京都文化「いけず石」とは?
京都で古くから伝わる風習のひとつである、いけず石。自分の家の敷地内に車が入らないように置き石をすることです。京都の景観に馴染むように、大きな石が街中に置かれているのを見かけたことがある人もいるのではないでしょうか。
京都の町並みに溶け込む「いけず石」
観光地として人気の高い京都。趣ある風景にうまく溶け込んだいけず石は、京都の街のいたるところで見つけられます。オブジェのようにずっしりと構えているその姿は、思わず写真に収めたくなります。
街角や敷地の角に置いてある大きな石
大きさや数はまちまちですが、中には「休んでいってください」と言わんばかりに大きなものもあり、歩行者は腰かけに使うこともできそうです。長い歴史のある京都には、このような文化が今もなお根付いています。
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いけず石の由来とは?
「いけず石」という名前は、京都の方言に由来があります。京都弁ならではの柔らかい言雰囲気が可愛らしい名称です。しかしなぜ京都の人々はわざわざ石を置くのでしょうか。それには京都人の性質と、街の造りが関係しています。
いけず=意地悪
「いけず」とは、京都弁で「意地悪」という意味です。もちろん全員に当てはまるわけではありませんが、京都人は昔から「腹黒い」「裏表が激しい」と言われてきました。いけず石の存在は、意地悪をしてやろうという京都人の気持ちをそのまま表しているとも捉えられます。
いけず石は京都の狭い路地が生み出した自衛手段
京都市内の道は、東西と南北のまっすぐな道がいくつも交差しており、「碁盤の目」と呼ばれています。路地が狭く、車が住宅に接近しすぎて、家の壁を擦るというような事故が起きてしまいます。しかしいけず石があれば、車が必要以上に家に近づいてくることはありません。いけず石は不便な環境が生んだ自衛手段なのです。
いけず石の絶大な効果とは!
敷地内に車が侵入しないように、家を守ってくれるいけず石。日本各地にあるものの、京都は圧倒的に数が多く、市内だけでも数千箇所に置かれています。家の外に石があるだけで、どのような効果をもたらすのでしょうか。
いけず石で車に傷がついても自己責任
京都市内を走る車やトラックの運転手は、いけず石のせいで車体が傷ついているとわかっているようです。「ぶつかってきた方が悪い」という考えなので、運転手はいけず石に当たらないようにうまく運転しなければいけません。
面倒ごとを回避!
いけず石に車をぶつけ傷つけてしまったとしても、石は敷地内にあるため運転手は家主を咎めることはできません。むしろ、「敷地内に入ってきたのはそっちだ」と責められてしまう可能性もあります。運転手は黙って泣き寝入りをするしかないのです。
いけず石って違法にはならないの?
京都の町に長年暮らす人々の発想で生まれたいけず石ですが、車を傷つけたり歩行の妨げになったりすることが、現代では違法にはならないのでしょうか。法律の観点からいけず石を見ることで、京都人のしたたかな性格も浮き彫りになります。
自分の敷地内であれば合法!
結論から言ってしまえば、合法です。ただし自分の敷地内であることに限ります。庭いっぱいにお花を植えても、大きな石を置いていたとしても、それは家主の自由ということになるわけです。京都の人々はそれを承知でいけず石を置いているのです。
私道もあくまで私有地扱い
道路に置かれているものもありますが、私道であれば私有地内なので問題はありません。しかし道路の幅を確保するために、土地と道路の間に「セットバック」という境目部分がある家の場合は、そこに物を置いてはいけない法律になっているので注意が必要です。
敷地外であれば損害賠償の対象かも…?
敷地の外に置かれ、なおかつ悪意があると判断されば、当然違法です。街中にはそのラインぎりぎりのいけず石もあるため、不当であれば市内の交通課に連絡をして、撤去してもらうこともできます。
いけず石からみえる京都人の性格
いけず石の風習からわかるように、京都の人々は昔からしたたかなイメージを持たれています。あくまでイメージとはいえ、お隣の明るく陽気な大阪人と、性格と比べられがちです。同じような事象があった際にどのような対処をするのかを、いけず石を介して比較してみましょう。
揉め事を好まない京都人
長い歴史のある京都で生まれ育った京都人は地元愛が強く、それ故にプライドが高いと言われています。京都人は同じ関西である大阪人と一緒にされることを嫌がります。
いけず石を置くことは、京都人の気質をよく表わしている。
大阪人であれば、警告の張り紙でもしておいて、それでもぶつける下手くそがいれば飛び出してきて口論になり、警察を呼ぶことも躊躇はしないだろう。周囲の家々から「観衆」も集まってくるに違いない。(引用:いけず石-通信用語の基礎知識)
前に前に出る大阪人に対し、京都人は相手を立て一歩引く上品な府民性があると自負しているため、揉め事を好みません。ましてやこちらが損をするような争いは、やっかいでしかありません。
京都人のモットーは「触らぬ神に祟りなし」
下手くそが家や塀にぶつかっても、そのまま逃げられれば気分が悪いが、一々ドライバーと揉めるのは煩わしいことである。京都人は「触らぬ神に祟りなし」を基本原則として生きている。そこで京都人は、いけず石を置いた。(引用:いけず石-通信用語の基礎知識)
ぶつけられるのは嫌だけど、でも争うのも煩わしい。なので、問題を未然に防ぐ手立てとしていけず石を置き、「これ以上関わるな」と静かに警告するのです。
コミケでも大活躍のいけず石!?
京文化であるいけず石は、日本を代表する同人誌即売会であるコミックマーケット、通称「コミケ」でも大活躍しています。実際に石を置かなくても、ペットボトルが1本あればOKです。画期的なアイデアに注目が集まっています。
大勢の人で賑わうコミケでもいけず石効果!
無遠慮に机の角にぶつかって来ていた人たちも、ペットボトルが隅にあることで、当たってこなくなったどころか、よけて通っていきます。驚きのいけず石効果です。
隅に置くだけではなく、中には「ペットボトルの口を開けていたら良いのでは」という、まさに「いけず」な意見もありました。自分の領地を守りたいという古の工夫は、このような場所でも生きています。
他にもあるよ!京都らしい対処法「犬矢来」
京都にはいけず石の他にも、迷惑な行為を粋に乗り切る対策法があります。竹を曲げて作られた「犬矢来(いぬやらい)」という垣根もそのひとつです。いけず石同様、とても実用的な犬矢来の使い方をご紹介します。
犬の放尿を防ぐ「犬矢来」
木造建築に馴染むなめらかな曲線のデザインが美しい犬矢来。街並みに趣を添えています。犬矢来は江戸時代の中期頃誕生したと言われ、「犬をやらう(追い払う)」という意味から、犬などの小動物が家におしっこをするのを防ぐ目的があります。
その他の効果も
犬のマーキング防止の他にも、カーブを描くことで泥棒の侵入を防いだり、車馬の水はねや飛び散る雨からの腐食を抑えたりと犬矢来の効果は様々あります。
最近は竹だけでなく金属やプラスチックなどの素材で作られたものや、可動式でしまえるものなど、様々なニーズに適応しています。