西口彰事件は、西口の異常さ、軽薄さ、その人物像が意外性に満ちていたことから、多くのメディア化が為されました。ここではその中から2作品をご紹介します。どちらも読者や視聴者の反響、評価ともに大きく、作家や役者の力量もさることながら、この事件の魅力の高さが伺えました。
西口彰が題材の作品①小説「復讐するは我にあり」
この事件を題材として1976年、左木隆三というノンフィクション作家が「復讐するは我にあり」というタイトルで小説を発行しました。内容は、西口の名前が変更された以外はほぼ事実に沿って描かれています。ただ、左木は西口を肯定も否定もしないというスタンスで作品を書き切りました。
この小説は第74回直木賞を受賞。ドラマ化、映画化もされています。映画の方も、数々の映画賞を総なめにしました。「復讐するは我にあり」というタイトルは新約聖書から取られた言葉で、「悪人に罰を与えるのはただ神のみである」という意味を持っています。
西口彰が題材の作品②テレビドラマ。陣内智則主演
2014年、フジテレビ系列のドキュメンタリードラマ「東京オリンピックと世紀の大犯罪」において、お笑いタレントの陣内智則が西口を演じ、事件がドラマ化されました。ドキュメンタリー作品、しかも犯罪者を演じるのが初めてだった陣内は、当時以下のように話しています。
「劇中の指名手配用の写真を撮ったときに、我ながらちょっと似ているのでは? と思いました(苦笑)。彼は言葉巧みに人をだますので、とても頭が切れたんだろうと思いますね。その才能が殺人に向いてしまったのは非常に残念」(出典:シネマトゥデイ)
ドラマ内では服装や髪形、西口が実際に読んでいた本などを用いて事件を再現し、そのクオリティの高さは好評を得ました。実際、西口の写真とドラマでの陣内氏の写真を身比べると、表情や容貌などがかなり寄せられていることが伺えます。
他にもメディア化された犯罪事件は沢山!
西口彰事件以外にも、犯罪がメディア化された例は多くあります。その中から、ふたつの映画作品をご紹介したいと思います。グロテスクな表現もありながらその内容は我々に強く訴えかけるものがあり、一度はご覧いただきたい作品ばかりです。
埼玉愛犬家殺人事件を描いた「冷たい熱帯魚」
上記でもご紹介した埼玉愛犬家殺人事件。こちらは2010年、園子音が監督となり映画化されました。タイトルは「冷たい熱帯魚」で、小さな熱帯魚店を営むオーナーが、人気熱帯魚店のオーナーと知り合い犯罪に巻き込まれていくストーリーです。
実際の犯人、関根は高級ペットショップの経営者でしたが、そこが熱帯魚店に変更されているだけで、ストーリーは基本的に事実を元に構成されています。人間関係や経緯に少しの違いがあり、ラストは映画オリジナルになっていますが、小さな店のオーナーが巻き込まれ共犯にされるというのも実際にあったことでした。
地下鉄サリン事件をモチーフとした「Distance」
誰もが知っている史上最悪のテロ事件、地下鉄サリン事件。本作はこちらをモチーフとした映画です。巣鴨子供置き去り事件を描いた柳楽優弥主演作「誰も知らない」や、「海街ダイアリー」などを手掛けた是枝裕和が監督、2001年に公開されています。
無差別殺人事件を起こしたカルト教団の加害者家族を描いた作品で、地下鉄サリン事件に直接関係のある描写は登場しませんが、誰しもがオウム真理教を想起するでしょう。4人の加害者家族、そして1人の元信者がひとつのロッジで一夜を明かすこととなり、そこで彼らの心情が繊細に表現されています。
俳優陣の高い演技力にも引き込まれる
被害者のみでなく加害者家族の苦しみ、その後の生き方について淡々と語られ、考えさせられるストーリーとなっています。ARATAをはじめ、伊勢谷友介、寺島進、浅野忠信など、そうそうたる俳優陣による奥深い演技も見どころのひとつです。
西口彰は凶悪殺人犯でありながら、人の役に立とうとする一面もあった
西口彰事件、これ自体は非常に凶悪なものでしたが、その犯人である西口は非常に人間味があり、自分以外の人間を心配し、役にも立とうとする優しさを持った人物でもありました。エピソードを聞けば聞くほど、彼が罪さえ犯していなければ、人のためにも生きられる人間になれたのではないかと推察されます。
犯罪に手を染めてしまったばかりに彼の長所が霞んでしまっていることを、彼を知る人々はやるせなく感じたのではないでしょうか。人間が自らの弱さに屈せずその魅力を輝かせていけるように、そして犯罪がひとつでも減るように、この事件がきっかけになればと祈るばかりです。
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