スベスベマンジュウガニってどんなカニ?
スベスベマンジュウガニの基本プロフィール
スベスベマンジュウガニはオウギガニ科マンジュウガニ属に属しています。繁殖期は春で、母ガニのお腹に抱えられた卵から孵化した子ガニは、脱皮を繰り返しながら1~2年ほどで大人ガニに成長し、寿命は4~5年と言われています。
成長しても、甲羅の幅5㎝、甲羅の高さ3.5㎝程度の大きさにしかならない見た目は小さなかわいらしいカニなのですが、実はこのスベスベマンジュウガニは強力な毒を体内に忍ばせた、とても恐ろしいカニなのです。
スベスベマンジュウガニの分布域は?
日本にも広く分布
毒をもったカニなので、その生息域も大変気になります。スベスベマンジュウガニは、世界ではインド洋から西太平洋にかけての東南アジア、中国、台湾に分布しており、日本でも千葉県の房総半島から九州、沖縄県の太平洋域に広く生息しています。
海辺の岩場から水深100mほどの深さの海中にまで生息しているので、磯遊びをしている最中に毒ガニとは気付かないまま、しばしば遭遇したり、イセエビ漁の網にかかってきたりすることもあるカニです。
スベスベマンジュウガニの名前の由来
スベスベマンジュウガニの見た目
毒もさることながら、スベスベマンジュウガニという一風変わった名前も気になるところです。まず、スベスベマンジュウガニの甲羅にはズワイガニやタラバガニのような突起やトゲトゲがなく滑らかで、全体的に丸い形状をしています。
ツメ(ハサミ)の先が黒く、甲羅は赤系の褐色から少し明るめの色などさまざまな色に灰白色の模様が入っており、かわいい模様だと感じる人もいれば、中にはペイズリー柄やサイケデリック模様のようにも見えて若干の気持ち悪さを感じる人もいるようです。
その見た目からそのまま命名
さて本題の名前の由来ですが、スベスベマンジュウガニは漢字ではそのまま「滑滑饅頭蟹」と書かれます。名前の由来は、なんのひねりもなく、まさにこの甲羅の表面が「すべすべ」した丸い「おまんじゅう」のようなカニ、というところから付けられたと言われています。
いくら形がお饅頭に似ているといっても、毒を持っているカニにわざわざ食べ物の名前を付けなくてもいいのに、と思われますが、実はこれはカニ類の毒についての研究の経緯に関係しているのです。
スベスベマンジュウガニと毒①毒性の発見と認知
カニによる食中毒
「カニの中にも毒を持つものがあるようだ」ということは海辺の地方や漁師さんの間では古くから言われており、最も古いカニ中毒死の公式報告例とされる1965年の鹿児島県の例をはじめ、カニが原因と思われる中毒例も以前から知られてはいましたが、学術的にどの種のカニに毒があるかという、まとまった研究は長らく行われていませんでした。
スベスベマンジュウガニが有毒認定へ
前項のような経緯があるため、実際のところ、毒を持っている可能性が疑われるカニについての本格的な調査、研究が行われて、スベスベマンジュウガニの毒性が学術的に確認されたのは、実は1968年のことなのです。しかしその後もスベスベマンジュウガニが有毒であるということが一般に浸透するまでには長い時間がかかりました。
ただ、大きさも小型で食用として漁の対象というわけでもないスベスベマンジュウガニは、見つけてもわざわざ食べようとする人があまりおらず、個体調査をすると、まれに無毒の個体も存在するようで、幸いにして現在までスベスベマンジュウガニによる公式な中毒被害の報告はないと言われています。
スベスベマンジュウガニと毒②保有する毒の種類
毒性は地域によって変化
スベスベマンジュウガニはフグなどと同じように、毒を彼ら自身の体内で作り出しているのではなく、食べているエサに含まれている毒素を体内に蓄積しているのだと考えられています。そのため、地域によって保有する毒の種類や量に違いがみられる場合があります。
日本の分布域の北部に生息するものはフグ毒として有名なテトロドトキシンを、九州・沖縄といった南部のものはゴニオトキシン、サキシトキシン、ネオサキシトキシンといった麻痺性貝毒といわれるものを、中間の位置に生息するものはそれら両方の種類を合わせ持っているという調査結果があります。
テトロドトキシンと麻痺性貝毒
テトロドトキシンは海中に生息している細菌が、麻痺性貝毒は同じく海中に生息する藻類がそれぞれ作り出す毒素です。いずれも解毒剤がいまだ開発されていない恐ろしい毒素です。それらの毒素を取り込んだヒトデや二枚貝などを、スベスベマンジュウガニがエサとして捕食するという食物連鎖によって、彼らの体内に毒が蓄積されていきます。