狐の窓を行うにあたって最も危険な方法、それは鏡の中の自分に対して窓を向けることです。別の章で述べた「他人に自分のことを覗かれるのは危険である」という事を踏まえると、自分自身を覗くという行為が危険であることは明らかです。
鏡には不穏なものがついてくる
また、鏡というアイテムそのものにも色々いわくつきの話があります。有名なところでは、ある時刻に合わせ鏡をしてその間に立つと異世界に引きずり込まれたり、亡霊が現れたりするなどと言われています。狐の窓に限らず、鏡には霊的なものを引き付けてしまうという危険な側面もあり、むやみに使用しないほうが良いとされています。
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狐の窓の噂はいつ頃から囁かれるようになったのか
狐の窓というのは最近噂になった話ではなく、昔から語り継がれているものです。各地方によって少しずつ異なるものの、内容に共通点の多かった伝承を南方熊楠がまとめ、それが広まって現在の形になりました。
岩見地方の狐の嫁入りの伝承で登場
狐の窓はまず『民俗学』1巻5号(1929年)にて、岩見地方に伝わる狐の嫁入りの話に登場しました。岩見地方では、日が照っているのに雨が降る日は狐の嫁入りが行われると言われてきました。そんな日は指を組んでその隙間から山際を覗くと嫁入りが見られるとされ、その地方の人々はよく指で窓を作って山際を見ていたと紹介されています。
民俗学者南方熊楠が現在に伝わるやり方を記した
しかし岩見地方の伝承は、文献を見る限り現在のような手の組み方や呪文については触れられていません。そちらはあくまで初出であり、「狐の窓」のやり方自体は紀州田辺に伝わっていたものから派生しています。『民俗学』1巻6号(1929年)にて南方熊楠が伝承をまとめてその手順をスケッチに書き残し、それが現代に伝わりました。
紀州田辺に伝わっていた狐の嫁入りはもう少し手順が多く、手を組むだけではなく「口を尖らせ、犬の字を3回書く真似をして、3回息を吹きかけて」から指の間を見るとされていましたが、その手順はいつしか抜け落ち、呪文が追加されて現在のような形となりました。
狐の窓と同じく妖怪を見破る方法「股のぞき」
古くから現在まで伝わっている妖怪を見破る方法は狐の窓だけではありません。「股のぞき」という方法もまた、昔から怪異や化け物の真実の姿を見抜くと言われ、人々の間で儀式として行われてきました。
股のぞきも狐の窓と同じ!正体を見破る
「股のぞき」とは、自分の股の間から顔を出して逆さにものを見ることです。世界を逆さまの視点から見ることにより、狐の窓と同様に狐の嫁入りが見える・化け物の正体を暴くことが出来ると言われています。
元々は幽霊船を見破る方法
股のぞきは元々、幽霊船対策としてあったものでした。幽霊船は海で死んだ者が仲間を増やすために姿を変えて現れたものだと信じられており、人々は怪しい船を見かけたら股のぞきでその正体を見破ろうとしたのです。諸説ありますが、股のぞきをすると船が海面から少し浮いているなど何らかの異常が見られ、幽霊船であると見抜くことが出来ます。
幽霊船についてもっと知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。
未来の吉凶を占うことも出来る?
股のぞきについてはもう一つ、未来を窺い知ることが出来るとも言われています。大晦日の夜、高い岡に登って股のぞきで自分の家を見ると来年の吉兆がわかるというものです。また、小さな子供が股のぞきをして遊んでいたらまもなく次の子供が生まれるとも言われており、占いとしての側面も多く持ち合わせていました。
非日常を演出することによって見える世界とは
狐の窓や股のぞきなど、日常ではやらないようなしぐさによって普段は見えないものを見通そうとする慣習は1つの地域だけに留まらず、やり方は少し違うものの主に東北地方の様々な地域で見られています。これらの不思議なしぐさには、異世界と私たちの住む世界とを結ぼうとする昔の人々の考えがありました。
「見えないものを見る」ための慣習は様々な地域で伝えられている
狐の窓や股のぞきに限らず、怪異を見抜いたり未来を占ったりするために行う儀式というものは他にも存在します。新潟県新八田市宮古木では蓑や笠を逆さに着て屋根の棟木に立つと、火事や災難の起こる家がわかると言い伝えられてきました。また、同市市川東地区では屋根の棟で半切りに水を入れると葬式のある家の様子がわかると言われていました。
異世界を覗くための儀式
これらの言い伝えにある通り、怪異を見破ったり未来を見通したりするためには、いずれも不自然なアクションを取る必要がありました。股から世界を覗く、蓑を逆に着る、手の表裏が同時にこちらを向くように組み手をする。これらの儀式には「世界を逆さま、或いは非日常的に演出し、異世界と繋がる」という目的がありました。
このように、人々は昔から怪異や異形の者たちを恐れると共にその世界への憧れのような感情を抱いてもいました。そしてその思いは何十年もの間褪せる事無く人から人へと繋がり、姿かたちを少しずつ変化させながら現代に生きる私たちの所にまで伝わってきたのです。
狐の窓は様々な作品にも登場している
狐の窓は伝承やオカルトとしてだけではなく、文学作品やアニメなど様々な作品にも登場します。「本来見えないはずのものが見える」という現象は、良くも悪くも人の心を惹きつけます。ご紹介する作品群にもその魅力や恐ろしさが盛り込まれています。
国語の教科書にも掲載「きつねの窓」
「きつねの窓」は道に迷った猟師が花畑で女の子と出会い、摘んだ花で作った染料を指に塗ってもらうと自分の見たいものが見えるようになる、という物語です。染料を塗った指で狐の窓を作ると、亡くなった両親の姿など懐かしいものを次々見ることができました。
しかし、家に帰っていつもの癖で手を洗ってしまうと染料が落ち、再び窓を作っても何も見えなくなってしまいます。その後女の子を探しても見つからず、思い出が二度と見られなくなってしまったという少し悲しい物語です。
アニメ化もした名作漫画「もっけ」
「もっけ」は体質によって勿怪を引き寄せてしまう姉妹を描いた1話完結の漫画です。妖怪と自然との共存をテーマにした作風が高く評価され、2007年にはアニメ化もしています。この「もっけ」では妖怪を見る方法として狐の窓が紹介されていました。
狐の窓で相手の正体を見破ろう
狐の窓は長い歴史を持ちながら、その実態が殆どわかっていません。しかし、だからこそ、危険があると言われながらもたくさんの人が狐の窓を試してきたのです。狐の窓を行っても必ず見えるとは限りませんが、もしかしたらどこかで怪異との接触に成功する日が来るかもしれません。
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