
ここでは海を追われて河川に逃げ込んだからこそ持つ特徴やそのおもしろい生態に迫っていきましょう。
インドカワイルカ
学名はPlatanista gangeticaと表されます。その名の通りインドに生息し、亜種としてガンジス、インダスと冠する2つに分けられます。
それぞれその名の付く流域に生息しています。比較的生息数が多いですがネパールに生息するものに関しては20頭前後しかいません。
アマゾンカワイルカ
学名はInia geoffrensisです。アマゾン流域にのみ生息する固有の種となります。3500万年もの昔に生きていたクジラと同じ、また似た特徴を数多く有しているため生きた化石とも呼ばれます。
同じく生きた化石・シーラカンスについてはこちらをご覧ください
ヨウスコウカワイルカ
学名ははLipotes vexilliferとなります。こちらも固有の種で中国は揚子江にいます。白ヒレイルカや白旗イルカなどとも呼ばれます。紀元前3世紀の書物にはすでに彼らに関する記述があり、当時で5000頭ほど暮らしていたと考えられています。
中国では平和と繁栄の象徴の生き物ですが、急激な産業化・工業化に伴い汚染された河川の影響でみるみる生息数は減少しています。
ラプラタカワイルカ
学名はPontoporia blainvilleiとなり、南アメリカ大西洋沿岸に生息します。こちらの科のみ海洋と河口域を行き来することが知られており、一生を海洋へ出ず淡水域で終える個体もいます。
非常に静かに泳ぐため見つけることが困難であることも大きな特徴の一つでしょう。基本的には単独、あるいは小規模な群れで行動します。
カワイルカは海に生息するマイルカとどこが違う?
同じイルカの名前を持ちながら、海暮らすものとは違い特徴を持つといわれるとどのように違うのか気になってきたでしょう。ここからは彼らが海にすむものとはどのように違うのかを具体的に説明していきます。
体長最大はアマゾンカワイルカのオスで2.8m
まず気になるのは大きさの違いでしょう。こちらは海のものとさほど大きな違いはありません。水族館などでよく見かけるであろうバンドウイルカは体長2~4m。カワイルカたちも2~3mほどです。
小さい背ビレと大きな胸ビレ
泳ぐ場所が川か、海かによってヒレの違いは大きくなり、彼らは小さい背ビレと大きな胸ビレを持つことが特徴です。背ビレは小さなコブ程度しかなく、胸ビレは身体の割に大きくなっています。
川の底にいる生き物を捕獲するため波立たせず静かに泳ぐことが必要です。また広い海とは違い、障害物の多い入り組んだ地形を泳ぎ回るためにこのような形に進化したと考えられます。
細長い口先を持ち口を閉じても鋭い歯が見える
海に暮らすものよりもずっと細長い口を持つことも彼らの大きな特徴です。川の底に沈んだ泥を掻き分けて獲物を捕獲するためと考えられます。
口を閉じた状態でも歯が見える骨格をしており、恐ろしく感じる人もいるでしょう。
首を左右にも動かせる
水族館などのイルカショーで首を上下に振るかわいらしい姿を見ることもあるかと思います。左右に振ることができないのは脛骨の部分がくっついているからです。
一方でカワイルカたちは脛骨がくっついておらずフリーな状態になっているので左右にも動かせることができます。これはもちろん入り組んだ地形でも生き延びるために獲得した動きと考えられるでしょう。
流木や石などが多く転がっており、クネクネと蛇行するような泳ぎにくい川の中でもすいすいと進んでいけるように彼らの体はとてもしなやかで柔らかいのです。
小さな目
彼らはとても小さな目をしています。これは泥などで濁った水中で暮らしていたことから視力を持つ優先度が下がり、退化したものと考えられます。
特にインドカワイルカたちは物を見るのに重要な水晶体すら持っておらず、目はわずかな光を感じ取るためだけの道具にすぎず、ほとんど何も見えていないわかっています。
収斂進化(しゅうれんしんか)
カワイルカたちがそれぞれ別々の場所にいるにも関わらず似たような特徴を持つことを不思議に思った方はいらっしゃらないでしょうか?
原始のクジラたちの中で海で暮らすことを諦め、それぞれの地域でそれぞれの川へ逃げ込んでいったと考えると4つの科を持つ彼らの祖先たちが地理的に出会っているとは考えられず、全く同じ1種のクジラから進化したとは考えにくでしょう。
それにも関わらず似たような進化を遂げることを収斂進化と呼びます。
なぜ収斂進化が起こるのか?
異なる場所で違う祖先を持つにも関わらず似ている進化を遂げるのには次のような条件があります。
- 似たような場所で似たような生活をしている動物同士に起こりやすい。
- それぞれの環境において非常によく似た生態的地位にある動物同士に起こりやすい。
簡単に言えば同じような生活をするものには同じような能力が求められるため、結果として似たような進化を遂げるということになります。
ジュゴンとアザラシとラッコも収斂進化の一例
この3つの生き物はとてもよく似ています。つるっとした体にずんぐりとしたフォルム。ラッコもサイズは違いますが似た形をしていると言えます。
しかし、ジュゴンはなんと象に近縁と考えられており、アザラシはクマ、ラッコはイタチに近縁とまったくバラバラの祖先を持つとされています。