おそ松さんの派生タグ「妖怪松」にも、百々目鬼がいます。「妖怪松」とは、妖怪の姿をした松野家の六つ子のことです。百々目鬼の姿となったチョロ松の両腕には無数の目玉があり、目玉を隠すためか体中に包帯を巻いています。
百々目鬼に似た「たくさん目がある」妖怪
妖怪の世界には、百々目鬼の他にも「たくさん目がある」妖怪がいます。「たくさん目がある」という共通点があっても、見た目や魅力は全く違っています。そんな「たくさん目がある」妖怪たちを紹介します。
百目鬼(どめき)
百目鬼(どめき・どうめき)は、栃木県宇都宮市塙田(はなわだ)に「百目鬼」という地名があり、この地に残されている伝説に登場する鬼の妖怪です。百々目鬼と名前は似ていますが、女性の妖怪ではありません。この百目鬼の伝承が百々目鬼の元になったという説もあります。
「百目鬼」という地には、いくつかの伝説が伝えられていますが、その全てに鬼が登場します。現在は「百目鬼通り」という小路の名などに「百目鬼」という呼び名が残されています。伝統工芸の、ふくべ細工で作られる鬼のお面(かんぴょう面)は、兎田の百目鬼退治にちなんで、魔除け面として作られるようになりました。
兎田の百目鬼
兎田の百目鬼は、刃のような毛と百の目を持った、十丈はあろうかという大きさの鬼です。藤原秀郷(ふじわらのひでさと)が弓を射って退治しますが、矢を受けて去った百目鬼は毒気と炎を放ち続け、僧の法力によって成仏するまで人々を困らせました。
目目連(もくもくれん)
1781年に刊行された「今昔百鬼拾遺」に妖怪「目目連(もくもくれん)」は登場します。百々目鬼と同じく鳥山石燕によって描かれました。荒れ果てた家の障子に無数の目が浮かび上がった姿の妖怪で、解説文によると『囲碁棋士の念が碁盤に注がれ、さらに家全体に現れたもの』とされています。
山田野理夫の著書「東北怪談の旅」「障子の目」では、『津軽へ材木を買いに行った江戸の商人が、宿代を惜しんで空き家に泊まったところ、障子に無数の目が現れました。しかし、商人は恐れるどころか、障子の目を集めて江戸へ持ち帰り、眼科医に売り飛ばした。』という話があります。
百々目鬼とは違い目が一つしかない妖怪
妖怪の世界には、「目に特徴がある」妖怪がたくさんいます。目が一つしかない妖怪や、顔ではなく手のひらに目がついている不思議な妖怪など、その見た目や魅力は様々です。そんな「目に特徴がある」妖怪たちを紹介します。
一つ目小僧
妖怪「一つ目小僧(ひとつめこぞう)」は、額の真ん中に目が一つだけある坊主頭の子供の姿をしています。突然現れて驚かすだけで、特に危害を加えるようなことはありません。比較的無害な妖怪なので、かわいらしい、もしくはユーモラスなデザインで描かれることが多いです。
一つ目小僧は単眼症の子どもだった?
先天的な奇形に単眼症と呼ばれるものがあります。母胎のビタミンAの欠損などが原因で、大脳が左右に分離できず一つの塊のままになってしまい、これに伴い眼球も1つとなります。ほとんどは胎内もしくは生まれてまもなく死亡してしまいます。
食肉文化の少なかった頃の日本ではビタミンAの不足は珍しいことではなかったのかもしれません。一つ目小僧が小坊主の服を着た子供の姿であることから、単眼で生まれた赤子をこう呼んだものが始まりとも考えられています。
一つ目入道
妖怪「一つ目入道 (ひとつめにゅうどう)」は、目が一つしかなく大入道の姿をしています。日本各地の伝説や民話などで名前が見られる妖怪で、京都では狐が化けたものとされています。江戸時代の怪談「稲生物怪録」にも一つ目入道が登場しますが、これはタヌキが化けたものとされています。
和歌山県日高郡には、『立派な行列に出くわした若者は、木の上に登って行列見物をしていました。木の根元で止まった行列の大きな駕籠から現れたのは、身長約1丈の一つ目の大男でした。一つ目の大男は木に登って若者を襲おうとしました。若者が大男の頭を刀で斬りつけると、大男は行列もろとも消えてしまいました。』という妖怪譚があります。
手の目
手の目(てのめ)は、1776年に刊行された「画図百鬼夜行」に登場する妖怪です。百々目鬼と同じく鳥山石燕によって描かれました。両目が顔ではなく両手のひらに一つずつついている座頭姿の妖怪で、解説文がないために詳細は不明となっています。
江戸時代の怪談集「諸国百物語」の『ばけ物に骨をぬかれし人の事』という話の挿絵には、両手に目のついている妖怪の姿が描かれており、鳥山石燕が「手の目」のモデルにしたのではないかと考えられています。
百々目鬼に似ている外国の妖怪(怪物)
外国にも百々目鬼に似た、目に関する妖怪や怪物、巨人などがいます。それぞれの国や地域で、どんな話が伝えられているのでしょうか?日本の妖怪とは違った魅力を持つ、外国の妖怪たちを紹介します。
一目五先生(中国)
一目五先生(いちもくごせんせい)とは、浙江にいる五匹で行動する妖怪です。目を持っているのは「一目先生」と呼ばれる一匹だけで、目は一つしかありません。ほかの四匹は目が見えないので、いつも「一目先生」の後をついて歩き、「一目先生」の号令に従って行動します。五匹はつねに傍を歩き、人の言葉を喋ります。
一目五先生は疫病の流行する年に現れ、人が寝入ると鼻で臭いを嗅ぎます。臭いを嗅がれた人は病気にかかり、嗅ぐ妖怪の数が増えるほど病気が重くなります。五匹全部に臭いを嗅がれた人は死んでしまいます。善いことも悪いこともしない、福も禄もない人間を選んで臭いを嗅ぎます。
太歳(中国)
太歳(たいすい)とは、赤い菌のような肉の塊に数千の目がついている、地中に棲む怪物です。。木星(太歳星)の運行に合わせて地中を移動しています。土木工事などで掘り出してしまった場合は、すぐに土木工事を中断して元の場所に埋め戻さないと、周辺の人々は祟られて死に絶えてしまいます。
アルゴス(ギリシャ神話)
アルゴスとは、ギリシャ神話に登場する全身に100の目をもつ巨人です。全身の目は交代で眠るため、アルゴス自身は常に目覚めているので、時間的にも空間的にも死角がありません。神々の命を受け、上半身が人間で下半身が蛇の姿をした怪物や、雄牛の怪物を退治するなど多くの手柄をあげました。
アルゴスの死後、ゼウスの正妻ヘーラーはアルゴスを悼んで(もしくは罰の一環として)、ヘーラーの飼っているクジャクの尾羽根にアルゴスの目を飾りました。それ以来、クジャクは尾羽根に百の目を持っているという説があります。
日本の妖怪って面白い!
洒落のきいた設定や美醜のバランスが魅力的な妖怪「百々目鬼」は、夜に人を驚かせたり怖がらせたりする、ちょっと手癖の悪い妖怪です。腕はおぞましいですが、顔は美人かもしれません。紹介した妖怪「百々目鬼」の他にも、素敵な妖怪が日本にはたくさんいます。
魅力的な妖怪「百々目鬼」を描いた天才浮世絵師「鳥山石燕」は、「百々目鬼」「目目連」「手の目」だけではなく、様々な妖怪を作り出しました。鳥山石燕の作り出した妖怪たちは、時代が変わった今でも、私たちを楽しませてくれています。