バラモン教はインド最古の宗教
バラモン教とは、司祭階級である「バラモン」が中心となり、「天・地・太陽・風・火」などの自然神であるヴェーダの神々を崇拝する多神教です。中心となる神は「インドラ」「ヴァルナ」「アグニ」などです。
アーリア人のインドへの侵入が始まり
紀元前1500年頃に、アーリア人がインドの北西部に移住してきました。アーリア人は、特定の地域のドラヴィダ人を支配したとされています。ドラヴィダ人とは、インダス文明を築いたと考えられている先住民族です。
アーリア人の先住民ドラヴィダ人征服過程で成立
ドラヴィダ人を征服していく過程で、お互いの宗教を融合させていきました。その中で、身分を階級で分ける制度であるカースト制を作り出し、バラモンと呼ばれる祭司階級のアーリア人が行う祭儀を重要とした、「支配者の宗教」としてバラモン教が形作られたとされています。
バラモン教の聖典「ヴェーダ」
ヴェーダは、バラモン教とヒンドゥー教の根本となる聖典の総称です。インドで最も古い聖典で、口伝のみで伝承されてきたものが記録された宗教文書です。言葉の意味は「知識」ですが、「宗教的知識」という意味合いが強いです。
ヴェーダは4種類ある
ヴェーダの元となる本体部分のことをサンヒター(本集)といい、4種類のマントラ(讃歌・詠歌・祭詞・呪詞)で構成されています。讃歌集の「リグ=ヴェーダ」は、神々への讃歌と古い神話が収録されている、最も古いヴェーダです。
詠歌集の「サーマ=ヴェーダ」は、祭式で節をつけて歌われる讃歌が収録されています。祭詞集の「ヤジュル=ヴェーダ」は、祭式における作法や供物を献呈する方法と共に、神々へ呼びかける言葉が収録されています。呪詞集の「アタルヴァ=ヴェーダ」は、呪術的な儀式が収録されています。
ヴェーダに付属する3つの書
ヴェーダには、サンヒター(本集)に付属する3つの文書があります。内容は、「解説と注釈」「秘儀と秘法」「哲学と思想」です。祭儀書・梵書とも表現される「ブラーフマナ」は、ヴェーダの祭儀を解説した注釈書です。
森林書と表現される「アーラニヤカ」は、祭式の解説や哲学的な部分もありますが、秘儀的な祭式やマントラの解釈が多くを占めており、人里から遠く離れた森の奥で伝えられる秘法も収録されています。奥義書と表現される「ウパニシャッド」は、ウパニシャッド哲学を中心とした哲学的な内容が収録されています。
バラモン教の輪廻転生は救いようのない不平等
当時の人々は、人間は肉体と霊魂で構成されていると信じていました。「肉体は物質なので必ず滅びて大地にかえるが、霊魂は物質ではないので永遠に不滅であり、天界に昇った霊魂は次の肉体に宿る。その際に、生前の行いで霊位が上下し、次に宿る肉体が決まる。」これが輪廻の基本となる考え方です。
輪廻転生とは?
バラモン教の輪廻転生には「五趣」「五道」の考え方があります。生まれ変わる肉体の境涯を5種類に分け、「天界」「人間」「畜生」「餓鬼」「地獄」の中で、生前の信仰度合いによって境涯が変わるという考え方です。
バラモン教は五道思想を現世にも適応させた
バラモン教は五道思想を社会階級になぞらえ、カーストという身分を分ける制度を確立させました。カーストでは、生きている間に身分階級の変更はできません。現世で熱心にバラモン教の信仰をして徳を積めば、来世では上位の身分で生まれてくることが出来るとされています。
最下位身分シュードラは永久にシュードラ
奴隷階級である「シュードラ」は、熱心に信仰をしても、たくさん徳を積んでも、別の身分階級に生まれ変わることが出来ないとされています。ずっとシュードラのまま、輪廻転生を繰り返すのです。
当時のシュードラは職業の自由がなく、人が嫌がる仕事や、上位の身分階級に仕える仕事が主でした。カーストの仕組みの中では、一度シュードラとして生まれてしまったら、永遠に奴隷階級から抜け出せないとされています。
バラモン教の五道と結びついたカースト制度
カーストとは、バラモン教が五道思想を社会階級になぞらえて作った、身分を分ける制度です。インドでは「ヴァルナとジャーティ」と呼ばれています。現代のインド社会にもカーストの意識は残っており、バラモン(現在のヒンドゥー)教以外の宗教の人でも、カーストの意識が根付いている人がいます。
4つの身分からなるヴァルナ(種姓)
カーストは、「ヴァルナ(種姓)」と呼ばれる分類が4つあり、上層の階級ほど権力を持っています。司祭階級「バラモン」、王族・武人階級「クシャトリア」、庶民階級「バイシャ」、奴隷階級「シュードラ」に分けられています。
ヴァルナの枠外に置かれる不可触民
インド国内には、ヴァルナに属さないヒンドゥー教徒も暮らしています。アチュート・不可触民(アンタッチャブル)・アウトカースト・指定カースト・アヴァルナなどと呼ばれ、不可触民は自分達のことをダリット(壊された民という意味)と呼びます。
カーストは4つの身分階級から出来ているので、不可触民はカーストの中に含まれていません。一番下の階級ではなく、枠組みの外という立ち位置となります。しかし、ヒンドゥー社会の中では、一番下の階級として扱われています。
不可触民への差別
「触れると穢れる人間」として不可触民は扱われ、「触れる、見る、近づく、声を聞く」ことも穢れとされてきました。また、同じ神様を信仰しているのに、寺院に入ることを禁止され、ヴァルナに属する人達が使用する井戸や貯水池を使用することも禁止されていました。
不可触民は社会から切り離され、厳しい差別をうけてきた歴史があります。現在でも、殺傷を含めた憎悪犯罪が起こるなど、差別はなくなっていません。貧困も深刻なため、不可触民の人権を求める動きが活発になっています。
細分化されるジャーティ
カーストの一部であるジャーティは、具体的な数が把握できないほどに細分化されています。4つのヴァルナがヒンドゥー社会の大きな分類であるのに対し、ジャーティは、職業や内婚集団によって区分される場合が多いです。ヴァルナと違い、ジャーティには不可触民も含まれており、現在も集団として機能しています。
ジャーティは生まれによって決まり、一生変更できません。固有の職業を持ったジャーティは世襲制です。同一のジャーティ内での結婚が義務付けられていますが、上層の男性と下層の女性の結婚は認められる場合もあります。浄性を共有しているので、他のジャーティとの飲食物の交換や共食・共飲が制限されています。
バラモン教と仏教はどこが違う?
紀元前500年頃、バラモン教に反発した新しい宗教や思想がたくさん生まれました。その内の一つである仏教では、バラモンによる支配やカーストを否定しており、バラモンに支配されることを良く思わない人々からの支持を得ました。
バラモン教を批判したお釈迦様
不平等な社会を形作るバラモン教に疑問を抱いたお釈迦様は、苦しみ続ける人々を救うために新しい宗教を創始しました。それが仏教です。お釈迦様は、「人は、神のような超越した存在の力によって救われるのではなく、個々人の行いによって救われるもの」と説きました。
バラモン教と仏教の輪廻転生の違い
バラモン教の輪廻転生は「五道」という考え方で、生まれ変わる肉体の境涯は5種類に分けられます。生前の信仰度合いによって境涯が変わるという考え方で、心理を把握しない限り、輪廻の中で永遠に転生を繰り返します。
仏教の輪廻転生は「六道輪廻界」という考え方で、生まれ変わる肉体の境遇は「修羅道」が増えた6種類に分けられます。大きくは善趣と悪趣で分かれており、善趣は「天」「人」「修羅道」、悪趣は「畜生」「餓鬼」「地獄」です。生前の善行・悪行によって境遇が変わるという考え方で、輪廻の世界を抜け出せば仏界に行くことが出来ます。
バラモン教と仏教の解脱の違い
バラモン教の聖典に付属する、ウパニシャッド(奥義書)に収録されているウパニシャッド哲学によると、「ブラフマン(宇宙の根源)とアートマン(人間の本質)が同一だと認識できれば、真理を把握できて輪廻の業(苦悩)から逃れて解脱できる」と示されています。
ウパニシャッド哲学の、深く内面を思惟する物の見かたや、輪廻や業の死生観から仏教が誕生しました。お釈迦様は、永遠に不滅のアートマン(我)を否定し「無我」としました。仏教の解脱は「苦悩の解決」であり、それは「真理の理解(悟り)」だけではなく、「善行の実践(八正道)」でも解決できるとされています。