妖怪「百々目鬼」とは?
「百々目鬼(どどめき・とどめき)」とは、女性の姿をした妖怪で、たくさんの目が左腕についています。日本には、『百目鬼』などと書いて『どどめき・どうめき』と読む地名があります。この地名から発想を得て描かれたのではないかと考えられています。
鳥山石燕「今昔画図続百鬼」で描かれた妖怪
鳥山石燕の妖怪画集「今昔画図続百鬼」(1779年に刊行)に百々目鬼は描かれています。読み方は、『どどめき』と書かれていますが、昭和以降の書籍では『とどめき』という読み方も多く使われています。鳥山石燕は、「画図百鬼夜行」などの浮世絵を描いた妖怪画の権威です。後世の絵師が妖怪を描く際の手本にするなど、多くの影響を与えました
百々目鬼の見た目
「今昔画図続百鬼」に描かれている百々目鬼は、女性の姿をしています。しかし、裲襠(うちかけ)や立ち姿から女性だと判断できるだけで、女性の左腕以外の顔や身体は描かれていません。細かな目が表面に幾つもある、左腕だけが描かれています。
「百々目鬼」は何をする妖怪?
最大の特徴は無数の目がある異形の腕ですが、その腕を使ってどんな悪さをするのでしょうか?人々に害を及ぼす危険な妖怪なのでしょうか?危険な妖怪『枕返し』について興味のある方は、こちらもご覧ください。
女スリ師「百々目鬼」
妖怪になる前は人間の女性でした。生まれつき手が長かった女性は、いつも他人の金銭に手を付けてしまう悪い癖がありました。スリを続けた結果、長くて美しかった女性の腕は、皮膚から鳥の目が生じた醜い腕へと変わってしまいます。
盗むたびに目が増える「百々目鬼」
腕についている目の数は、妖怪「百目」のように固定された数ではありません。お金を盗むたびに目が増えていくようになっています。生まれつき、すらりと長い女性の腕に、無数の鳥の目が生じてゆくのです。
夜道で左腕を見せ人を驚かす
妖怪になってしまった後は、異形の左腕を夜道ですれ違う人に見せては怖がらせるようになりました。しかし、驚かせたり怖がらせるだけで、それほど害はありません。鳥山石燕の浮世絵には顔立ちが描かれていませんが、後世の絵師には美人に描かれることが多い妖怪です。
金を盗むと目が増える理由
盗みを重ねるごとに目が増えていく理由や、女スリ師が妖怪になってしまった理由など、当時のお金である銅銭と鳥の目の関係や、お金と窃盗の関係などを含めて、この浮世絵に隠された謎を解き明かします。
その昔銅銭を「鳥目」と呼んだ
江戸時代に使われていた銅銭には、5円玉の様に中心に穴が開いています。この形が鳥の目を連想させることから、当時の人たちは銅銭を、「鳥目(ちょうもく)」とも呼んでいました。現在は、「お鳥目」の形で用いられることが多いです。
お金を盗むと鳥(銭)の精が取りつく
盗んだ銅銭の精(鳥目の精)が、盗癖のある女性の腕に取りついて鳥の目となって現れました。祟りによって銅銭が腕に張り付き、鳥の目に変化したものなので、盗みを重ねるごとに目が増えていくようになっています。
盗みは「足がつく」という洒落
お金は足が生えているように行き来するので、お金を足に例えて「お足」とも呼びます。現在でも「足がでる」など、お金を足に例えた言葉が残っています。犯罪が露見することを「足が付く」とも言います。「足跡から犯人にたどり着く」が語源となって「足が付く」という言葉ができたと言われています。
「足跡の様に、お金が腕に張り付いてしまったスリ師は、盗みの証拠が目立ってしまいスリを続けられなくなった」このような洒落を含んだ妖怪だと考えられます。江戸時代に窃盗で捕まると、死刑もしくは「入れ墨を入れて追放する」という刑罰がありました。人間に捕まらなかった女スリ師は、銅銭の精(鳥目の精)によって罰せられたのです。
百々目鬼は日本古来の妖怪ではない
1779年に描かれた百々目鬼ですが、出典となるような同じ時代の書物は見つかっていません。鳥山石燕の「画図百鬼夜行」に描かれた『女郎蜘蛛』について興味のある方は、こちらもご覧ください。
百々目鬼は鳥山石燕のオリジナル妖怪
「今昔画図続百鬼」に描かれている妖怪は、広く知られている妖怪や中国の妖怪など、ほとんどの妖怪は出典となる書物が存在しています。しかし、百々目鬼は出典となる書物が明確になっていないため、鳥山石燕が作り出した創作妖怪だと考えられています。
説明文中の「函関外史」も鳥山石燕の創作!?
「今昔画図続百鬼」には、『函関外史(かんかんがいし)によると』という説明が書かれていますが、この「函関外史」という書物は現在も確認されていません。あえて文の中に「奇書」という言葉を入れている点も含めると、出典となる書物の「函関外史」も創作だった可能性があります。
鳥山石燕は数々の妖怪を作り出した妖怪クリエーター
鳥山石燕は数々の妖怪を作り出し、後世の人々にも多くの影響を与えています。現代の日本人が妖怪を想像した時、漫画家「水木しげる」の作品に登場する妖怪を思い浮かべる方も多いと思われます。その「水木しげる」も、鳥山石燕などの古典画を参考にして多くの妖怪画を描いています。
百々目鬼が出てくるアニメ
漫画家「水木しげる」の作品である「ゲゲゲの鬼太郎」など、百々目鬼はアニメにも度々登場しています。アニメのキャラクターになった百々目鬼たちは、どんな姿をしているのでしょうか?それぞれの特徴などを紹介します。
百々目鬼が出てくるアニメ①ゲゲゲの鬼太郎
ゲゲゲの鬼太郎の百々目鬼は、普段は人間の姿をしています。妖怪の姿は、カエルの様に裂けた口をしており、たくさんの目が全身についています。盗みをやめられなくなった人間が妖怪になってしまったので、「人間」と「妖怪」両方の姿を持っています。
敵の手下だった百々目鬼は、人間の少女の姿で鬼太郎を油断させる計画を成功させました。しかし、敵だと知っても自分を案じる鬼太郎を見て、人間だった頃の自分を思い出し味方になります。最後は、鬼太郎を庇って敵の攻撃を受けて亡くなってしまいます。
百々目鬼が出てくるアニメ②妖怪ウォッチ
妖怪ウォッチの百々目鬼は、体にたくさんの目がある黒い鬼のような姿をしています。たくさんある目のうち、心臓と繋がった目が1つだけあり、その目を矢で射ることでしか倒すことが出来ません。全身の目からはビームが出ます。劇場版アニメでは、友達妖怪として登場しています。