「カニビル」って何?卵は?
聞きなれない「カニビル」の単語ですが、実は寄生虫の仲間なんです。名前にすでに象徴されるように、蟹と多少の関わりを持つのですが、名前のわりにあまり蟹と馴染み深いとは言えない虫だとも言えます。その生態をお話していきます。
カニビルは海に棲むヒルの一種で泥の中で暮らす
カニビルは海底のやわらかい泥の中を住処にしています。漢字ではそのまま「蟹蛭」と書きます。学名は「Notostomum Cyclostomum Johansson」です。外見はミミズのようで、体長は10㎝程です。学術的な詳しい分類を記しておくと、「環形動物門・ヒル網・ヒル亜網吻ヒル目・ウオビル科・カニビル属」に属します。
カニビルの成体は魚の体液を吸う寄生虫!
カニビルの成体は、魚に寄生します。細長い口で吸いつき、宿主の魚の体液を吸って生存するので、成虫はほとんど蟹と関わりが無いと言えます。成体にお目にかかる機会も少なく、ごくまれに、新鮮なズワイガニに付着している程度です。それではなぜ、「カニビル」と命名したのでしょう。
カニビルの卵は粒々!カニの甲羅にも産みつけられる!
「カニビル」と呼ばれる所以は、その独特な産卵場所にあります。甲羅の模様かとも錯覚しますが、あの謎の黒い粒の数々は、「カニビル」という名の寄生虫の卵なんです。成体は蟹自体への寄生は不可能ですが、産卵場所として利用するのです。卵は、直径4㎝から5㎝くらいの大きさです。
「カニビルの卵」は別名「シー・ライス」
また、この卵は「シー・ライス」とも呼ばれています。カタカナで表記すると、「海のごはん」と勘違いしがちですが、英語で「Sea Lice」と書きます。Liceとはシラミのことなので、意味は「海のシラミ」となります。ちなみに、ヒルについての詳しい説明は、以下の記事をご覧ください。
カニビルが「カニの甲羅」に卵を産み付ける理由は?
カニビルは魚に寄生するのに、わざわざ蟹という別の生き物の甲羅へ産むのは、どういった経緯によるのでしょうか。蟹の甲羅でなければならない訳があるに違いません。ここでは、成体の産卵場所の謎を紐解いていきます。
砂場とは異なり卵を安定させることができるから
カニビルは、海底の岩場に卵を産むようです。それにも関わらず、日本海では適当な岩場が少なく、卵が孵るまで、安定して託せる場所が無いのです。そのため、固い蟹の甲羅が利用されたのです。砂場に卵を置くわけにもいかないわけです。加えて、生きている蟹は移動しますから、カニビルの生息地域を広げることにも繋がるのです。
カニビルの成虫はカニの体内にはいない
ちなみに、カニビルの成体が蟹の体の内部へと入り込んでしまうことは絶対ありえませんし、前例も存在しません。蟹を食べながら、「あのおぞましい姿のカニビルの親が出てきたらどうしよう…」と考えてしまうのは、余計な心配です。
カニビルの卵は国産ガニでもロシア産ガ二でも付着!
日本産のズワイガニでは、ついていない事の方が珍しく、実際に目にする機会も多いです。また、同じく岩場の少ないロシアの海で引き揚げた蟹も、日本産と同じような経緯で、多く付着するのです。
逆にカニビルがめったに付くことが無いのは、北朝鮮産だそうです。北朝鮮の近海には岩場が多い地形のため、カニビルがわざわざ蟹に頼る必要もないのです。また、市販の蟹だと、あらかじめ卵を削いで店頭にならべる良心的なお店も存在するようです。
カニビルの卵は食べても人体に影響はない?
「寄生虫の卵」だと聞いてしまうと、気持ち悪くて口にするのは躊躇われます。それよりも気になるのは、これが寄生虫の卵であると知った上で、食べる選択をして大丈夫なのか?という点です。その疑問についてお答えします。
カニビルの成体も卵も食べても害は無い
カニビルの卵や、卵から孵ってしまった成体は、一応口にしても問題はないです。問題がないとは言っても、それはきちんと熱湯で処理した上でのことで、くれぐれも生で食してはいけません。冷凍によっても死ぬと聞きますが、念には念を入れ、茹でましょう。茹でた蟹に付き続けているカニビルは、食べても問題ありません。
味はおいしくない・卵の触感はゴリゴリ
気になるお味は…卵単体だと、言うまでもなく美味しくありません。食べられなくはないお味のようです。味付け次第で美味くなるわけでもありません。触感もゴリゴリとして、口当たりもよろしくない様子です。カニビルは食用として認識されていないので、食べるのは避けた方が無難です。
蟹を解体せず、甲羅ごとお鍋で調理した場合、その後の雑炊などで、無意識のうちにカニビルも口にして、堪能している可能性は無いとは言えません。どうしてもカニビルを口にしたくないのなら、あらかじめ甲羅を念入りに洗っておく必要があります。
カニビルの卵がついたカニは美味しいって本当?
蟹の甲羅の黒い物体の有無、量が、ウマい蟹を見分ける目安になる!などの噂を聞いた方も居るでしょう。でも、どうしてそんな結論に辿りつくのでしょうか。ここでは、その噂は本当か否か、検討します。
カニビルの卵がついたカニは美味しいものもそうでないものもある!
甲羅に卵がついた個体は、脱皮から長い時間を経た個体なので、身もギュッと詰まって美味しい…とよく謳われています。ところが、蟹の脱皮事情なんて、カニビルには関係ないので、卵をいつだって産むのです。でも蟹の味に影響は出ません。ウマい蟹もあれば、イマイチな蟹だって、当然あります。
「カニビルの卵がついたカニは美味しい」は、カニ販売業者が流した宣伝文句
実はこの「カニビル付きの蟹はウマい」という話、蟹を売るための「宣伝文句」だったのです。大体の国産ガニには、地理的な要因から、どう足掻いてもカニビルの産卵から逃れられません。カニビルが付着した商品でも売り上げが落ちない、むしろ上がる方法を考えた結果のことでした。
また、蟹を実際に手に取ってみて、身の重さを比べるお客さんも多かったそうで、身のスカスカ、とまでは行かないが、あまり詰まっていない、軽い蟹が売れづらい…という状況を打開するためにも、見た目にわかりやすいカニビルを利用し、美味さの基準と定めたのです。
カニビルの卵を取り除くのは手間がかかるから
売るための宣伝文句を考えるくらいなら、初めからカニビルを取ればいいじゃないか!と思うかもしれません。しかしながら、ほぼすべての蟹に卵が付着していることを前提に考えれば、一杯ずつ排除していくのは、大変な重労働になります。また、鮮度も落ちていきます。お客さんに新鮮な蟹を提供するためにも、必要な宣伝だったわけです。
カニビルの卵は気持ち悪い?卵の取り方を紹介!
寄生虫であるカニビルの卵が付いているのは嫌だと思う方や、中には粒々自体を見るのが苦手、という方もいるはずです。そんな方たちのために、カニビルの卵の落とし方について、少し紹介していきます。