ジャイアントモアとは
かつてこの地球上を歩いていた、史上もっとも背が高い鳥ジャイアントモア。この鳥はどこでどのように生活していたのでしょうか。そしてなぜ姿を消してしまったのでしょう。この記事では、謎に包まれたジャイアントモアの魅力をたっぷりお伝えしていきます。
史上最大の鳥「ジャイアントモア」
まずはジャイアントモアがどのような姿をしていたのかお伝えしていきます。ジャイアントとその名にある通りにとても大きな鳥でした。日本においての和名は「オオゼキオオモア」、高さはおよそ3.6mと鳥としては最大でした。体重は250kgにも達したと言われています。
2階建くらいの身長
175cmの大人の頭の上に、同じく175cmの人がもう1人サーカスのように垂直に立ってみても、まだこの鳥の3.6mもの身長には追いつくことができません。また、日本の一般的な2階建住宅の高さは地面から3.5mほどですので、もし自宅の庭にこの鳥が来たならば2階のベランダに登ってようやくこの鳥の頭を撫でることができるのです。
体重においては、2019年2月25日時点の日本国内の現役力士の体重で1番重い方でも226kgですので、いかにこの鳥が大きかったのかおわかりいただけることでしょう。2階建ての高さと、お相撲さん以上に重い体重。まるで恐竜のようなこの大きな体がこの鳥の最大の特徴でした。
卵も巨大
この写真はダチョウの卵とガチョウ、アヒル、鶏の卵の比較です。ダチョウの卵の大きさが際立っていますが、ジャイアントモアの卵はそれよりさらに大きなものでした。ダチョウの卵の長さが17〜18cmほどなのに対し、ジャイアントモアの卵の長さは24cmもあったのです。
羽がない鳥類
ジャイアントモアは空を飛ぶ羽を捨て、走ることに特化した鳥でした。羽は人間にすれば腕に当たるものですが、彼らの骨格にはその痕跡すらありません。現在飛べない大きな鳥といえばダチョウですが彼らには羽があります。ダチョウの身長はおよそ2.3m、体重は136kgほどになりますので、どちらもジャイアントモアが大きく上回っています。
走るスピードにおいては、時速50kmだったと言われているジャイアントモアに対しダチョウは時速70km。身軽な分ダチョウの方が速いようです。それでもこれだけ大きなジャイアントモアが車くらいのスピードで走ることができたとは驚きです。
オスよりもメスの方が大きい
ジャイアントモアはオスよりもメスの方が1.5倍も大きな体をしていたようです。これは鳥の世界ではとても稀なことでした。オスはダチョウぐらいの大きさだったようですので、なかなかの身長差カップルですね。巣の卵や雛を守るためにメスはこれだけ大きくなったのでしょうか。きっと頼もしいお母さんだったに違いありません。
名前の由来
ジャイアントモアの名前の由来は諸説ありますが、ひとつ有名なものは、ヨーロッパ人がマオリ人たちに調査のためにこの鳥の骨を集めさせた際、もっと持ってこいと英語で伝えていたところ、彼らがその言葉を鳥の名前と勘違いした、という説です。
「More bones(もっと骨を)」からMoaという名前になったというのは面白いですね。また、モアの仲間はジャイアントモア1種だけでなく、6属10種以上もの多様な種類が存在していたようです。
体重は最大ではない
250kgもの体重を誇るジャイアントモアですが、実はさらに重い鳥が存在していました。それはアフリカのマダガスカル島に生息していたエピオルニスです。エレファントバードとも呼ばれるこの鳥、体重はなんと400kg〜500kg。身長は3〜3.4mほどで、ジャイアントモアよりもさらにどっしりとした体型だったことが伺えます。
ジャイアントモアの生息地
巨大なジャイアントモアは、一体どこに住んでいたのでしょう。あのような大きな体になるまでにはどこでどのように進化をしていったのでしょうか。ここからはその秘密についてお伝えしていきます。
ニュージランドに生息していた
ジャイアントモアはニュージーランドの灌木地(かんぼくち。高さ約3m以下の低木地帯)、草原、砂地、森などで暮らしていました。ジャイアントモアは大人しい草食の鳥で、キリンのように木の枝の葉や芽を引っ張って食べていたようです。またモアたちは春から夏の間に、地面に巣を作って卵を温めていました。
海に沈んだジーランディア
一般的に島国のイメージが強いニュージーランドですが、実は約2300万年前に海に沈んだジーランディアという大陸の一部が海上に顔を出している形だということがわかっています。この大陸はおよそ93%が水没したままだということですので、かつて海の底へと消えてしまった動植物についても気になるところですね。
モアたちの敵となる可能性のあった肉食の哺乳動物もこの時に一掃された可能性があるようです。初めは小さな姿でニュージーランドにたどり着いたモアの先祖となる種は、天敵となる動物が地上にいなかった安全なこの地で長い時間をかけ、ついには羽までも捨て、飛ばない巨大な鳥の姿へとどんどん大きく進化していったのです。
ニュージーランドには他にもさまざまな鳥が
ニュージーランドには現在でも独特の進化をした珍しい鳥たちが暮らしています。長らく哺乳類が住んでいなかったこの島は、捕食者から飛んで逃げることをしなくても大丈夫だったために飛べなくなった鳥たちの楽園でした。
キウイフルーツの名前の由来となり、ニュージーランドの国鳥でもあるキーウィは特に有名ですね。他にも飛べない人懐こいオウム、カカポなども人気があります。カカポについて気になった方はこちらをご覧下さい。
ジャイアントモアが絶滅した理由
大きく進化した体に、安全な環境。危険にさらされることなどなさそうだったジャイアントモアたちが姿を消してしまったのはなぜなのでしょうか。ここからはその疑問の答えをお伝えしていきます。
マオリ族が乱獲したため
ニュージーランドに最初に到達した人類はポリネシア地域からやってきたマオリ人でした。9世紀ごろこの地へやってきた彼らはジャイアントモアを狩り続け、15世紀までには絶滅に追いやってしまったと言われています。
1960年代、マオリ族の遺跡から大量のモアの骨が発見されました。ポリネシア人は漁業や農業をして暮らしているものでしたので人々は驚き、彼ら以前にモア・ハンターという別の民族がいたのではないかと言われましたが、現在では、この島でモアという貴重な存在に出会った彼らが狩猟民族へ変化したという考え方が浸透してきています。
生活の中心だったモア
ジャイアントモアはマオリ人にとって貴重な食料源であるとともに、骨を釣り針や身につけるものとして利用したり、羽をケープやネックレスにしたりと、余すことなく使うことができる素晴らしい生き物でした。
ジャイアントモアがいなくなるにつれ、既にニュージーランド各地に散らばっていたマオリ人たちはそれぞれ漁業や農業を中心とした生活へと戻って行きました。ジャイアントモアは彼らの生き方をも変える存在だったのです。
石を飲む習性
ジャイアントモアには消化を助けるために石を飲む習性がありました。それらの石は胃の中で石同士の摩擦によって、食べたものをすり潰す役割を果たします。マオリ人はその習性を使い、モアたちに焼け石を飲ませて弱らせ狩っていきました。また、彼らにとって最も重要なあの脚を棍棒で叩いてバランスを崩すことで狩ることもあったようです。
補足になりますが石を消化のために飲み込む習性は現在でもダチョウなどにも見ることができます。また、恐竜のプレシオサウルスやブラキオサウルスなども同じ習性を持っていました。恐竜と鳥が同じ習性を持っているなんて、進化の道筋を感じますね。
繁殖能力の低さや環境の変化
ジャイアントモアは一度に2〜4個の卵を産んだとされていますが、繁殖能力自体は高いとは言えませんでした。また、彼らの住処だった草原や森が開墾されていったこともジャイアントモアを追い詰めてしまった要因でした。
大人になるまで10年
ロンドン動物学会のサミュエル・ターヴェイらは、モアの骨の中に刻まれた、木の年輪のような骨の成長の痕跡を発見しました。それが示すところによると、モアたちが生まれてから性成熟するまでには10年近くも要したということがわかりました。
現在生きている鳥たちは、モアたちに似たダチョウやエミューなども含め皆孵化から1年以内には大人になるというのに、この年数は驚くべきことです。大人のジャイアントモアがどんどん狩られてしまっては当然ながら卵は生まれませんし、成長までに10年もかかっては急速な減少を食い止められなかったのも残念ながら納得です。
ジャイアントモアはおとぎ話?
今でこそ史上最大の鳥として名高いジャイアントモアですが、その存在が認められるまでには少々時間を要しました。初めのうちは誰もがジャイアントモアは単なる伝説の存在だと考えていたようなのです。それはなぜだったのでしょう。