8050問題とは?今現代社会が直面している社会問題の原因と対策

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男性は長い年月の間、ひきこもって母親の収入で生活していました。しかもほとんど会話をせずに暮らしていたせいか、しゃべるのが不自由になっていて、警察の取り調べには筆談で対応したそうです。

8050問題の実例③「北海道で親子が孤独死しているところを発見」

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2019年1月のはじめ、札幌市のアパートの一室で、82歳の母親と52歳の娘が同時に孤立死しているのが発見されました。検針に来たガス業者が異変に気付いたのです。2018年の年末ごろ、まず母親が、次に娘が飢えと寒さによって亡くなったと推定されています。

娘の方は若い頃短期間働いていたものの対人関係が理由で退職、その後はひきこもり状態を続けていました。親子の収入は母親の年金だけで、発見されたときには冷蔵庫は空だったものの、当座の食費にすることも可能な9万円が手付かずのままで残されていました。知人が生活保護を受けることをすすめたのですが、母親はかたくなに拒んだそうです。

「8050問題」が起こりうる要素は今も深刻化している

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「8050問題」はとても深刻な問題です。年老いた親とひきこもりの子が生活している家庭は、周囲から孤立する傾向が強く、問題が明らかになったときには手遅れだったりします。しかもこのような家庭は今後増加する可能性があることが、政府の人口統計などからも予測されています。

若者の引きこもり数は年々増加傾向にある

15歳から39歳までの若年無業者(ひきこもりとその予備軍)の数は、2017年には71万人です。2000年からの推移を見るとやや減少傾向にあるのは少子化の影響によるもので、割合で比較してみると、2000年の1.3%に対して2017年には2.1%を占めていて、実際は逆に増加傾向にあることがわかります。

高齢化によって高齢者人口も急増している

高齢化が進んでいるといわれる現在の日本ですが、このグラフはそのことをはっきりと示しています。1950年には411万人、全人口の4.9%であった65歳以上の高齢者の人口は、2020年には3619万人、全人口の28.9%を占めるようになり、さらに増加を続けると予測されています。

人間関係が苦手という人も増加!引きこもりのきっかけに?

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現代社会では友人・知人に頼らなくても日常生活を営めるシステムができあがりつつあります。そのためコミュニケーションがある種のぜいたく品になって、とにかく楽しくないとダメだという意識が強くなり、反動で対人関係が苦手な人も増加の傾向にあります。

現在はひきこもりでない、これらコミュニケーションが苦手なだけの人たちが、ちょっとしたきっかけで自分の属している集団から切り離されてしまうと、新しい仲間を見つける代わりに、突然ひきこもり生活を送るようになっても不思議ではありません。

「8050問題」を加速させているのは現代社会?その原因や特徴とは

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ひきこもりが増えたのは、生活が便利になったおかげともいえます。インターネット、スマートフォン、コンビニエンスストア、宅配などを利用すれば、家族や隣近所と助け合ったりしなくても、日々の生活を営めるからです。昔ながらの濃密なコミュニケーションは、現代生活には必要ありません。

通信や交通網の発達による「多様性化」が原因?

通信や交通網の発達により、昔なら一生知ることのなかった新しい考え方や価値観に、たやすく接触することが可能です。このことは従来では考えられないほど広い視野を持つ人間を作り上げるために大きな役割を果たします。

しかしそのことが、身近な生活の知恵を積み重ねてできている、その地方の貴重で伝統的な習慣を無視する傾向を作り出し、周囲の人々との関係をかえって希薄にする傾向も生み出していることも、否定できません。

メディアの急速な発達!人間関係が希薄に?

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インターネットの普及で、たとえ地球の反対側からでも、見知らない人とでも、会話を交わせる時代になりました。しかしそのことが逆に、特に若者の間で、大昔から続く顔を突き合わせてのコミュニケーションを苦手とする結果になっています。ポケベルを使ってコミュニケーションを取っていた、現在の中年以上の世代でも同じです。

「8050問題」に対する支援や対策について紹介

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世の中が、この「8050問題」に関して全く無策というわけではありません。ここでは政府や自治体や民間組織が行っている8050問題対策や当事者と家族に対する支援について、内容を簡単に紹介します。

8050問題に対する政府の対策「ひきこもり対策事業」

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政府の対策は「ひきこもり地域センターの支援事業を行うこと」と「ひきこもり当事者や家族へのきめ細かい対応を専門とする人材の養成や研修を行うと共に、自治体が実施する関連事業をサポートすること」の2つの柱で成り立っています。

前者の「ひきこもり地域センター」は、ひきこもり問題に特化した専門の組織です。ひきこもり状態の本人やその家族が必要なサポートを受けるための相談窓口の役割を果たしていて、各都道府県と政令指定都市に設置されています。

自治体や民間も乗り出した8050問題の対策

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自治体や民間の組織でも、8050問題の当事者や関係者に対するサポートを行うところが増えてきています。たとえば岡山県総社市では、他の市町村に先駆けて専門の「ひきこもり支援センター(愛称:ワンタッチ)」を設置して、当事者やその家族にきめこまかいサポートを展開しています。

「ワンタッチ」では、ひきこもりの当事者の相談にのったりきめ細かで長期に渡るサポートをしています。それだけでなく、本人を支える家族にも皆で集まる場が必要であるという声があがり、2018年8月に「ひきこもり家族会」が発足したことも、総社市のシステムの成果のひとつといえます。

個人でできる8050問題対策?「引きこもりも家庭でできる対策」

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現在はインターネットの時代です。ひきこもってしまったからといって、社会との接点や生計を立てる手段を100%失ってしまうとは限りません。当事者にパソコンを操作する技術がある場合には、たとえばインターネット上の職業紹介サイトを通じて在宅ワークの仕事を受注し、ひきこもり状態のままで生計を立てることも、ある程度まで可能です。

「8050問題」と年金

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「8050問題」は年金と切っても切れない関係にあります。「8050問題」の当事者が収入源として頼っているのは親の年金だからです。また親が亡くなった後、残された子が新しい収入源として頼らないといけないのは、自分自身の年金です。

生活に不十分な子世代の年金額

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少子高齢化のおかげで、年金には世代間でかなりの差があります。現在の高齢者の年金は、息子(娘)ひとりを養うことがかろうじて可能な金額ですが、子ども世代の年金は、自分だけがかろうじて生活できるだけの金額しか支給されないでしょう。年齢が若ければ若いほど、年金の面では損をすると、いわれています。

引きこもりには特に厳しい年金事情

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しかもひきこもりを続けていて働いた経験がない場合、年金保険料を真面目に払い続けたとしても、支給されるのは満額で年間780,100円(2019年の場合)しかない老齢基礎年金だけです。月額に換算すると65,008円なので、とてもそれだけで生活できる金額ではありません。

幸いに会社に勤務した経験があって、厚生年金を受ける資格があった場合でも、40歳以前に退職してひきこもったとしたら、得られる年金の金額は、定年まで勤め上げた人に比べてはるかに少ないです。そのためひきこもりの当事者が老後の生活資金を得るためには、何かの工夫が必要でしょう。

事前対策?「8050問題」にならないように親が気をつけるべきこととは

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8050問題で親子が深刻な状況に陥らないためには、子が一定の収入を得て、それなりに自立した生活できるようにすることです。子のための老齢基礎年金は生活に十分な額ではないかもしれませんが、それでも満期まで掛け続けることをすすめます。その上で次の手として、以下のことを考えてみましょう。

資産整理は生前に行う

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8050問題で最大のポイントとなるのは、親が亡くなってしまった後、ひとり残されたひきこもりの子がどのように生計を立てて行ったらよいか、ということです。そのためにも親は生前に資産の整理を行って、自分の死後子がひとりで生活をすることが可能なめどを、あらかじめ立てておくと、親も多少は気が楽になるはずです。

最終的には心を鬼にすることも必要

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ひきこもりの原因にはいろいろあるので、決して無理するべきはありません。しかし親が世を去った後、残された子がひとりで生活ができずに、兄弟や姉妹などのお荷物になってしまう可能性も考えてみるべきです。

いちど心を鬼にして子を追い出し、ひとり暮らしを半強制的に送らせてみることも良いでしょう。子は成長したら親元から独立するのが当然という考えが広まっているアメリカでは、35歳になっても実家を出ようとしない息子を追い出すため、両親が裁判を起こした事例があるほどです。

収入だけでは解決しない「8050問題」

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ここまでひきこもっている人がひとりになったとしても、それなりの生活を営むことができるように、金銭の面からの対策を考えてきました。しかしひきこもり当事者が社会から孤立したままで生活しないで済むためには、別の方面からの対策も必要です。

それは、社会の一員としての「居場所づくり」です。ひきこもり当事者が自分の部屋を出て、再び社会の一員として活動するためには、同じような経験のある仲間と気がねなく語り合える場所や、無償ボランティアであっても「世の中の役に立つ」経験を積み重ねる場所が必要です。

他人事ではない社会問題「8050問題」の現実

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「8050問題」は、元気に働いている人にとって「ひとごと」かもしれません。しかしあなたの息子さんや娘さん、あるいはあなた自身が40〜50代で突然職場を解雇され、親元へ帰らないと生活できない状況になったとすると、8050問題が突然自分自身の現実になるのです。この年代では、次の仕事を得ることも容易ではありません。

「50代で無職」という状況は、誇るべき状況ではありません。しかし卑下しなくてはならない状態でもありません。ひきこもり当事者とその親をどのような形でサポートすればよいのか、そしてひきこもり当事者がどのような方法で生計を立てたらよいかを、この記事を読んで考えていただければ幸いです。

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