ルンペンの意味とは?語源は?
「ルンペン」という言葉を聞いたことはありますか?耳にすることは近年ではすっかりなくなりました。若い人は意味すら知らない人がほとんどですが、全国放送ドラマで久々に聞いたことで話題を呼びました。
ではまず、まったく知らない人のために、ルンペンとはどういう意味を持つのか説明しましょう。
ルンペンはドイツ語で日本では「浮浪者」の意味で使用
本来は「Lumpen」、ドイツ語で「ぼろ着をまとう者」を意味します。定職や収入を持たない、いわゆる浮浪者のことです。
昭和8年連載の下村千秋の新聞小説をきっかけに一般に広く浸透しはじめました。乞食(物乞いなどで収入を得る者)やホームレス(家はないが資産がある者)とは違いますが、厳密な区別をされることはありません。
マルクスの用語「ルンペンプロレタリアート」の略
そもそもドイツ語の方も略語であり、語源は「ルンペン・プロレタリアート」。資本主義社会において労働階級層に位置しますが、本人たちに自覚意識はなく、階級闘争に意欲のない極貧層のことです。
社会保障が手厚くなった現代では極めて少なくなりましたが、依然として確実に存在する、社会からはじき出されてしまった人々を指します。
ルンペンプロレタリアートの職業
また上記の定義を作った哲学者マルクスは、彼いわく「落ちぶれた放蕩者」の他にも、サギ師、露店の商売人、博打うち、乞食などをルンペンとして扱いました。
中には文士や鋏とぎ、占い師などもいました。マルクスの考えでは、ふらふら浮草じみた生業を持つものはみな信用ならない社会の落ちこぼれだったのです。
ルンペンが朝ドラの『まんぷく』で使われていた!
平成30年のNHK連続テレビ小説は、女優・安藤サクラを主演とし、日清食品の創業者夫婦の半生を描いた『まんぷく』でした。全国放送ということもあって知名度の高い作品ですが、作中で「ルンペン」という台詞が出たことで話題を呼びました。
なぜなら、現代の放送業界においてこの単語はタブーとみなされているからです。
本来ルンペンは差別用語で放送禁止用語
現代において「ルンペン」呼ばわりは差別とみなされ、放送禁止用語として自粛されています。ホームレス・乞食・物乞い・おもらいさんなども同様です。
使用したからといって法的な罰則があるわけではありませんが、視聴者に対する配慮として各メディアごとにルールを設けています。慎重に言葉を扱うNHKでこの規制を外すのは異例のことでした。
ドラマの時代背景に合わせてルンペンという言葉を使用
ドラマの時代設定は昭和13年~昭和45年ほどまでの期間を舞台としています。この時代ではルンペンという言葉はごく極一般的で、そういった考証を守るためあえて台詞に使ったといいます。ぎりぎりまでドラマの品質を重視したいというNHKの思い切った決断でした。
なお同時代に起きた事件の特集が、次の記事に掲載されています。
ルンペンは死語なの?
しかし、なぜ耳にする機会がなくなったのでしょう?テレビで自粛しているから?一般的にはもう使われないの?使ったらどんな風に思われるの?いろいろ疑問は尽きないものです。
まず一般的にも聞かれなくなった一番の要因は、単純に流行が終わってしまったから。つまり、死語だからという理由です。
現代はほとんど使用されていない
昭和8年に周知されて以降、昭和末期まで長く使われてきた言葉でしたが、しだいに「差別的ではないか?」という意識が高まっていきました。
ついに平成に入る頃になると、そう呼ぶ人はほとんどいなくなりました。今は映画や小説などのフィクション作品か、お年寄りの悪気ない会話以外で耳にすることはほとんどありません。
ルンペンの生活や仕事はどんな感じ?
定義上は労働の意欲がない人を指しますが、やはり人間は生きていくために日銭を稼がなくてはなりません。では定職を持たない彼らは、日ごろどのようにして糧を得ているのでしょうか?
その暮らしぶりは多様ですが、最も多数と思われる生活スタイルに着目していきましょう。
全く働く意思のない人もいる
もちろん一切働くつもりのない、気力を失ってしまった人もいます。主に橋の下などひっそりと人目につかない場所に、拾い物の寝具やダンボールで居を構えています。
小銭が欲しければごみを見繕ってリサイクルショップに持ち込むといいます。ボランディアの炊き出しや食料廃棄品があるため、貧しくとも飢え死にすることはないということです。
空き缶拾いの仕事をする人も
袋いっぱいに空き缶を集めている人を見たことはありませんか?空き缶は換金が可能で、職をもたない人々の貴重な収入源になっています。
しかし単価は1つにつき約1~3円、キロ単位では100円程度とかなり安価であり、13時間たっぷり歩いても500円程度という厳しさです。少数ながら、月に数万円も稼ぐ熟練者も中にはいるといいます。
日本には生活保護があるのになぜルンペンが存在するのか?
ここで疑問が起こるのは、日本には生活保護という、人が健康かつ文化的に生きるための最低限の保証をしてくれる社会保障制度が存在します。
やむをえない事情で家や収入をなくすなら、公的機関に申請すれば良いのでは?そうすればルンペンにならなくて済むのでは?…誰もがそう考えるはずです。ですが、問題はそう単純なことではないのです。
生活保護は定住して住民票を登録していることが前提
まず生活保護を受ける条件として、住民票を取得していることが挙げられます。つまり申請地にきちんと住所を持っている必要があるのです。住まいを持たない彼らまずこの最初の条件でつまづいてしまいます。
自立の意思を示せば支援センターでサポートを受けることができますが、事情があってそれも受けられない人たちがいるのです。
居場所がバレるとまずい人は住民票が登録できずにルンペンへ
病気や失業といった理由以外にも、様々な事情で就労しない人たちがいます。中には借金取りに追われている・家族に見つかりたくない・警察に見つかるとマズい等々、人には言えない状況から逃げてきたケースも。
住民票から居場所を探られたら困るため、定住地を持たず、ゆえに社会保障に頼ることもできないのです。
ルンペン生活が自由で好きという人もいる
また中には好んで路上生活を送っている人もいます。それまでの生活に嫌気がさした、本物の自由に憧れたから、実は資産を持っているのにあえて住まいを持たないタイプも。
きわめて少数派とは思いますが、人は誰しも自由に生きる権利があるので、犯罪性がない以上は好きな人生を送っても良いでしょう。
ルンペンになったのは意外な理由がある人も
一番多いのは「気がついたらなっていた」というパターンです。大きなきっかけや明確な意思によるものでなく、日雇い生活からズルズルと…という理由だそう。
中には「最初は不安だったものの慣れたら快適、ずっとこのままでいい」と語る達観者もいます。また「引き取り手のない老犬と暮らすため」という切なくも優しい理由を挙げた人も。
ルンペンがつく言葉とは?
「ルンペン」は浮浪者を指す以外にも、いろいろな場所で使われてきた言葉です。ではここで、どんなものに使われてきたのか、代表的な例を挙げていきましょう。
正式名称というよりは俗語・通名で、ご年配の方であれば「そうそう、懐かしい!そういう呼び方してた!」と喜ばれる方もいるやもしれません。
ルンペンストーブ
石炭や薪を燃料とした二筒式ストーブを指して、昔はルンペンストーブと呼ぶことがありました。
筒がふたつあったのはスペア燃料としてであり、通常使用するときはひとつの筒しか燃焼していないため、「誰かが働いている一方で、働いていない者がいる」状態をルンペンに見立ててそう呼んだのです。