『魚』に『右』のあらすじ①少女に会う
冬の黄昏時、主人公の男性は友人を待つために、公園にある砂場に近いベンチに座ります。薄暗くなり始めた公園には、主人公の男性と、砂場で遊ぶ5~6歳くらいの少女の二人しかいませんでした。携帯電話を見ていた男性が顔を上げると、砂場にいたはずの少女が目の前にいました。少女の髪形や服装は、昭和初期の子供のような地味なものでした。
少女に『さかな』に『みぎ』の読み方を聞かれる
少女は、「『さかな』に『みぎ』と書いてなんと読むのか?」を、男性に尋ねてきました。男性は質問の意図が理解できず、「『魚』は偏(へん)で、旁(つくり)に『右』がつく一つの漢字なのか」を尋ね返します。しかし少女は、「偏(へん)や漢字は、よくわからない」と答え、「『さかな』と『みぎ』の漢字のことを教えてほしい」と言いました。
男性は、ますます混乱してしまい、「そんな漢字は知らない」と強い口調で突き放すように言いました。少女は諦めたのか、後ろを向いて公園の奥にある遊具へと走り去りました。少女は昔風の顔立ちで無表情でした。その後、友人が到着したので用事をすませ、公園を去ろうとしました。その時に公園内を見渡しましたが、もう誰もいませんでした。
姉によくない物が付いていると言われる
家に着いた男性は、「なにか変なものを連れて帰ってきたね」「変な所に行かなかった?」と姉に言われます。男性の3歳違いで短大生の姉は、幼少期から霊感が強く「見える」「感じる」人でした。男性は、姉や霊を信じないわけではないのですが、霊感が全くないので霊などに興味はありませんでした。
塩を撒きその場は終わる
姉に促されて、男性は玄関の外に出ます。塩を2~3度、姉は男性に振りかけました。「何を連れて帰ったのか」「それは塩で消えたのか」「何が見えたのか」を、男性は姉に尋ねます。姉は、「もう何も感じない」「見えたわけではない」「姉も気分が悪くなるほどに、男性の周りの空気がよどんでいた」「男性の顔が妙に青白かった」と答えました。
男性の心当たりは、公園での出来事しかありませんでした。しかし、少女との会話の内容は意味不明なものでしたが、憑りつかれるような変わったことはしていません。話すと面倒な気がしたので、少女のことは姉に伝えませんでした。
『魚』に『右』のあらすじ②原因不明の咳が続く
数か月後、男性は高校3年生になり受験を控えていました。受験勉強は大変でしたが、特に変わったこともなく、平穏無事な日常を送っていました。しかし、梅雨の季節になった頃、穏やかな生活を送っていた男性の体調に異変が起こります。
原因不明の咳が出はじめる
就寝時に続く咳に男性は悩まされはじめます。寝ようとすると咳が止まらなくなるのです。初めの頃の咳は10分程で治まりました。しかし、1週間後には、1時間くらい咳が止まらない状態にまで悪化してしまいます。呼吸困難になるほど男性は苦しみました。
どの病院でも問題ないと診断される
近隣の病院に行きますが、咳が止まらない原因はわかりませんでした。病院で処方された咳止めの薬を飲んでも、男性の咳は止まりません。総合病院にも行きましたが、原因不明なまま薬も効きません。隣県まで行き、有名な医者にも診てもらいましたが効果はありませんでした。
この頃には、就寝時から朝方まで喘息のような咳が続くようになり、1日1時間ほどしか眠れなないほどに激しさを増していました。昼間にも咳が出始めて1日中咳に悩まされるようになり、1ヶ月たった頃には、男性の声はガラガラに変わってしまいました。食欲がなくなり体重も激減してしまい、受験勉強もままならない体調になってしまいました。