なお下記の記事にも、鳥山石燕らが描いた江戸時代の妖怪の記事があります。
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藤沢衛彦の著書『妖怪画談全集日本篇上』で紹介されている
この妖怪に関する逸話が、民俗学者・藤沢衛彦氏の著書である妖怪画談全集(日本編/上)で紹介されています。場所は現在の新潟県と福島県の県境にあたるところです。
牛鬼に伴われ出没したものと違い、こちらは赤子を使って人間をだますことはしません。そして物語の舞台は海ではなく、とある川になります。
髪を洗っている女性を目撃する
昔、材木を取りにいくため若者たちが、川にいくつかの船を渡らせていました。ふと、はずみで一艘の船が流れから外れてしまいます。
はぐれてしまった船の者が戻ろうとあわてていると、岸辺に髪を洗う女の姿を見つけました。こんなところで?としばらくは訝しい気持ちで見つめていましたが、やがてあることに気づき、大きく叫びだしました。
制止も聞かず濡れ女の元に仲間が向かう
わぁわぁと叫びながら戻ってきた船に、仲間たちが蛇でも出たかとからかうと、はぐれた者たちは「濡れ女が出た!」と恐怖におののきながら訴えました。
ですが誰も「馬鹿なことを」と信じず、制止するのもふりきって女のいた方向にどんどん進んでしまいます。一方、残された者たちは「濡れ女から逃げなくては」と引き返すことに決めました。
仲間は帰ってくることはなかった
互いの姿が見えないほど遠くなった頃、先に進んだ船の方から絶叫が聞こえ始めます。とても助けになど向えず、あとの者はただ必死に船を漕いで逃げ出しました。
濡れ女の尻尾は三町(約327m)先まで届くほど大きく、一度目を付けられると逃げきることはできないとされています。こうした長い尾を持つことから蛇体であると考えられてきました。
濡れ女はアニメや漫画にも登場している
今は妖怪好きかオカルトマニアでなければなかなか認知されていないものの、実は漫画やアニメに登場したこともあるこの怪異。それどころか、某有名芸能人が主演のヒット映画にまで登場していた?!
意識して見ていないと気づかないものでしょうが、ぜひ今一度振り返って楽しんでみましょう。
濡れ女が登場するアニメ・漫画①地獄先生ぬ~べ~
90年代っ子なら一度は読んだことがあるであろう、大人気妖怪コミック・地獄先生ぬーべー。メジャーからマイナーまであらゆる妖怪が登場しますが、ある回では人間に憑りつく濡れ女子という妖怪が現れます。つま先から髪の毛まで全身濡れそぼっているためよく濡れ女と間違われるのですが、蛇も赤子も関係なく人も食べない、実は別種の妖怪です。
濡れ女が登場するアニメ・漫画②ゲゲゲの鬼太郎
妖怪アニメの王道といえばゲゲゲの鬼太郎でしょう。放送回数が抜群に多いため複数回登場しています。第3期放送6話と第6期放送7話では、どちらも幽霊列車ににぎやかし役として乗っていました。
また温泉回でサービスシーン?!を見せ、ウエンツ瑛士主演の実写版にも美女として登場しています。鳥取県の水木しげるロードにも銅像がありますよ。
濡れ女のように水辺に現れる妖怪
海、川、池、時に風呂場や便所にも、水場には怪奇怪談が多く集まるものです。ここからは、水辺を住処とする妖怪たちを紹介していきます。
水の怪異、と言われて即座にこれらが浮かんだのであれば、あなたは立派な妖怪マスターです。
水辺に現れる妖怪①牛鬼
西日本を中心に広く分布する妖怪であり、四国地方や近畿には、伝承からとって「牛鬼」と名付けられた滝や淵が存在しています。詳しくは以下の記事からどうぞ。
水辺に現れる妖怪②河童
日本妖怪の代表キャラクターを担う、河童です。川で暮らしていることで有名ですね。岩手県遠野市にはカッパ淵という、カッパ伝承が残る清水の美しい沢もあります。カエルのようにいつもしっとり濡れていて、頭のお皿が乾くと力が抜けてしまいます。人間と相撲したりと愛嬌がありますが、尻子玉(命)を抜こうとするおそろしい一面もあります。
水辺に現れる妖怪③七人ミサキ
四国地方を中心に伝わる七人ミサキ、その名は一体の妖怪を指すのではなく、複数の幽霊で構成された怪異の集団を指します。海で亡くなった亡霊たちは水辺に現れ、遭遇してしまったものに死をもたらすと言われています。そうして一人憑り殺すたび、一人の亡霊が成仏し、入れ替わる構造になっています。だから彼らはずっと「七人」のままなのです。
水と女性の関わり
濡れ女だけでなく、磯女、濡れ女子、ローレライ、マーメイド…。国境を選ばず、水辺には女性の怪異が多いものです。
女性に秘められた神秘性、出産や月経など、自然のリズムに大きく左右される機能、人に恵みと豊かさをもたらすイメージからくるものでしょう。そしてそれは水の性質とさくさんの共通点を持っています。
生命を生み育む
女性という性別の最大の特徴は、妊娠そして出産です。新たなる生命を育み、生み出すことのできる存在。水もまた古来より生命の源であり、命を繋ぐ重要なものであるとされています。
水を連想させる怪異が「母」の性質を持つのも、羊水や母乳を含め、水の連想からくるものでしょう。また清らかなイメージから、若い女性であることがほとんどです。
両者の持つ二面性に共通点がある
水のもたらすものは良いことだけではありません。たとえば豪雨や鉄砲水で、人の生活を一瞬にして破壊しつくす激しさも持ち合わせています。
女性もまた同じで、豊かで美しい反面、怒りや恨みを抱いた時の恐ろしさ、苛烈さは凄まじいものです。その極端なまでの二面性は、まさに怪異にふさわしい特徴といえます。
蛇は水をつかさどる生物
また、水と蛇との関わりです。蛇は世界各地で豊穣の象徴として信仰されてきました。人々は脱皮を循環するエネルギー、再生、生命と考え、またうねる姿を川や水の流れそのものと重ねてきました。
蛇は陸生生物でありながら泳ぎ、また海には海へびがいることもあって、水の怪異と強く関連づけられることになったのです。
他にもあった!日本の蛇妖怪エピソード
ここからは蛇のビジュアルを持つ妖怪たちに着目していきましょう。一覧してみるとやはり水・女性・母性といった特徴が目立ちます。妖怪といっても決しておそろしいだけではない、中には人間に深い愛情を示してくれる怪異も。半人半妖ばかりでなく、いろいろな外見的特徴を持っている点にも注目です。
蛇帯
蛇帯と書いてじゃたいと読みます。これは帯に宿った女性の嫉妬心が転じたもので、中国からの伝承がルーツとされています。
嫉妬の対象となった男性を絞め殺そうとする、女の狂おしい心そのものから生まれた怪異です。この帯を枕にして眠ると夢に蛇が出てくるといいます。
波蛇
龍であるとも言われる妖怪・波蛇。その正体は荒れ狂う波そのものです。人の恨みつらみをきっかけに生まれたものでなく、自然現象から生まれる絶大なエネルギーが生命を持ち、怪異となりました。
突如現れ大波で船を沈めてしまうとされていますが、それは人間に悪意を持っているからでなく、ただそういう現象であるというだけなのです。
蛇女房
昔、そうとは知らず化け蛇と夫婦になった男がいました。子が生まれた後に正体がばれ、蛇は家を去るものの、子は母を恋しがって泣き続けます。
困った男が蛇の住処を尋ねると、妻はこれを与えてくださいと自分の目玉をくりぬいて渡しました。子は母の気配に喜んで泣き止みます。夫は妻に感謝し、方角と時が分かるようにと寺に鐘を奉納しました。
手負蛇
自分を傷つけた者を決して許さず、どこまでも追い続けるという怪異、手負蛇。ですが執念深い反面、子供の悪意なき所業は許すなど広い心の持ち主でもあります。
ただその場合も腹は立つのか、近くで見ていた大人を「なぜお前が止めなかったのだ!」と八つ当たり的に恨むことがあるそうです。情が深くてどこか人間臭いところが魅力の妖怪です。
水辺で女性を見かけたらそれは濡れ女かも
もしあなたが水辺の近くで女性を、濡れた髪をはりつかせてもの言いたげに佇む美しい女性を見かけたら、正体は濡れ女かもしれません。赤ちゃんを抱かせてこようとしたらさらに要注意です。
もしそうなった時、どういう対処をすべきかちゃんと覚えましたか?…充分に警戒しておきましょう。妖怪なんていないと言い切るにはこの世の影は広すぎます。
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