平安時代に作られたと言われている「大和物語(やまとものがたり)」の中で似た内容の「姨捨」というお話が出てきます。登場人物は少し違うものの、話の裏側から学ぶことができるポイントは同じような教えになっているお話です。
母親がわりに親身になって育ててくれた伯母
母親を早くに亡くした男がいました。男の伯母は、実の息子のように育ててきました。しかし、彼が妻に迎えた女は彼女が気に入らず意地悪ばかりをしていました。ある日「伯母を背負って深い山へ捨ててきて」と男に頼んだのです。悲しいことに男は妻の指示通り、彼女を山へ捨てに出たのでした。
置き去りにした後、後悔し迎えにいった
実際に何も知らない伯母を山へ置き去りにした男は、家に戻ります。しかし、家に戻った後に我にかえりいじわるな妻の言う事を聞くのではなく愛情持って育ててくれた伯母を思い考えを改めたのです。そしてすぐに彼女を山へ迎えに戻ったのでした。
その伯母を思い詠んだと言われている唄が古今和歌集に記されています。その唄の中に出てくる「姨捨山」を引き合いに出し、ウバステヤマという言葉が世に広がり知られ使われるようになったという可能性もあります。
古今和歌集 (第十七巻 雑歌上)
- わが心慰めかねつ更級や姨捨山に照る月を見て
現代語訳:私の心は、慰められないのだ。更級の姥捨山に照る月を見ていると。(現代語版の解釈:夜、姥捨山を照らす月を眺めていると、捨ててきた伯母さんのことが心配で私の心は慰められないのだ。)
現代の姥捨山と呼ばれた老人ホームとは?
ここまで、この悲しい言い伝えはあくまでも架空のものであり歴史上では実在していないとご紹介しました。しかし、皮肉なことに現代の日本では高齢化に伴い年老いた老人の行き場が限られてきてしまっています。
そんな高齢化した現代で多くの老人が、救いを求めるのが老人ホームです。最近では様々な種類の老人ホームがある中で「現代版うばすて山」と言われ、悲しい意味合いで注目されている場所も実在しています。
「陸の孤島」に非難殺到
それは南伊豆にある老人ホームで、都内から車を走らせても5時間程かかるとても不便な場所に位置しています。南伊豆は天候によってはたどり着く事が不可能な場合もあり、その立地が故に「陸の孤島」とも呼ばれています。
この場所に預けられた老人は、日帰りで自宅に戻る事もできずその立地と距離から訪れる家族も少ないと言われています。まるで、言い伝えのように「生きたまま死を迎えるのを待つだけの場所」のようなイメージが付き、多くの人から非難されています。
姥捨山を題材にした映画作品
一つのストーリーから様々なな感情や思いを学ぶ事ができるとして、この「うばすて山」を題材とした作品も多く存在しています。もちろんすでに紹介している子供むけの昔話から、短編小説以外にも映画として製作されたものもあるのでご紹介します。
姥捨山を題材にした映画①:楢山節考
1957年に発表された小説が2度にわたり映画化されています。老人を遺棄する言い伝えをテーマとして作られた作品でその中でもこの名が多用されています。この言い伝えが大きく国内に広がったのもこれがきっかけなのかもしれません。