引きこもりの高齢化?深刻な「8050問題」とは
近ごろ「8050問題(はちまるごーまるもんだい)」という言葉を聞くようになりました。若いころからひきこもっていた子とその親の両方が高齢化した場合、あるいはそれまで順調に社会生活を営んでいた息子や娘が、中年になって突然職場を首になるなどの理由で家に閉じこもってしまう状態のことをいいます。
いずれの場合も、子の側には収入を得る方法が全くないため、ほとんどの場合、高齢になった親の年金だけが頼りの生活になるのが普通です。しかも親がまだ元気で、子の側も人生の再スタートを切るチャンスが残っている若い世代のひきこもり問題に比べて、親子の両方が社会との接点を失って孤立してしまう傾向もあるので、問題はより深刻です。
「8050問題」が起こりうる原因・きっかけとは?
- 出典:PhotoAC
そもそも「8050問題」はどのようなきっかけで起こるのでしょうか?子どもの「ひきこもり」とはどのような違いがあるのでしょうか?子がひきこもり生活を若いころからずるずると続けている他に、どのような理由が考えられるでしょうか?ここではいくつかのきっかけを、簡単に説明します。
8050問題は「子供の引きこもり」が原因で起こる?
- 出典:PhotoAC
子どもの「ひきこもり」問題は以前から知られており、さまざまな対策も試みられていました。しかしこれまで「ひきこもり」は若い人の問題とみなされており、それらの対策もせいぜい30代までの人を対象にしたものに過ぎなかったのです。
子どもも年を取ると中年の大人になるし、そのとき親は「高齢者」と呼ばれる世代に突入します。この年代まで問題が長引いたケースの多くは、事態がこじれて深刻になっていて、解決するのが大変です。
社会からのストレスで引きこもりとなったケースも?
- mohamed_hassan / Pixabay
それまで順調に年月を重ね、ごく社会で働いていた人が、突然ひきこもりになってしまうことがあります。そのほとんどは対人関係のストレスが原因です。社会にはさまざまなハラスメントが満ちあふれています。親自身が「毒親」として「搾取子」を作り上げてしまう可能性もあります。その一例として「巣鴨子供置き去り事件」を紹介します。
息子や娘が突然リストラの対象になって、職場を辞めざるを得なくなる可能性もあります。早期退職の募集に応じたのは良いが、次の働き口が見つからないという場合もあり得ます。日本の社会では、どこかに所属していることで安定した対人関係を営むことができるのが常なので、突然そこから断ち切られてしまうと、社会的に孤立してしまいます。
精神疾患や障害がきっかけとなる場合もある?
- 出典:PhotoAC
いわゆるブラック企業に就職したり、リストラ要員として激しい肩たたきにあって職場を辞めた人は、多くの場合心がひどく傷ついています。ときにはうつ病などの精神疾患を発症してしまうこともあるほどです。また特別な理由がなく仕事を辞めた人の中にも、何かも精神疾患を発症している人もいるかもしれません。
精神疾患を発症した場合、ひきこもりの状況はより深刻だとみなせます。このようなケースでは再就職などを通じて再び社会とつながりを持つ前に、精神科や心療内科を受診して、適切な治療を受ける必要があります。
「8050問題」の問題点とは?解決できない理由とは一体
- 出典:PhotoAC
なぜ高齢者の親と中年の無職の子がずるずると同居を続ける「8050問題」が、深刻な社会問題のひとつとして取り上げられるのでしょうか。それは子の多くが「ひきこもり」状態にあり、また親が高齢になると、親自身も世話が必要な状態になるからです。
家族で解決策を見出せない状況に陥る8050問題
- 出典:PhotoAC
一度ひきこもりになってしまうと、新しい社会との接点を得て再スタートを切ることが難しくなる傾向があります。ひきこもりの当事者は多かれ少なかれデリケートな性格で、しかも外の世界でいじめなどむごい経験をして、しばしば心が深く傷ついています。人によってはうつ病などの精神疾患を発症してしまっているかもしれません。
そのため家族がさまざまな手段で圧力をかけて、外の世界に出ていってもらおうとしても、多くの場合、本人は他人からいじめられない自分の唯一の場所(自室など)にしがみついてしまい、時間だけがむなしく経過する、といった事態がしばしば起こります。
さらに親が高齢化した時に圧し掛かる数々の問題
- 出典:PhotoAC
しかも時間がさらに経過して、親が80代で子どもが50代といった時期になると、問題はさらに深刻です。高齢化した親世代の収入は、わずかな年金だけが頼りです。しかも親世代が亡くなったら、子どもには生計を立てるための方策がほとんど残されていません。就職はますますむずかしくなります。
しかも親世代が80代になって高齢化すると、親自身が介護が必要になって子どもの面倒を見ることがむずかしくなります。その一方で、子どもだけでなく親の方も社会との接点を失い、一家全体が孤立して、問題が深刻になっていることに周囲が気づきにくい状況も、しばしば生まれてしまいます。
「8050問題」による悲惨な実例について
- 出典:PhotoAC
「8050問題」は、ときとして悲惨な事件を生み出します。あまりにも密接な関係にある高齢期の親と中年の子どもが、周囲から孤立した状態で暮らしている結果です。双方の生活能力が徐々に失われて行ったり、一方の精神が極度に不安定になったりした場合でも、助けてくれる人はだれもいません。
8050問題の実例①「引きこもりの子供が親を殺害」
- PublicDomainPictures / Pixabay
2018年5月、東京都に住む55歳の男性が、「父親を刺した」と119番しました。パトカーや救急車などが向かうと、87歳の父親が首などに数カ所、刃物で刺された傷を負って倒れていて、男性はその場で殺人未遂の現行犯として逮捕されました。父親は後に死亡が確認されました。死因は刃物で全身を刺されたことで多量に出血したためです。
8050問題の実例②「同居していた親の死体を放置した子供」
- volfdrag / Pixabay
2018年11月、横浜市で49歳の無職の男性が警察に逮捕されました。同居していた76歳の母親が亡くなったのに、遺体をそのまま自宅に放置していたためです。男性は台所で倒れた母親を布団の上に運んだままにして「うめき声が聞こえなくなり亡くなったのを知ったが、どうすることもできなかった」と説明しました。