恐ろしい見た目の般若の面!本当は怖くない本来の意味と由来は?

実は女が鬼に変わるまでには段階があり、般若はその変化の途中の段階です。般若になる前、まだ女性の表情が残る「生成(なまなり)」から、般若を経て、完全に化け物と化してしまった「真蛇(しんじゃ)」となります。

般若の前段階:生成

生成はいわば「鬼になりかけの女性」を表現しています。そのため、貴族の女性らしい髪の毛や置き眉もしっかりあり、目つきも女性らしさを残しています。しかし頭には小さな角が生えてきているうえ口元も大きく開き牙もあり、人間であることに未練を残しながらも鬼に変化していく様子をよく表しています。

般若の後段階:真蛇

真蛇はもうすっかり鬼(蛇)に変化してしまった姿なので、元の女性らしさはありません。金色の目は大きく開き、あごは突き出て口元は裂けて真っ赤な舌を出しています。髪は前に垂れ下がり、耳もなくなっているのも特徴です。最初の段階を生成というのに対し、般若を中成(ちゅうなり)、真蛇を本成(ほんなり)という呼び方もあります。

能に登場する般若の面

出典:PhotoAC

そもそも能とは日本の伝統芸能のひとつで、超自然的なものをモチーフにした高尚な内容の歌舞劇のことを言います。その中で般若の面は主に鬼女物と呼ばれる曲目で出て来ます。その代表的なものを見てみましょう。

葵上

『源氏物語』のエピソードがモチーフになったものです。光源氏の正妻である葵上は光源氏の愛人である六条御息所の怨霊に取りつかれ危険な状態になっていました。怨霊は巫女によって姿を現し、葵上の姿を見ると嫉妬に駆られて鬼女に変身します。ここで般若の面が登場します。鬼女は最後には修験者の祈祷によって浄化されるという話です。

道成寺

こちらは紀伊国の道成寺というお寺での物語です。ある日女人禁制で釣鐘の供養が行われることになりましたが、ひとりの白拍子と呼ばれる遊女が紛れ込み、舞いながら釣鐘の下に入ったところ鐘が落ち、中に入ってしまいます。

祈祷によって釣鐘を持ち上げたところ、中から蛇に変化した白拍子が出てきて暴れ回ります。実は寺の山伏に見捨てられたと思い込んだ女性が蛇に変化し、鐘の中に隠れた山伏を焼き殺したという逸話があったのです。白拍子が変化した蛇は僧侶たちの祈祷によって自らの身を焼いて川に飛び込んで消えます。

黒塚

修行の旅をしていた修験者一行が、安達原という人里離れた山里で日が暮れてしまいました。近くには1軒だけ家がありたずねたところ、女が1人で住んでいました。一行は宿を頼んだものの一度は断られましたが、なんとか頼み込み泊めてもらうことになりました。

夜が更けてくると、寒さをしのぐため薪を取りに行くのでその間寝室をのぞかないようにと告げて女は外出します。しかし一行のうちの1人が寝室をのぞいてしまうと、そこにはたくさんの死骸がありました。女は鬼だったのです。秘密を知られた怒りから女は鬼に変身して襲ってきますが、最後には修験者の祈りに負けて消えてしまいます。

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